チャラ男、襲来

第23話 二人目の男子

 一週間経ったある日、1-Cの教壇に立っていたのは先生ではなくとある生徒だった。


「ぁ……ネイチャー・ラオートって、言います……」


 番長と同じく学ランに身を包んではいるものの、第2ボタンまでは留めていないため下に着ている赤いシャツが見えている。


 当然そのような格好をした男子の自己紹介なぞ、名門校この空間では相手にされず、教室には冷めた空気が漂っていた。


 そんな中、ナンパ師である彼はその空気が自己紹介が上手くいかなかったからだ、とズレた分析をしていた。



 俺から見て右奥、窓際一番後ろに座っているアイツからのプレッシャーが凄すぎて、俺は緊張してドモりながら自己紹介した。


 昨日までのリハじゃ、


「南チェリドーから来たネイチャー・ラオートっでーす!ぃよろしくぅ!!」


 とイケイケで言えたってのに、あんまりっしょ……。


 色々と言いたいことがあるってのに、センセーは俺の自己紹介が終わったと勘違いしたのか、座る席を教えてくれた。


「それじゃ、ラオート君の席は……番長の前にしよう」

「ち、ちょタンマ!俺眼が悪くて……あんま後ろの席は勘弁的な?」


 朝、校門をくぐった瞬間に脅された相手がすぐ後ろにいるとかマジ勘弁。てきとーにゴネてそれだけは避けねーと。


 今もほら……俺にガン付けて……。


 彼は先ほどからプレッシャーをかけている番長の方をチラリを見るが、当の本人は漫画雑誌を退屈そうに読んでいた。


「って、漫画読んでんじゃねーよ!」


 思わず突っ込むチャラ男、それに気付いて顔をあげる番長。


「そこからコレが漫画本だって分かるくらいは見えてるじゃねーか。十分だろ」


 その言葉を受けて初めて、彼は番長がワザとそうしたのだと理解する。


「狭間先生、男子は男子で固めた方がいいんじゃねーか?なにかと手がかかりそうだしよ」

「そ……そうだね。じゃあそういうことで」


 動揺している担任を見て、転入生の彼は番長こそがこの教室の支配者なのだと確信し、絶望した。


 とぼとぼと指定された席に向かうと、当然番長と目があった。彼の不敵な笑みを見ると、先ほどの脅しがフラッシュバックした。


 ――――――――


 遡ること一時間前。午前7時を回ろうかという時間にも関わらず、転入生のチャラ男は待ちきれずに学校に来ていた。


 なにせその時の彼は、学校ここが男子が自分一人のハーレムだと勘違いしていたのだ。逸る気持ちも分からなくない。


 だが、その考えが間違っていた事を、彼は即刻知ることになる。


 思わずスキップしそうな足取りで校門をくぐると、その陰から突然声を掛けられた。


「よう新入り。ちっとツラ貸しな」


 そういいながら馴れ馴れしく肩を掴んできた男の風貌は紛れもない番長そのものだった。


 キッチリと学帽を被ったイカツい顔に、分厚い胸板で膨らんだ学ラン。ズボンはボンタンではないがその分丸太のような足の太さが一目瞭然である。


 それを見て、チャラ男はケンカじゃ勝てない相手だと一目で分かったのか、抵抗する気も、何故元女子高にこんな男がいるのかツッコむ気も無くなっていた。


「ここじゃアレだしよ、場所移ろうや……」


 肩を組まれたまま移動した先は、人目につかない校舎裏だった。


 転入早々カツアゲとかついてねーわ……と思う彼の耳に、今一つ要領を得ない言葉が飛び込んできた。


「てめーに聞きたい事がある。ここに来た理由は何だ?」

「え?」

「え?じゃねぇよ。早く答えな。じゃねぇと……」


 番長は足元に転がっていたコンクリブロックを片手でひょい、と持ち上げると両手を使って砕いて行く。

 それはまるで発泡スチロールをちぎるかのように瞬く間にバラバラになっていった。


 その光景は、チャラ男の口から本音を飛び出させるには十分な威力があった。


「男子がいない女子高でハーレム築きたいって夢見てました!サーセンっした!」

「正直で何よりだ。そんで残念だがその夢は諦めろ。この学園の生徒誰一人とも手出しさせはしない」

「ッス………」

「安心しろ。それを守るなら俺は何もしないし、何かあれば力になってやるよ」


 こうして、チャラ男の女子に囲まれるという夢は女子に話しかける前に潰えたのだった。



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