第8話

「……あれ?」


「どしたんミロ?」


「いや、どっかで誰かが泣き叫んでいるのが、聞こえたような……」


「気のせいっしょ。

 ……って、なんでまた光ってんの!? 連続レベルアップじゃん!?」


「あっ、ほんとだ!?」


 俺はキャルルとジャレあっていただけなのに、2レベルもアップしてしまう。

 俺って、そんなに女の子に対しての経験値がなかったのか……と、この時の俺は思っていた。


 しかし、これは間違いだった。

 帝国の人間から『必要とされる』ことによっても、俺はレベルアップする。


 俺がそのことに気付くのは、まだ先の話だ。


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 ミロ レベル22(スキルポイント残2)


 刮目

  5 地獄眼ジゴクガン

  1 顕微眼フェムト

  2 暗黒視ダークビジョン

  2 万象鑑定ユニバース・チェックアウト

  2 挑発タウント

  2 熱視線ホットアイ

  0 冷視線コールドアイ

  1 目話アイコンタクト

  1 読唇術リップリード

  3 超探査スーパーファインド

  NEW! 心眼マインドアイ


 聖眼

  0 天国眼ヘヴンアイ

  1 透視クレアボヤンス

  0 俊速アキレウス

  0 権天使の威圧ガバメント・オーダー


 邪眼

  0 暴露眼バクロガン

  0 視線の檻ジェイルサイト

  0 鈍速タキサイキア

  0 堕天使の魅了フォーリン・チャーム


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 そうこうしているうちに昼過ぎになって、聖堂に多くの子供たちがやって来た。

 みな勝手知ったる様子で、「ただいまー!」と挨拶しながら元気になだれ込んでくる。


 キャルルは俺に教えてくれた。


「この子たちは、この『マジハリ孤児院』で面倒見てる子供たちだよ。

 昼はみんなガッコに行ってるの」


「なんだ、ここは聖堂じゃなくて『孤児院』だったのか」


「もちろん聖堂もやってるよ。

 街の人はみなし子にいいイメージがないみたいで、あんまりお祈りに来てくんないけど」


「そりゃそうだろ。野盗になったりするのは大抵がみなし子だからな。

 聖堂だけやるほうが礼拝者がたくさん来て、寄進も貰えて儲かるんじゃないか?」


「う~ん、そーなんだけど、あーしがこの聖堂でばーちゃんに育てられたんだよね」


 『ばーちゃん』というのはこの『マジハリ孤児院』の前の聖堂主、つまり前の管理者だった人物らしい。

 キャルルは『ばーちゃん』に拾われてこの聖堂で育ち、『ばーちゃん』のあとを継いで聖堂主になったそうだ。


「おかげで超ビンボーなんだけどさ、孤児院だけは続けていきたいんだよね。

 それがあーしを育ててくれた、ばーちゃんへの恩返しでもあるし」


 この孤児院には20人近い子供たちがいる。

 これほどの数の子供の面倒を見るのは大変だろうと思うのだが、キャルルはあっけらかんとしていた。


 そして俺はふと気付く。

 確かめるために、『万象鑑定ユニバース・チェックアウト』のスキルを発動してみた。


 これは『鑑定』のスキルで、物品などの価値を見極めることができるんだ。

 俺はキャルルのアップリケだらけのローブを、じっと見つめる。


 すると、スキルウインドウと似たような半透明のウインドウが、キャルルの横に浮かび上がる。

 そのウインドウには、こう書かれていた。



 キャルルのローブ

  先代の聖堂主から受け継いだローブ。

  穴があくたびに繕っているため、アップリケだらけ。

  手作りなので、価値はゼロに等しい。



 俺は視線をあげ、キャルルの顔を見つめる。



 キャルルのメイク

  メイクはすべて野草の花などから抽出して作ったもの。

  手作りなので、価値はゼロに等しい。



 キャルルの顔

  エルフ族とオルグ族のハーフのため、エキゾチックで美しい顔立ち。

  人身売買での価値は最高級で、50億エンダー相当。



 キャルルを初めて見たとき、俺は「派手なギャルだな」と思ってしまった。


 しかしメイクはぜんぶ手作りで、着ているものなんて何度もお直しして使っていただなんて……。

 きっと脳天気なギャルっぽく振る舞ってるのも、まわりに苦労を感じさせないためなんだろう。


 い……いい子だなぁ……。


 俺が思わず涙ぐんでいると、キャルルはギョッとしていた。


「ど、どしたん急に!?」


 鑑定ウインドウはスキルを発動した俺にしか見えてないので、彼女は俺の涙のわけを知る由もない。

 それはともかくとして、俺はキャルルの身体つきの理由をようやく知った。


「キャルルって、エルフとオルグのハーフなんだな」


 俺は軽い気持ちで尋ねたのだが、「しまった」と思い直す。


 異種族間のハーフというのは、この世界では肩身の狭い存在とされている。

 キャルルがハーフであることを認めるということは、同時にみなし子になった理由も認めるようなものだからだ。


 かなりデリケートな質問のはずなのだが、キャルルは気にせずに笑う。


「あはっ、わかっちゃった!? 実はそーみたい!

 あーしが捨てられたときの手紙に、パパがオルグでママがエルフだって書いてあったんだよね!

 おかげであーし、こんなに元気に育っちった~! ちったかた~! ちったかた~!」


 いきなり歌い出して部屋の中を行進しはじめるキャルル。

 子供たちも大喜びで、いっしょになって後に続いている。


 俺は強い衝撃を受け、呆然と立ち尽くしていた。


 親に捨てられるなんて、配られたカードが他人より少ないようなもんじゃないか。

 そんな大きなハンデを与えられているというのに、キャルルはこんなに明るく前向きに生きている。


 それどころか、自分と同じ境遇の子供たちを救おうとしているだなんて……。


 なっ、なんてええ子やっ……!

 その笑顔、守りたいっ……!


 俺はこの孤児院に来て初日だというのに、すでにここに骨を埋めたいほどの衝動に駆られていた。


 しかし、回りはそうは思ってくれていないようだった。


「おい、お前」


 ふと呼び止められて振り返ると、そこには孤児院の子供であろう、ハナタレ坊主たちが立っていた。

 彼らはいっちょ前に斜に構え、アゴで外を示す。


「ガッキーさんお呼びだ。裏庭に来い」


 言われるがままに裏庭に行ってみると、岩の上でふんぞり返る坊主頭の坊主がいた。

 見るからにガキ大将という風情で、まわりには多くの子分たちが控えている。


「おい、お前、名前はなんていうんだ?」


「他人に名前を尋ねるのなら、自分が名乗るのが先だろう」


 すると、「なんだとぉ!?」と子分たちが挑みかかろうとする。

 しかしガキ大将は「まぁ落ち着け」と子分たちを押しとどめた。


「ソイツの言うことももっともだ。俺はガッキーだ」


「知ってる。さっき子分たちから聞いた」


「なっ、なんだとぉ!?」


「ガッキー親分、落ち着いてください」


「そうですよ、さっき俺たちに落ち着けって言ったばかりじゃないっすか」


 子分たちからたしなめられ、おほんと咳払いをするガッキー。


「ふん、キャルルから聞いたぜ、お前、今日からこの聖堂で厄介になるんだってな?」


「ああ」


「ここで暮らしたかったらキャルルだけじゃなく、俺の許可も得なくちゃいけねぇんだよ」


「そうなのか?」


「当然だ。だってこのガッキー様こそが、『マジハリ孤児院』のリーダーなんだからな。

 ここで暮らしたかったら俺の子分になるか、度胸試しをするんだな」


「度胸試し?」


「ああ、男の度胸を示す試練をやるんだ。

 そうすればお前を、俺と並ぶほどの男として認めてやる」


「その度胸試しってのは、なにをすればいいんだ?」


「へへっ、聞いてビビってひっくり変えるなよ。

 それはな、キャルルの下着の色を当てることだ。

 俺くらいになると、キャルルの下着を見ることなんて簡単だ。

 今朝も見てきたから、俺はキャルルがいま着ている下着の色を知っている。

 答え合わせをして正解したら、お前を『真の男』として……」


「ピンク」


 俺が即答したとたん、


「なっ……!? なにぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃーーーーーーーーーーーーーーーっ!?!?」


 驚愕のあまりのけぞり、岩から転げ落ちていた。

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