第22話
俺は次の日に、『マージハリ冒険者ギルド』を尋ねる。
ヴォルフがすでに話を通してくれていたようで、ギルド長からも歓迎された。
冒険者ギルドの
しかしここのギルド長は、人が良さそうというか、悪く言えば気弱そうな中年男だった。
「いまうちのギルドのスタッフがちょうど人手不足でねぇ。
募集するにも誰でもいいってわけじゃなから、経験者が来てくれて助かったよぉ。
しかもヴォルフくんの推薦なら、安心だねぇ」
というわけで俺は即日採用となり、その日からスタッフとして働くこととなる。
受付嬢は恰幅のいい中年女性で、ギルドに登録している冒険者たちからは『おかみさん』と呼ばれていた。
「ああ、アンタがヴォルフちゃんの言ってた新しい子かい?
若くていい男じゃないか! それに聞いてるよ! なんでもよく見るんだって?
あたしの身体もよく見ておくれよ! あはははははは!」
大きな胸とお腹を揺らしながら、おかみさんは豪快に笑う。
そこに、ギルドのスタッフが困り顔でやってきた。
「おかみさん、またやられました……今度は、依頼人への暴力だそうです」
「ええっ、またかい!? まったく、近頃の冒険者ってのはどうしちまったんだろうね?」
ふたりの話を聞いてみると、最近、ギルドに登録した冒険者が、依頼をすっぽかしたり、依頼者に狼藉を働くケースが増えているらしい。
すっぽかしも狼藉も、ギルドの評判を傷つけることになる。
さらにタチの悪いことに、すっぽかしや狼藉を働いた冒険者は、二度とギルドに顔を出さないらしい。
最近、『マージハリ冒険者ギルド』に登録した冒険者の一部がそんな調子なので、おかみさんは頭を抱えていた。
「こんなことをしたら悪評が広まって、他の冒険者ギルドも登録できなくなるってのがわからないのかねぇ。
まったく近頃の若い子は、後先も考えないで……」
「おかみさん、これは間違いなく『ギルド荒し』だよ」
「えっ、ギルド荒しって?」
聞いたこともない単語だったのか、キョトンとするおかみさん。
「帝国傘下の冒険者ギルドのやり口のひとつだよ。帝国から呼び寄せた冒険者を、ライバルの冒険者ギルドに登録させるんだ。
そして依頼を受けてすっぽかさせたり、依頼先でとんでもないことをやらかすってわけだ」
「ええっ、なんだってそんなことを……!?」
「そりゃ、ライバルである冒険者ギルドの悪評を広め、潰すためだよ。
ギルドの冒険者の質が低いとわかると、だれも依頼を持ち込まなくなるだろう?」
「くっ、同じ冒険者ギルドだってのに、そんな酷いことをするなんて……!
争うのはしょうがないにしても、もっと正々堂々とやればいいのに……!」
「そうだな『相手を抜くために自分が頑張る』それが普通の考え方だよ。
でもヤツらは違う。『相手を抜くために相手を貶めるんだ』」
「でも、わかったところでどうすればいいんだい?
ギルドに登録にきた冒険者が、『ギルド荒し』って見抜ければいいんだけど、そんなのは無理だろう?
かといって、全員追い返すわけにも……」
「俺に任せてくれ」
ギルドの受付カウンターには、ちょうど新規登録を希望する冒険者が、スタッフの案内に従って用紙に記入しているところだった。
俺はその間に割り込むと、書きかけの用紙を奪った。
「おい、なにすんだ!? まだ書いてる途中だぞ!」
怒る冒険者をよそに、用紙の『二つ名』欄を見る。
思わず鼻で笑ってしまった。
「ふん、なにが『ブラッドシャークのバギル』だ。お前、帝国じゃ『コバンザメのメサオ』って呼ばれてただろうが。
デカブツの相棒はどうした?」
「なっ……!? どうして俺の帝国での二つ名と、本名を知っている!?」
「俺の顔を忘れたか?」
そこまで言ってようやく、メサオはハッとなる。
「あっ!? お前はミロ!? なんでこんな所にいるんだよっ!?」
「今日からここで働くことになったんだ。
残念だが、このギルドには帝国の冒険者は登録させん。この俺がいる限りはな」
用紙を目の前で破りすててやると、メサオは「てめぇ、覚えてろよ!」と睨みながら去っていった。
おかみさんは驚きながらも俺をほめてくれる。
「すごいよ、ミロちゃん! まさかミロちゃんが帝国の冒険者の顔を覚えていただなんてねぇ!
おかげで助かったよ! これでもう、『ギルド荒し』も……!」
「いや。こんなもんじゃヤツらは懲りないよ。これからもっと冒険者を送り込んでくるはずだ。
次はたぶん、俺の知らない冒険者を送り込んでくるだろうな」
「ええっ、ミロちゃんも知らない帝国の冒険者が来たら、いったいどうすれば……」
「それなら大丈夫だ。
おかみさん、これから新規登録の冒険者が来たら、まず俺に対応させてくれないか?」
というわけで俺の初仕事は、『ギルド荒し』を見破ることに決まった。
そしてさっそく次の日に、傷だらけの顔をした冒険者が登録にやってくる。
「このギルドに登録させろ」
凄みを利かせてカウンターに肘を置くヤツに向かって、俺は開口一番、
「お前、帝国の冒険者だろ」
「ふぁっ!? なにを証拠にそんな……!?」
「鎧の肩当てにライオンのエンブレムが彫り込まれている。
それは『帝国商会』で販売している装備だろう
この国には帝国の装備は流通していないから、お前は帝国の冒険者ってことになる。
っていうかお前、メサオだろう。顔に傷の落書きをしたって、俺の目は誤魔化せんぞ」
「ぐっ……! も、もう来ねえよ! 二度と来るか、こんなクソギルド!」
精一杯の捨て台詞を吐き、去っていくメサオ。
さらに次の日、顔を白塗りにしたへんな冒険者が登録にやってきた。
「このギルドに登録したいのでおじゃる」
「お前、帝国の冒険者だろ」
しかし、今度はヤツは臆さなかった。
「ふふ、証拠はあるのでおじゃるか?」
「装備はぜんぶこの国のものに変えたようだが、詰めが甘いな。
お前が背中に携えている剣、グリップにある滑り止めの布の巻き方が『帝国式』だ。
この国の冒険者は、そんな巻き方はしない。
っていうかお前、メサオだろ。もう来ないんじゃなかったのか?」
「ぐっ……この装備を揃えるのに、いくらかかったと思ってるんだっ!?
うがあああっ、死ねぇぇぇぇぇぇーーーーーーっ!!」
メサオはとうとうヤケになり、俺にとびかかってこようとした。
しかしギルドの冒険者たちに捕まり、裏口に連れていかれる。
俺が連日で『ギルド荒し』を撃退したので、スタッフはみな驚いていた。
「す、すごい……!」
「俺たちは帝国から来た冒険者かどうかなんて、まったく見分けられなかったのに……!」
「装備品や布の巻き方で見破るなんて、やるなぁ……!」
「ミロさんってもしかして、かなりベテランのギルドスタッフだったんじゃ……!?」
なんにしても、『ギルド荒し』が入り込む余地はなくなり、依頼のすっぽかしや依頼主への狼藉も同時になくなる。
『マージハリ冒険ギルドの』評判は、なんとか繋ぎ止められたんだ。
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