第21話 弁当

 翌日の昼、とある女子生徒は中庭に浮かれた足並みで向かっていた。


 彼女の目的は、もちろん学園の有名人二人の絡みを見ることだった。


 最近になって登校を始めた生徒会長と、学園一のお嬢様である八街が一つのテーブルでお茶会をしている様は一週間も経っていないにも関わらず一種の名物になっていた。


 今日もそれが見られるのだろうと軽い足取りで向かうが、今日に限って二人ともいないどころか、八街の使用人達すら居なかった。


 では、当の彼女はどこにいるのかと言うと――


 教室にて、俺は東と八街のやり取りを弁当片手に眺めていた。


「本日からは自分で作ったお弁当を食べることにしましたの!」

「え……」


 弁当を出す前に胸を張って高らかに宣言する八街、それを聞いて青ざめる東。

 そのリアクションから察するに、東は八街の料理の腕と、それから産み出される物を知っているのだろう。


「作ってる途中でさ、味見した?」

「え、ええ。もちろんしましたわ。最初こそ酷い味でしたが、回数を重ねるうちになんとか食べられる位には……」


 そこまで聞いて安心したのか、東は胸を撫で下ろす。そして、食べてみたいとせがんだ。


「そこまで自信があるなら、一つ食べさせて欲しいなぁ~」

「よろしくてよ。まずは開けましょうか」


 白い小振りの弁当箱を鞄から出した八街は、勿体ぶってその蓋を開ける。


 そして現れたのは、色とりどりの生野菜たちだった。それを見た俺たちは……


「「それ料理じゃなくない!?」」


 と声を揃えて言うのだった。


 ――――――――


 それから5分もしない内に、八街は俺たちに泣きついてきた。


「見栄を張って『これからはわたくしが自分のお昼を作りますわ』と言ってから、シェフ達は『なら私達はこれで』と言わんばかりに働かなくなりましたわ……」


 一口ずつ大口で頬張る俺たちに向かって、八街は涙ながらに語る。


 聞けば、それからシェフ達は働かず、今まで昼休みに出張調理をしていた者さえも今が好機と言わんばかりに休暇届けを出したとか。


「わたくしは朝から何も食べていないんですの……後生ですわ……何卒お助けを……」

「仕方ないなぁ……ほら」


 そういって自分が使っていた箸で冷凍食品のコロッケを差し出す東。ノータイムで飛び付く八街。


「あぁ~美味しいですわ……普段禁じられているお肉……という………」


 咀嚼を繰り返し、述べた感想を途中で切る八街。自分が何をしているのか今になって分かったようで、顔を赤くして押し黙る。


 東が使っていた箸で掴んだ者を食べる。つまりは間接キスである。


 東もそれには気付いていた様で、八街よりも顔を赤くして彼女の口から引き抜いた箸をまじまじと見ていた。


「そ、そう!?それは良かったなー…あ、あはは……」


 あくまで八街の弁当箱に乗せようと思ったのだろう。


 予想しない行動に出た彼女に若干引き気味の東は、どうしても目の前の彼女が口をつけた箸が気になるようで、それ以降は彼女の顔と箸先に交互に目線を移動させるのだった。

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