第14話 姉貴、襲来

 俺は震える体を抑えつつ、平静を保っている様に見せかけて最大限トボけた。


「姉?俺には姉は居ないし、何より苗字が違うじゃないか」


 事情を知っている東と八街には速攻でバレる嘘。我ながら程度の低い言い訳だ。


 周囲の生徒は事情が呑み込めず、混乱している様子だ。


「沙希様と番長が兄弟?」「にしては似てないような……」「番長の言う通り、苗字も違うし……」


 そんな周囲の言葉は、姉貴の一言で一斉に止むことになる。


「ふむ、ならば、その体に直接聞いてみるとしようか」


 その目はまるで得物を狩る百獣の王の様で、俺は身震いを隠せない程になっていた。

 だからか、反射的に退避行動に移る。後ろ扉は陣取られていて使えない。前扉は途中で捕まるだろう。


 結果的に取った行動は、3階からの飛び降りだった。


「ちょっと番長!?」

「貴方、何をしているのか分かっているのですか!?」


 二人の静止よりも早く背後の窓の鍵を開け、幅跳びの要領で助走をつけて空中へと逃げ出した。

 眼前には飛び移れる建物は無く、ただただグラウンドが広がっていた。


 そのまま重力に引っ張られ、地面に叩きつけられる。

 誰もがそれを想像していたが、俺とて姉貴の事が文字通り死ぬほど嫌いなわけではない。


 飛び移れないにも関わらず幅跳びの様に飛び降りたのには理由がある。

 横向きの運動を利用して着地時に回転することで着地の衝撃を和らげるのだ。


 俺の目論見通り、完璧な五点着地が決まる。

 無傷な事を確かめると俺は姉貴から遠ざかるべく、脇目も振らず駆けだした。


 ――――――――


 一方、教室では突如の飛び降りにその場の全生徒は窓の下を食い入るように見ていた。


 その視線の先には前転しては何事も無かったかのように走り出す番長の姿があった。


「やっぱり番長ってなんでも出来るね……」

「そうですわね、若干……人の域を超えている所もありますが……」


 二人の会話に、生徒会長は割って入ってきた。


「ならば、君達の心を掴む為に愚弟よりも優れた所をお見せしようじゃないか」


 窓を乗り越え、身投げしようとする生徒会長。そしてそれを止めようとする取り巻きの生徒達。


「沙希様!死んじゃいますよ!」

「っふ、この僕が君たちのような可憐な女性を残して逝く訳が無いじゃないか」


 その言葉に教室はまたもや沸き立つも、生徒会長はその隙に窓を乗り越えて空中へと飛び出た。


 だが、彼女の行動は番長と何一つ違う。


 驚くことに、彼女は背後の校舎を足蹴にして走り去る番長の背中目掛けて突撃したのだ。

 ロケットエンジンを詰んでいるのかと錯覚するような速度で直進し、彼女は弟に激突して組伏せるとこれ以上抵抗できないように後ろ手を掴み捻り上げた。


「あだだだだだ!!!ギブギブ!!認める!認めるから!」


 その言葉を聞き拘束を解く生徒会長。その顔は満足そうだった。

 対してその弟はこの世の終わりのような顔をしていた。

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