白虎
その晩見慣れない豪華な天井を見つめながら私は昼間告げられた事実を思い返す。
ビュー・キサラーンは王国の人間。またの名を白虎。王国の暗部と言われる組織に属する。彼女の主な任務は交渉。私たちの暮らす国、また王国の周りの国々とお互いの存亡に関わる駆け引きを水面下でしているらしい。それも「ここでは言えないような」事柄について。
「まぁぶっちゃけ言えばあなたのような人を買う、売るってことね。けど他にもいろいろ、ね」
うふっと微笑む彼女。私は笑えなかった。そして何故貴族の屋敷にいるのか納得がいく。彼女が王国の偉い人だからだ。
「……でも、こんなに堂々としていいんですか? 暗部の仕事って表立っては出来ない仕事のような……」
私の疑問に彼女は手をひらひら振って応える。
「いいのいいの、幹部ともなれば自分の思うようにできる権限があるの。暗部らしいコソコソした仕事は龍なんかに任せておけばいいの。私は任務には忠実よ」
「あの、龍って‥‥」
私の聞きたいことを察してビュー……いや、白虎でいこう。白虎はうなずく。
「ええ、ガーナのことよ。彼の暗部の仕事は暗殺。王国にあだなす者を密かに殺してまわるの。自分が殺されるまでね。けど、動きなしで発動できる『尾』なんか龍ぐらいしか使えないし、彼の場合はセンスも実力もあった。最適な仕事だったと思うんだけどねぇ。なにせ食べないから」
「食べない?」
「食べないのよ」
「一切?」
「ええ。一切。飲み物しか。まぁ大地の力で補ってるんでしょうけど」
「いつから?」
「そうね、彼が『龍』になってから、ずっと」
寝返りをうった。今私が寝ていたのはさっき寝ていたベッドではない。部屋を変えてもらった。いや、もう起きたときに全裸の美女と一緒に全裸でいたくはない。何もしてないのよ、ただ身体をね、うふ、ふふふ、ねぇ。なんて白虎は言っていたけど信用できない。
いろいろとわからないことだらけだ。心配なこともある。母さんのこと。ガーナと一緒においてきてしまった。危ないことに巻き込まれていないだろうか。
母さんが、ガーナを泊める前に彼に言った「人買い」あれは怪しいと思った人を見分けるために尋ねる。やっぱり母さんの勘は当たっていたのだ。
また寝返りをうつ。それよりも自分の心配をしないと。白虎が一日を終えて私に最後に言った言葉が頭から離れない。
「いい? お休みする前にこれだけは覚えておいて欲しいんだけど」
私の右頬に手をそえて、
「あなたは私に買われたの。つまりあなたは私の所有物。愛でようが引き裂いちゃおうが私の自由。あなたに人権はないのよ。これだけはよく覚えておいて」
彼女もまた王国の人間。安全とはこの場所では言えないのだ。自分の身は自由で守らないと。短刀は持ってない。きっと運ばれるときに落としたのだ。
暗闇の中で目をつぶる。サラのことを思い出す。無惨に殺されたサラ。父親と同じように巻き込まれたサラ。
「……ごめんね」
一言つぶやいた。暖かい液体が右目から一筋つたって布団に黒いしみをつくった。
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