第24話 人望

 チャラ男の自己紹介が終わり、午前の授業も一段落した頃。彼の周りには人だかりができていた。


「2限の数学で出てきた証明問題について教えてよー。お昼奢るからさー」

「ごめん番長君、英語得意?教えて欲しいとこがあるんだけど……」

「それ終わったらでいいからちょっと頼みたいことが……」


 そう。正確に言えば後ろの席に座っている番長に用がある女子達に囲まれていた。

 恨めしい目線を送るチャラ男を無視しながら番長は彼女達の要望に答えてゆく。


「円周率が3.1以上であることの証明だろ?昼休みでいいなら教えるぜ」

「すまん、英語はちょっと苦手なんだ。多分八街の方が分かりやすく教えてくれると思う」

「そのノート運べばいいのか?俺がやろう」


 そうして番長が席を立つと、彼に用事のある生徒達はそれぞれ自席に戻ったり、次に頼れる生徒――大体は八街明里である――に声を掛けたりしていた。


 転入生が来たというのに、あたかもそこには誰もいない、いや何もないかのように彼に声を掛けるものは居ない。


 番長が入った当時もそうだった。初の男子ということと、彼自身積極的に声を掛ける性格では無いため一週間程度は勘ぐる八街と東の二人以外に声を掛ける生徒は居なかった。


 ではチャラ男も一週間たてば声をかけてもらえるかと言うと、決してそうではない。


 番長が今のように頼られる存在として認知されたのはあくまで絡まれていた東を助けたからであり、外見的にはむしろ絡む方に分類されるチャラ男が何もせず話しかけられる事はほぼ無いと言えるだろう。


 だが、彼はそれでも諦めない。数十か国でナンパしては断られ続けてもなお諦めない精神のなせる業である。


 一念発起した彼は、先程まで女性徒に頼まれて英語を教えていた八街明里に話しかける。


「えーっと、八街ちゃんだっけ?ちょっと俺と……」

「お断りしますわ。あいにく、貴方の様な男性と話すことは有りませんもの」


 誘、即、断。


 涼しい顔で即刻断られても、彼は持ち前の精神力で諦めない。諦めなければいつかは実が実る。それが彼の持論である。


「そんな事言わずにさぁ、番長とは話してるじゃん?そんな感じでいいからさ」


 番長を引き合いに出して会話を試みようとするチャラ男。

 だがそれが逆に彼女の逆鱗に触れた。


「貴方と番長が同じ?面白くもない冗談ですわね。はっきりと申し上げますが、貴方と彼では人望が違いすぎましてよ」

「えっ……と」


「貴方のような男に絡まれている女性を助けた事は有りますか?『守って欲しい』と言われたから勝ち目の薄い相手に果敢に挑みに行ったことは?その結果深手を負っても恨み言一つ言わない器量は有りますか?」

「……」


「一口だけ食べて不味いと分かっている料理に文句一つ言わず、作った者に改善点を述べて完食する事は出来ますか?彼は全て行いました。私に話しかけたいのであれば、どれか一つでも成し遂げてから声を掛けて欲しい物ですね」


 捲し立てるように、番長の行ってきた事の数々が出来るかと問い詰める彼女。


 反論できず黙りこくるチャラ男に対し、教室にいた女生徒達はなんとも言えない表情をしていた。


 というのも、どれか一つでも成し遂げたら認める、それは裏を返せば全て行った番長とは気の置けない関係になっているのでは?


 彼女達はそう推測し、顔を見合わせるのだった。

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