第9話 勘当の理由

 番長の疑惑が晴れた翌日、わたくしは昼食から戻ると半ば呆れながら彼の席を見つめておりました。


 というのも、一昨日までは彼の周りには誰も近寄らなかったのですが本日は力仕事を頼む人、勉強を教えて欲しいとせがむ人などが次々と彼の元へとやってきます。


 昨日の一件をきっかけに皆さんの中で彼への評価が上がったからでしょうが、いくら何でも変わりすぎでしょう。わたくしはそれに呆れていたのです。


「話してみると思ったより怖くなかったね」

「そうだねー。勉強の教え方も丁寧だし」


 クラスメートたちはそういった旨の言葉を口にします。

 最初の二週間こそ彼に対する周囲からの評価は、


「怖い」「目を合わせられない」「凶暴そう」


 等マイナスイメージしかありませんでした。ですが、今となっては、


「見た目によらず優しい」「イザというとき頼れる人」


 と言った好意的なイメージの方がよく上げられるようになりました。

 ですが、わたくしだけはその評価に疑問を持っております。


 先日までに収集した彼の情報を総合するとまだその余地が有ると考えている為です。


 文武両道で冷静沈着、頼りがいがありお人好しな一面も見せる。そして、姉嫌いかつ


 どうしてもわたくしには最後が引っ掛かるのです。先日お父様からその事を聞かされた時も、彼はその理由を語らなかったとのことでした。


 それについてお父様は「あの風貌だ、暴力沙汰でも起こしたのだろう」と仰っておりましたが、わたくしはそのような理由では無いと思っております。


 過去のニュースを遡っても彼が12の頃に同年齢が起こした暴力沙汰の事件が取り上げられた記録が無かった為です。

 それに、これまでの観察からしてそう容易に手を上げることは無いだろうと直感しておりました。


 つまり、彼が勘当された理由は家庭的な事情に依るものでは無いか、それがわたくしの答えです。

 姉が嫌いというのもそれが関係しているから、という解釈が出来ますし。


 今の段階ではここまでが精一杯でしょう。

 最近、栗栖からの報告は好意的なものしか得られておらず、判断材料が増えないのです。


 ならば直接彼から聞いてしまう方がいいでしょう。正直に今まで秘密裏に探っていたことを告げて、勘当の理由を聞けば安心できることをきちんと伝えてからにはなりますが。


 当の番長は未だに代わる代わる訪れるクラスメートと喋っていましたので、授業中にこっそりと「用があるので放課後に時間を頂けるか」という旨の事を伝えましょう。


 ――――――――


 八街から授業中に「用があるから放課後三階多目的室に来てくれないか」というメモを受け取った俺は、夕日が差し込む多目的室で彼女を待っていた。


 学園の人気者からこのようなメモを受けとればさぞかし最高の気分だろうが、俺はむしろ焦っていた。


 万、いや億が一にも彼女から好意を伝えられた場合、俺の目標である「八街と東の復縁」は遠ざかるからだ。


 このような状況で告白ではないことを願う者は俺と、最初から遊び感覚で手を出して責任を取ろうともしないクズ野郎くらいだろう。


 しばらくして姿を表したのは八街と東の二人。共に何やら緊張している面持ちだった。


 顔には出さないが俺もしっかり緊張していた。だがここで足掻いてもどうしようも無いため腹を括って彼女たちが切り出すのを待つ。


「最初に、わたくしは貴方に謝らないといけません。申し訳ありませんでした」


 八街は頭を下げて謝罪をした。何故謝るのか事態が飲み込めない俺に八街は姿勢を戻して話を続けた。


「入学してから本日まで、わたくしは貴方の事を秘密裏に調べていたのです。この学園に在籍していい方なのかを見極める為に」


「そういうことか。まぁ、こんな見た目の男が入ってくればそりゃ疑いたくもなるわな。で、その結果を知らせるために呼んだのか」


「半分正解ですわ。あと一つ、たった一つだけ懸念があります。ここにお呼びしたのはそれを確かめる為でもあるのです」


 東はそれが何を意味するのか分からないらしく、慌てた様子で八街に質問する。


「明里、どのことを聞くつもりなの?お姉さんのことが苦手なことについて?」


「それもありますが、一番お伺いしたいのは、何故貴方が12の時に勘当されたかについてですの。それを聞けば真に貴方が信頼に足る人物なのか判断できますもの」


 それを聞いて、東は初耳だというリアクションを取り、それをそのまま口にした。


「番長って勘当されてたの!?あー……だから一人暮らしだったんだ……」


「八街から聞いて無かったのか?まぁいい。隠すようなことじゃないし、きちんと話そうじゃないか。ただ、結構長くなるから座った方がいいぜ」


 俺は立て掛けてあったパイプ椅子を二つ彼女らに渡し、それに座るように促すと俺自身も座って過去を話し始めた。

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