第13話 俺の苦手な物
昼休みが終わる5分前になってようやく八街は教室に戻ってきた。
いつもであれば遅くとも午後の授業が始まる15分前までには戻るはず。ふと気になったので何故遅くなったのか聞いてみることにしたが、さっきまで話し込んでいた東が代わりに聞いてくれた
「あ、おかえりー。結構ギリギリだけどどうしたの?」
「それが……あまり話したくありませんの」
「き、気になる……まぁ話したくなったら話してね」
そんなやり取りを交わしていると午後の授業が始まることを告げるチャイムが鳴り、東は慌てて自席へと戻っていった。
俺は未だに浮かない顔……というか何か考え事をしている彼女へと声をかける。
「手伝えることがあったら言ってくれ。力になるぞ」
その言葉に、彼女は力なく頷いた。
5限目は国語の時間。優等生である八街には珍しく、教科書を忘れてしまったと先生に言うと俺の机に自身の机をくっつけて、教科書を見せて欲しいとせがんできた。
そして、まるで印字したような正確さを誇る字で自分のノートに相談事を記す。
『先ほどの件ですが、大きな声では話せない内容ですの、筆談で失礼しますわ』
俺は教科書の音読をしている先生に気付かれないように、顔に出さずに筆談で返事をした。
『続けてくれ』
『昼休み、馴れ馴れしい方に声を掛けられました。もしかしたらまとわりつかれるかもしれないので守って頂けないかと』
『分かった。東には知らせるのか?』
『わたくしから声をかけておきますわ』
『頼んだ』
――――――――
そうして本日の授業が全て終了し、わたくしは帰りの車を待っている間だけでいいので番長へ教室に残っていて欲しいと頼んでおりました。彼は嫌な顔一つせず引き受けてくれました。
他にも談笑を続ける生徒がちらほらといる中、突如後ろ扉が勢いよく開かれると共に聞き覚えのある声が教室に響きます。
「明里ちゃん、僕と一緒に帰ってくれないか?」
後ろ扉から姿を現した生徒はその目を閉じ、右手で黒髪を
昼休みに中庭で見た光景を繰り返すかのように、教室に残っていた生徒たちはきゃあきゃあと黄色い悲鳴を上げ「沙希様、沙希様よ!」とはしゃぎたてます。
そして台詞を言い終わり、目を開いた彼女の視線はわたくしに…ではなくその陰にいる番長へと向けられておりました。
当の番長は冷や汗をかきながら視線を逸らします。先ほどまでの涼しい顔はどこに行ったのでしょう。その疑問を口にする前に、答えが五所川原先輩の口から飛び出しました。
「おやおや、今日はずいぶんといい出会いに恵まれた日だ。そう思うだろう?我が弟よ」
彼女は、わたくしが唯一知っている番長の弱点である、彼のお姉さまだったのです。
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