道中
親がいなくなった子供を一人にするわけにはいかなかった。なんとか言いくるめてサラと歩く。とりあえずうちに連れて帰ってなんとかしよう。
そしてダヤナ(馬車)にのせる。銅貨を御者に渡して一緒に帰る道中。
「おい、ちょっと待てよ!」
一人の青年が前に飛び出してきた。
御者が慌てて馬の手綱を引っ張る。土埃をたてて止まった馬車に青年が近寄ってきた。そして私に呼びかける。
「なぁ、あんたガーナとかいう男を知らないか?」
ヤバい、直感が叫ぶ。脳が全力で回転し出す。
昨日というか今日あんなことがあったばかりだ。
この男、ガーナを知ってるってことはさっきの一味‥‥! 動物みたいな力を使う「王国」の者‥‥!
「さぁ、誰それ?」
言いながら、身をかがめて青年から見えないようにニー(鞄)から短刀を取り出す。
「知らないか? ほら、背が高くて、やせてる男なんだけどさ」
タリガノ(布)をゆっくり外す。現れた刃に妙に冷静な翠の瞳が映る。
「じゃあ、この銀貨、嬢ちゃんのか?」
男が取り出したのは二枚の銀貨。
「そこの武器屋の兄ちゃんが持ってたんだけど」
私が取り出した短刀を目を丸くして見つめるサラは雰囲気を察して黙っている。
「おかしーなぁ、この銀貨から独特の『龍』ガーナの匂いがするんだけど。兄ちゃんの言ってた女はたぶんあんただろうし」
誤魔化し切るのは無理だ。悟った私は座席から勢いよく立ち上がる。短刀を前に構えて。
「だったら何?」
「おお、威勢良いなぁ。話がはえぇ。『袋』にしたら良質そうだ」
青年がわらう。その口から異常に長い犬歯が除く。そして。
「じゃあ死んでけや!」
左腕を振った。御者がのけぞる。首に赤の線が走る。次の瞬間血を噴きながら地面に転がり落ちた。
また死んだ。また、また死んだ。
怒りか衝撃か。わからない。ただ視界が明滅する。こんな短時間で、また人が、いとも簡単に死んだ。
「よっと」
人間とは思えないほど高く飛び上がった青年は私の目の前に着地した。
動けない。サラを背中にして、短刀を構えた私と青年は至近距離で睨み合う。ピリピリと空気が張り詰めていきーー
「やっ!」
短刀を突き出した。
「やっ! やっ! やあっ!」
刃が空を切る。ビュッ、ビュッと音を立てる。青年は驚いたように身をのけぞらせーー
「やるじゃねぇか」
腕を振りかざしてーー
ガチン!
短刀の刃と鉤爪状にした手がぶつかり合って火花が散る。チッと舌打ち。瞬間大きな力が短刀に加わる。ヤバい、押し負ける。歯を食いしばりふんばるが、くっ、こ、れ、は!
「ぐっ!」
「どけ!」
力に吹き飛ばされた。短刀が手を離れて飛んでいく。身体が宙をまう。背中に地がぶつかって息が止まる。けど、待て!
息ができないまま飛び起きた私が目にしたのは、
青年が左腕を振り下ろす姿と、サラの乗っているはずの座席から血が飛び散る光景だった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます