矜持

 ーー夢を見ていた。

 燃えさかる炎の中で女性に行かないでくれと俺は懇願する。しかし彼女は行ってしまう。そしてーー

 ーーあなたは龍になります。それも#####な龍に。

 

 場面が切り替わった。魔法使いの声が響く。ーー大魔法!ーー身体が変形していく。おぞましい不快感に喚いた。隣の女がもがきながら倒れた。その手がグニグニと巨大化していく。ーーさぁ喰らえ! 魔法使いが叫ぶと同時に俺は奴に飛びかかった。

 

 途端に俺は孤立する。周りは敵だらけだ。即座に両腕を振る。ああこれはもう何回、何十回と繰り返してきたことだ。血の噴水の中で戦う。切られ切り裂かれ、殺し殺され、何度死にたいと願ったか。でも「記憶」が死ぬことを許さない。俺は「記憶」のためだけにーー

 

「おい死に損ない、起きろ」

 飛び起きた。

「爪!」

 正面の木造の壁に俺の放った切傷がつく。けど、居ない!

「こっちだ、ガーナ」

 後頭部が衝撃に襲われる。床と天井がひっくり返る。

「がっ……!」

「そのタフさだけは評価してやる。しかし食わないでこれだけ動けるとは恐ろしいものだな。発現もしていない虚弱体質の『龍』のくせに」

 腹に足が食い込む。止まった息を吐き出すまもない。身体がかべに叩きつけられた。

「『朱雀』……!」

「ここで死んでいけ」

 眼前に現れた青年の目を見て死を悟る。何故かこの宿屋の娘の声を思い出した。ーー母さんを泣かした。謝れ。

「……鱗」

 薄くわらってつぶやく。ちょっと向こうで倒れている女性はきっと「母さん」だろう。

「……すまない」

 彼女が死んだらあの娘は怒るだろう。巻き込んだ。本当にすまない。けどやはり俺は死ぬわけにはいかないんだ。「記憶」の全てを知るまでは、俺は死ねない。

「……お前は『忘れてる』だけなんだよ、『朱雀』……!」

「何をゴタゴタ言っている」

 朱雀の全身から火が噴き出す。炎が床から広がっていく。こいつ、全部焼き尽くすつもりだ。木造だからあっというまに炎に包まれた。

 その中で朱雀の声が響く。

「私は王国にあだなす者全てを粛清する。全ては王のために。全ては王国の栄光の未来のために。王が世界の支配者となるために。お前も『玄武』も『白虎』も、裏切り者は私が一人で片をつける。初めはお前だ。聖なる炎に焼かれて地獄に堕ちるがいい」

 熱が全てを包み込みーー視界が赤く染まった。

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