第18話

 『マージハリ冒険者学校』の校長から、『模範演技』が予定より早く終わったので、もう一戦やってもらえないかと相談を持ちかけられる。

 俺たちのリーダーであるヴォルフは乗り気ではないようだったが、断ったらアーシガルたちの独壇場となってしまうので、渋々承諾していた。


 急遽決定された、『模範演技』の延長戦、それはギルドどうしの直接対決だった。

 より早く相手のチームを戦闘不能にしたほうが勝利という、ガチンコ勝負。


 このルールに、俺は多少の不安を覚えた。

 なぜならば俺は実戦経験はあるものの、戦いを見ていただけだからだ。


 俺は戦力にならないので、実質2対3の戦いということになる。

 しかしこの『模範演技』はチーム替えは認められないということなので、俺は続投せざる得なくなった。


 俺たちは控室のテントのなかで、作戦会議をする。


「ミロ、お前は戦ったことがないんだったな。なら、ずっと後ろに隠れてるんだ」


「ああ、そうさせてもらう。そのかわり、『よく見る』ことで援護させてもらうよ」


「ハァ? なに言ってんだお前は。そんなんで援護になるわけねぇだろ!

 俺とヴォルフの旦那を援護したいんだったら、石でも投げてろよ!」


「いや、俺はアーシガルたちの冒険に同行したことがあるから、ヤツらの戦いのクセも覚えている。

 たぶん今も変わってないだろうから、そのアドバイスをさせてもらうよ」


「見てただけのヤツのアドバイスなんて、アテになるかよ!」


「まあいいじゃねぇか、ズミール。ミロの好きにさせてやれ。

 ただしミロ、俺たちはお前のことを守ってやれるだけの余裕はない。

 だから戦闘区域からははなるべく遠ざかって見てるんだな。

 それにいざとなったら、自分の身は自分で守るんだ」


「ああ、わかった」


『それでは作戦会議タイム、終了です!

 改めてチーム紹介を行ないますから、まずは「オオカミさんチーム」、テントから出てきてください!』


 実況の声がテントにまで響いてきて、俺たちは出撃の準備を整えてから校庭に出た。

 さきほどの『模範演技』で使われた地下迷宮ダンジョンは撤去されていて、校庭には障害物の立ち並ぶバトルフィールドになっていた。


 3対3の戦いをするにしては、じゅうぶんすぎる広さがある。

 これなら、かなり距離をとって戦いを見守ることができそうだ。


 戦場へと身を投じる俺たちを、拍手が迎えてくれる。


『「オオカミさんチーム」、先頭におりますリーダーは「餓狼のヴォルフ」!

 片手剣とナイフを自在に操る軽戦士で、獲物に襲いかかる狼のような戦い方が持ち味だそうです!

 二番手は、「窮鼠のズミール」!

 ショートソードとクロスボウを得意とする斥候スカウトで、中距離の援護では彼の右に出るものはいません!

 そして最後は、ミロ!

 たったいま入手した情報によりますと、「ド外れスキルのミロ」の二つ名を持つ、ただ見ているだけの人のようです!

 彼だけは冒険者ギルド所属ではないようで、もしかしたら人数合わせのために呼ばれた普通の人なんでしょうか?』


 俺の紹介のところでかなりのどよめきが起こったが、そんなものはすぐに消し飛んだ。

 なぜならば、


『次に「キツネさんチーム」の紹介にまいりましょう! リーダーは「狐狸こりのアーシガル」!

 変幻自在の技で戦う、最強の盗賊シーフです!

 二番手は、「剣の舞のブレイダン」!

 踊るように剣を操る最強のイケメン剣士が、ここに参戦です!

 三番手は、「氷の女王のザブリド」!

 すべてを凍りつかせるといわれる魔法を、我々に見せてくれるのでしょうか!?』


 実況は当たり前のように紹介しているが、とんでもない。

 二番手と三番手は、先ほどの『模範演技』からメンバーが入れ替わっている。


 さっきは迷宮探索に有利なメンバー構成だったのに、今回はバリバリの戦闘特化メンバー。

 ブレイダンとザブリドといえば、帝国の冒険者ギルドでも知らぬ者はいない、最強クラスの戦闘狂だ。


 俺たちにはメンバー入れ替えは禁止だと言っておいて、アイツらには許可するとは……。

 学校側も帝国とべったりなのかもしれないな。


 事情を知らない観客たちは、今度こそ俺たちが負けると確信したようだ。


「『オオカミさんチーム』はメンバー交代なしかよ!

 ヴォルフさんとズミールさんはかなり有名な冒険者だけど、あのミロとかいうのは何なんだ!?」


「格好もぜんぜん冒険者らしくないし、武器なんてショートソード1本だぞ!?」


「それに引き換え『キツネさんチーム』はヤバいな!

 ブレイダンさんとザブリドさんまで出してくるなんて!」


「これはもう、勝負は決まったようなもんだろう!

 ブレイダンさんの剣技とザブリドさんの氷結魔法が生で見られるなんて、感激だなぁ!」


 選手入場を終え、俺たちはバトルフィールドの端っこのほうに並び立つ。

 400メートルほど離れた向こうには、相手チームが同じように並んでいる。


『それではさっそく延長戦を開始しましょう!

 先に相手チームを全滅させたほうが勝利となります!

 プロの戦い方を、ぜひ私たちに見せてください!

 それでは……よーい、スタートっ!』


 開始の合図とともに、ヴォルフとズミールが進軍を開始する。


 バトルフィールドには多くの障害物があって、敵がどこにいるかはわからない。

 下手に突っ込んでいくと囲まれてしまうこともあるので、まずは索敵をしつつ用心深く進んでいくのがセオリーなんだ。


 俺はふたりからだいぶ離れた距離を、障害物に隠れながらコソコソとついていく。

 しばらく進んだあと、俺はヴォルフたちに向かって小石を投げつけた。


 石がコツンと当たって振り返った彼らに向かって、さらに『目話アイコンタクト』のスキルを使う。

 目だけで、彼らに語りかけた。


『ヴォルフ、ズミール、聞こえるか?

 目の前にある障害物を右によけて進め。次の障害物も右、ふたつほど右に進んだら左に振り返るんだ。

 そしたら、ブレイダンとアーシガルの側面に出るから、一気に先手を取れる』


 『目話アイコンタクト』のスキルは言葉と同じコミュニケーションが可能だ。

 といっても、一方的に送りつけるだけだけど。


 俺を見ていたヴォルフとズミールは、まるでテレパシーを受け取ったみたいに目を白黒させていた。

 俺はさらに目で語りかける。


『声を出さずに返事をしたければ、口を動かせ。俺には唇の動きを読むスキルもあるから』


 すると、ヴォルフとズミールは先を争うように口をパクパクさせる。

 まるでエサを要求する鯉のように。


『なんで敵の側面を取れるってわかるんだよ!? 障害物だらけで、敵の姿はコッチでも見えてねぇってのに!』


『俺には見えるんだよ。騙されたと思って、言うとおりにしてくれ』


『しかし、ブレイダンとアーシガルを奇襲したところで、背後にはおそらくザブリドがいる。

 ヤツの氷結魔法をくらったら、ひとたまりもないぞ!』


『それなら大丈夫、俺がザブリドの魔法を止める』


『ハァ? なに言ってんだお前! そんなに離れてるくせに、どうやって魔法を止めるんだよ!

 たとえクロスボウがあったとしても、障害物に隠れられたらそれで終わりなんだぞ!』


『いいから、俺を信じてほしいんだ』


『……わかった、お前の言うとおりにやってみよう』


『ありがとう、ヴォルフ。

 それともうひとつ、ブレイダンの剣術スキルである「幻影剣」は、見た目に騙されやすい。

 見える剣撃は幻影で、その鏡映しになった方向から、見えない剣撃が飛んでくるんだ。

 だから幻影剣を放ってきた場合は、反対側を意識するといい』


 すると、ヴォルフは眉をひそめた。


『ミロ、お前……幻影剣を知っているのか?』


『ああ、何度か見てきた。だから、弱点もわかる』


『何度か見ただけで、弱点がわかったら苦労しねぇよ』


『そうかな』


 俺は目配せを続けながら、ニコリと笑う。


『俺は「よく見える」んだ』

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