第3話 チーム


春華しゅんか。これに参加しない?」

 朝のホームルーム前。珍しく目を覚ましているらいに春華が驚いているのも気にせず頼は昨日学校の連絡メールに届いたイベント告知を見せた。春華は宣材写真の少女を見るなり嬉々とした声を上げた。


「ああ!立林水姫たてばやしみずきだ!この前ビル火事で活躍した子だよね?めっちゃかわいい!これって昨日学校メールで一斉送信されてたやつだ」


 突然春華が声を上げたものだから側にいた複数の生徒が何事かと此方に視線を寄越す。そんなことも気にせず春華は楽しそうに声を上げた。


「城取ゲーム?へえー!面白そう。ということはギフト持ちに会えるってことだよね?やるやるー」


 春華は頼の誘いをすぐに承諾してくれた。頼は気持ちのいい春華の返事に満足そうな表情を浮かべる。


「6人メンバー集めなきゃいけないんだよね?あと誰にすんの?」

「もう目星は付けてる」


 頼にはしては珍しい、片方の口角を上げるという笑い方をして見せた。悪いことを思いつた子供のような表情に春華も思わず顔を綻ばせた。


朝日あさひ君。これに一緒に参加しない?」


 自分の席に到着したばかりの賢仁けんじは思いもよらない人物から話しかけられて瞬きを数回する。そして思い出したように「おはよう」と律儀に朝の挨拶をするところがさすがは優等生だ。頼はただ自分のタブレットを無言で見せつけるだけだったが春華は頼の隣で元気よく「おはよー」と挨拶を返す。


「…びっくりした。まさか深海に話しかけられると思わなかったから。昨日届いてたイベントだろ?面白そうだと思ってたんだよな……」


 賢仁が頼のタブレットの画面に軽く触れる。下まで要綱を軽く眺めると爽やかな笑顔で頷いた。


「いいよ。応募しよう。」

「イエーイっ。賢仁君がいれば視聴者数も爆上がりだね!」


 春華が賢仁の広い背中を叩く。賢仁があまりの強さに背中を丸める姿を頼は何の表情も浮かべずに眺めていた。


「それで今何人集まってるんだ?」


 賢仁の問いかけに頼が答える。自身のタブレットを操作しながら続ける。


「私と春華、朝日君の3人。あと3人なんだけど朝日君にはあと2人誘ってもらいたい」

「俺が?」

「そう。ドローン部の飛翔龍馬ひしょうりょうま君と隣のクラスの桜島隼人さくらじまはやと君」


 頼から残り2名の名前を聞いて賢仁は腕組みをして唸った。


「どっちも話したことあるけど…。隼人は難しいだろうな。学校来てるかすら怪しいだろ……」

「ちょっと頼……桜島隼人って……不良じゃん!」


 春華がまたオーバーリアクションと共に声を上げる。表情をころころと変える春華に動揺することなく頼は続けた。


「朝日君は去年桜島君と同じクラスだったはずだから交流があると思って。個人的に連絡も取れるなら取ってみて欲しい」

「それは……いいけどさ。このメンツって何なの?共通点が全然見当たらないんだけど……」


 賢仁が困ったような表情をする。春華も同調するように「それな」と相槌を打ってみせた。頼は少しの間の後答えた。


「……才能があるからだよ」


 その言葉に春華と賢仁がお互い顔を見合わせてそして二人は何が可笑しかったのか笑いあった。その姿を見て頼は何故二人が笑っているのか理解できなかったので説明を求めるように春華へ視線を送った。


「ごめんごめん。あまりにも頼がキャラに合わないないこと言うから……。そんなにストレートに言われたら惚れちゃうじゃん」


 春華がおどけるように頼の脇腹をつつく。そんな春華のいたずらを頼が片手で制する。


「初めて才能あるなとか言われたよ。ギフト持ちが存在するのに俺らの“才能”なんて大したことないんだなと思ってたけど……。改めて人から言われると嬉しいな」


 賢仁が照れたように笑うと「お。賢仁君も照れておる。」と頼を見て春華がにやにやしている。頼はむず痒い雰囲気を打ち払うように春華に向かって続けた。


「……あと一人、鷹取李帆たかとりりほさんに声を掛けに行こう」

「鷹取李帆お―?!またハードル高くない?」


 続々と教室に生徒達が集まり始めると異例の3人が机に集まっていて周りの生徒は何事かと物珍しそうに見ていた。クラス担任の教師が入ってくるのが見えると頼達はそれぞれの席に戻った。頼達と入れ替わりで教室に入ってきた男子生徒が「朝からモテモテかよ」と言って賢仁を冷やかしているのが聞こえた。


 始業を知らせる無機質なチャイムが鳴り響き、いつもと同じ日常が始まるのだが頼達にとっては違った。今日からいつもと違う毎日が始まるのだと心が波立ってそわそわした。




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