第8話 【プロローグ】
「さあ始まりました!高校生対抗城取ゲームです。解説はアナウンサーの
「宜しくお願いしまーす。」
スタッフが手にしているカメラに向かって好感度ランキングナンバーワンの男性アナウンサーが爽やかな笑顔を浮かべる。アナウンサーに負けじと満面の作り笑顔を浮かべるのは亀崎だった。
2人が画面に映し出されるなり画面下に表示されるコメント欄は騒がしくなった。この動画配信アプリではリアルタイムで画面を見ている人たちが感想を共有できるような機能が備わっている。
伊吹アナウンサーかっこいい!/動画配信屋の人イケメン!/何この番組―?番組表にあったっけ?
亀崎と伊吹の前にノートパソコンが置かれておりゲーム中のプレイヤーの様子とコメント欄を確認することができた。この二人の後ろではリアルタイムでスタッフたちが動画を編集作業を行っていた。また動画の詳細ボタンを押すとゲームの詳細や参加者のプロフィールが動画の視聴者に表示された。
再生回数の桁数が徐々に上がっていくのが分かる。その様子を見て亀崎は満足したような表情になった。
「まず株式会社動画配信屋について説明します。『Do!ガ』アプリを運営する会社で何と4千万ダウンロードを突破した国内で今最も勢力を伸ばしている会社と言えるでしょう!特に若者に人気がありテレビで放映しないような企画が売りだとか。社員の方も爽やかですねー」
「いや伊吹さんには負けますよ。日曜日の昼からご出演ありがとうございます。僕の初企画になるので楽しみです」
亀崎が世辞を述べて場の雰囲気が柔らかくなる。2人が待機しているのは廃校となった学校の校庭だった。
少子高齢社会により廃校を余儀なくされた高校で建て壊されることが決まっていた。多少の損壊を見越してこの場所を会場設定した。高校の周辺は田畑に囲まれており人が大勢集まってくる恐れもない。
今年で築80年を迎えるということもあって建物の構造は古かった。エレベーターもなければ下駄箱は誰に使われることもなく錆びついている。
「それではゲームの説明をしましょう」
伊吹が良く通る、聞き取りやすい声で続けた。
「この3階建ての廃校を城に見立て、城を守る側と攻める側に分かれて争うゲームです。廃校の屋上にある旗を手にすれば攻め手側の勝利、1時間内に旗を手にすることができなければ守り手側の勝利となります。
今回のゲームの見どころは何といっても…異能を持つ高校生と一般の高校生の対決になるということでしょうね」
伊吹の解説で更にコメント欄が騒がしくなるのが分かった。新しいコメントが現れては画面からすぐに消えてまた新しいコメントが書き込まれていく。
たった数文字の言葉達は視聴者の一瞬の感情を表すためだけに生まれては死んでいった。その言葉達には何の重みもない。ただ群れをなしてやっと「大多数の声」として存在する意味を持つようになる。
ギフト持ちVSアザ?/勝敗が目に見えてるww/日曜日の昼過ぎという虚無にぴったりな動画/面白そうなゲームだな。
「そうですね。異能を持つ高校生……桜咲高等学校の皆さんには能力を駆使して城を攻めてもらいます。一般人の高校生である神有高校の皆さんには知識を振りしぼって城を守ってもらいます。
城の攻め手は能力の使用を政府から許可していて、守り手側も罠をしかけて侵入者の行く手を阻むことができます。
ただ相手を直接攻撃することは禁止とします。壁を作るなど相手の行動を制限する手法はありです」
亀崎の解説に伊吹が興奮したように食いついた。スポーツ実況を担当したことがあるアナウンサーだけあってただのルール説明ですら盛り上げるのが上手かった。
「面白いゲームですね!異能者は自身の能力を活かして困難を乗り越え、一般の高校生は自らの知識で異能者と立ち向かう。お互いのチームワークも試されますね…。我々はどんな青春活劇を目の当たりにするのでしょうか!
それではメンバーの代表に意気込みを聞いていきましょう!」
伊吹が校庭に並ぶ12人に視線を向けると同時にスタッフのカメラが横一列に並ぶ生徒たちを映し出す。
「桜咲高等学校チームリーダーの佐藤はじめです。自分の能力を活かしてゲームを楽しみたいと思います」
はじめが人の良さそうなはにかんだ笑顔をカメラに向ける。はじめの隣にいた水姫が満面の笑みで手を振った。
「今日は友達と頑張るよー!」
「
緊張した様子で賢仁がコメントを述べる。その様子に
律に至ってはどれだけ自分の将来に必死なのかと蔑んだ視線を送っている。
桜咲高等学校のチームが私服であるのに対し、神有高校のチームは学校指定の制服やジャージ姿だった。そもそも桜咲高等学校に制服はないのだがそのせいで桜咲高等学校の生徒達が益々目立っていた。視聴者はどちらのチームか一目で判断することができた。
「それでは各自準備を終えたら持ち場に待機次第ゲームスタートしまーす」
亀崎のこのセリフが合図となり両チームが円陣を組んで気合を入れる。そう言う台本になっているのだ。
円陣を組んだ瞬間に
「……作戦通りに行こう」
他のメンバー達は頼に応えるように頼の言葉をかき消すぐらいに大きな声で「応!」と声を上げた。相手チームからもそれに負けまいと気合を入れる声が聞こえて来る。その姿を見て伊吹が感動したように声を上げた。
「やっぱり学生同士の絆っていいものですね。まさに青春!この一言に尽きます。CMの後いよいよゲームスタートです!」
撮影が一時的に中断されると慌ただしくゲームの準備が始まった。頼は支給された透明なゴーグルを身につける。これはウェラブル端末でチーム同士で連絡が取れるだけでなく視覚カメラによって本人が見ている映像を録画することのできた。
全員がゴーグルを装着し終えると神有高校のメンバーは走って廃校の中の仕掛けへ向かった。仕掛けの近くにメンバーが控えることになっているのだ。
頼と
昇降口でスタンバイしている桜咲高等学校チームの6名も同じようにゴーグルを身につけていた。そして2機の小型ドローンが飛んでいる。2つのドローンは共に顔を識別し2つのチームをそれぞれ追うように設定されていた。
「私といっちゃんとありちゃんが左側、ゆーちゃんとリス君、リッキーが右側の棟を攻めていくんだよね!ワクワクするなーっ」
水姫がチームに同意を求めるように振り返った。水姫は今日も変わらず制服風の格好をしてきていた。スカート姿ではあるがスパッツを履いて準備万端である。
「ワクワクって……全部私たち流れを知っているのに?」
「僕らは台本通りにアザを叩き潰せばいいんでしょう?ワクワクするじゃん」
「あんまり本気出すな、番組の尺のことも考えろって言ってたね。ライフル射撃のことでも話してたらいい?」
「別にどっちでもいいだろ!自由に能力を使えるんだからよ」
ゴーグルの耳掛けのあたりから音声が流れゲーム開始のカウントダウンが聞こえてくる。
「……イチ、ゼロ。ゲームスタート!」
伊吹の声を聞いて桜咲高等学校の2チームがお互い反対方向に走り始めた。
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