第17話

 学園祭とかにありそうな、手作りの迷宮を駆け抜けた『オオカミさんチーム』。

 俺はアーシガルに負けたくないあまり、ついムキになって全力疾走してしまった。


 おかげでゴールしたときにはすっかりクタクタ。

 そして走っている最中は無我夢中だったので気付かなかったのだが、俺たちは万雷の拍手に包まれていた。


「すげえっ! すげよっ! 『オオカミさんチーム』!」


「俺たちが手こずった迷宮を、一瞬にして攻略するだなんて!」


「プロの冒険者の実力ってのは、想像以上だな!」


「わたしも、あんな凄いパーティに入ってみたいわ!」


 観客席にいた『マージハリ冒険者学校』の生徒たちは、みなスタンディングオベーション。

 俺は嬉しくなって、思わず手を振り返していた。


 来賓席のベスケスだけは、ひとりブスッとした表情で座っている。


 そして俺といっしょに迷宮を駆け抜けてくれた、ヴォルフとズミールはというと……。

 ふたりとも、無表情で俺のそばに佇んでいた。


「お疲れ。ふたりとも息一つ切らしてないとはさすがだな。このくらいの迷宮なんて朝飯前だったか」


 俺がそう声をかけると、ヴォルフはいつもの渋い声で俺に問い返してきた。


「ミロ。お前はこの迷宮の構造を知ってたのか?」


「えっ? そんなわけないだろう」


 ズミールも一緒になって俺を責めたてる。


「ウソつくんじゃねぇ! でなきゃ、迷宮を駆け抜けるなんて自殺行為ができるかよ!」


「いや、本当なんだ。俺はまわりを『よく見て』走ってただけだ」


「一流の斥候スカウトが使うスキル、『罠察知ファンド・トラップ』でも、ひとつの罠を発見するのに10分はかかる。

 学生が仕掛けたイタズラみたいな罠だったとしても、見つけるのに1分はかかるだろうな。

 それをお前は、1秒かからずにやってのけてたことになるんだぞ」


「だから言ってるだろう。俺には罠が『よく見える』って。……あ」


 話の最中、ふと俺の身体がレベルアップの光に包まれた。

 どうやら、迷宮をクリアしたのが効いたようだ。


 ヴォルフは大きな溜息とともに肩をすくめる。


「やれやれ、こんなガキどもの作った迷宮ごときレベルアップするとは……。

 怖いモノ知らずのルーキーか、それとも桁違いにとんでもねぇヤツなのか……。

 ミロ、お前ってヤツは本当によくわからねぇな」


「いやぁ、ヴォルフの旦那!

 コイツが迷宮を走り抜けられたのは、きっとビギナーズラックだったんっすよ!」


 ヴォルフは俺の『よく見える』スキルの実力を測りかねているようだったが、ズミールはラッキーだと思い込んでいるようだった。

 うーん、本当に俺には罠が『よく見える』んだけどなぁ……。


 なんて思っていると、


『ああーっとぉ!? 「キツネさんチーム」、さっそく最初の罠に引っかかってしまいましたぁー!?』


 実況の声に、そういえばまだ競技は続行中だったんだと思い出す。

 俺たちはすでにゴールしているので、地下迷宮ダンジョンを出て客席からその様子を見ていいことになった。


 『キツネさんチーム』は、迷宮の入り口に仕掛けられていた、最初の投網の罠にかかってもがいていた。


「ぐわあああっ!? 斥候スカウト! てめぇ、ミスりやがったな!?」


「だ、だって! アーシガルさんが急かすから……!」


「当たり前だろう!? 敵はもうゴールしてるんだぞっ!? それなのに、ダラダラしやがって……!」


「そ、そんな! 平均よりかなり早いタイムで罠を見つけてたんですよ!? それなのに……!」


「うるせえっ! 俺に口答えするなっ!」


 とうとう網の中で仲間割れを始めてしまうアーシガルたち。

 それは掴み合いのケンカに発展し、ゴロゴロと転がった挙句に床のスイッチを踏んでしまう。


 パカッと開いた穴に、3人まとめて吸い込まれていった。


「たっ……! たすけてぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇーーーーーーーーーーーーーーーっ!?!?」


 絶叫のあと、しん、と静まり返る会場。

 あちこちから、笑いを堪えるような声が。


「ぶっ……ふふっ! 見たか、今の……!」


「見た……! すげぇ、みっともなかった……!」


「みっともないなんてもんじゃねぇよ! 2つ目の罠でリタイヤなんて……!」


「この学校の誰よりも、落ちこぼれじゃねぇか……!」


「アレでも本当に、プロの冒険者なの……!?」


 しばらくして落とし穴から救出されたアーシガルたち。

 落とし穴の底には粘着式の札が撒いてあったのか、身体じゅうに札がくっついていた。


 そこには『バカ』『マヌケ』『Fラン冒険者』『落ちこぼれ』などと書かれている。

 とうとう、場内は爆笑の渦に包まれてしまった。


「あっはっはっはっ! アレはこの学校の落ちこぼれが引っかかると思って撒いておいたものなのに!」


「まさかプロの冒険者が引っかかるなんてなぁ!」


「プロ失格ね! っていうか、私たちよりダメなんじゃない!?」


「おーい、落ちこぼれ! 1年からやり直したほうがいいんじゃないのか!? あーっはっはっはーっ!」


 アーシガルたちは真っ赤になりながら、校庭の隅に設置された、控室がわりのテントに逃げ帰っていった。



 ◆  ◇  ◆  ◇  ◆



 アーシガルたちがほうほうの体でテントに転がり込むと、そこには……。

 赤鬼のような形相で、ベスケスが仁王立ちしていた。


「なんという体たらくじゃ!

 貴様らは帝国の冒険者ギルドでも、いちばんの冒険者と豪語しておったではないか!?」


 アーシガルは額に『マヌケ』の札を張ったまま、ベスケスにすがる。


「こ、これはこれは、べ、ベスケス様! これは、何かの間違いで……!」


「なにが間違じゃ!

 ギルド長である貴様には、『餓狼のヴォルフ』に対抗できるだけの冒険者を出せと命じておいただろう!」


「お、俺たちは最高の冒険者です!

 きっと、アイツがなにかインチキをやっていたに違いありません!」


「なにがインチキだ! むしろこっちがインチキをしておったんじゃぞ!

 校長に頼んで、貴様らルートは罠がほとんどない簡単なほうにしてもらっていたというのに!

 それなのに、それなのにっ……!」


「おっ、お許しください、ベスケス様!」


「こうなったら次の戦いで、ヤツらを皆殺しにするんじゃ!」


「えっ、次の戦い……? 『模範演技』はこれで終わりなんじゃ……?」


「このままでは終われるか! 校長に頼んで、延長戦をさせる!

 いいか、次は直接対決をさせてやるから、絶対に負けるんじゃないぞ!

 特に……特にあのエルフの小僧だけは、何としてもブッ殺すんじゃ!」

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