第15話 百合の間に挟まる女

 改めて教室に戻ってきた姉弟は、全くもって対照的だった。


 体つき、性格、そして何より……浮かべている表情。


 満足げな顔をした姉は黒板前に移動し、隣でしょげている弟を皆に紹介する。


「改めて紹介しよう。我が愚弟、五所川原ごしょがわら 長次ちょうじだ」

「姉貴、俺はもう家を出たからその名字じゃない。それにその愚弟って言うのを止めろ。なんだかダラけてるように聞こえるだろ」


「む?愚かなのは本当の事では無いか。やましいことは何もしていないのに父親に言われただけで『はいそうですか』と家を出るとは、実に情けない。それでも我が弟か?」

「ぐっ……」


「言い返せないという事はそういう事だ。全く……それでも男子か貴様は」

「……」


「まぁいい。説教はまた今度だ。今日は我が愚弟が暴力に走るような危険人物じゃない事をみんなに知らせるために来た事にしておこう」


 やれやれ、といった表情を浮かべた姉は、何も言わなくなった弟に耳打ちする。


「ただ……八街君は僕が貰っていく。もし貴様がその間に割って入る事があれば……分かっているな?」

「っ……!」


 弟は何か言い返そうとしたが、既にその相手は姿を消していた。


 番長は今までの中でこれ以上無いほどに焦っていた。

 姉貴が八街を狙っている――これが何を指すのかよく分かっていたからだ。


 武力では先程のように勝つことは出来ず、不利な情報を掴もうとしても、「あの」姉にそんなものは無いように見える。


 生徒達からの信頼も厚く、もし俺が情報を掴み、流したとしても効果は無いだろう。

 現生徒会長と俺、どちらの言い分が正しいかなんて火を見るよりも明らかだ。


 どう対策を取ればいいのか分からない。だが、それでも諦める訳にはいかない。


 俺は、百合の間に挟まる男の事が死ぬほど嫌いだ。では、男ではなく女なら良いのかと言うと答えはNOだ。


 女子が一人増えてお得じゃん!と声をあげる者もいるだろう。だが、俺から言わせてもらえばそれは百合を勘違いしている。


 百合とは鑑賞する物であり干渉する物ではない。


 女が一人増えてお得?そんなものは「ハーレム作りたいけど女子同士不仲になるだろうから元々仲のいい所に混ぜてもらおう」と思っている干渉する側クソ野郎共の考えだ。


 鑑賞する側の意見は「二人の間には二人の関係性があるのだからそれを壊すな」というものだ。

 そこに男女の区別など無い。


 つまり、東と八街の間に姉貴が入ることも俺は良しとしない。良い結果になるはずがないのだから。


 もし、万が一、天と地がひっくり返ったとしても無いだろうが、姉貴と八街がくっついたとしよう。

 そうなると十中八九、八街は東の事など気にかけなくなるだろう。つまり、東が悲しむ事になる。


 悔しいが、姉貴にそれほどの魅力が有る事は認めざるを得ない。


 だからこそ姉貴を止めなければ行けない。東を悲しませる訳には行かないからな。

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