第7話
ヌル帝国の最高権力者は皇帝である
そのため、鶴の一声で軍隊を動かすこともたやすい。
南を重点的に、もしかしたら撃ち出した
南側は国境付近まで捜索させてみたが、ミロの死体どころか遺留品のひとつも見つけることができなかった。
ヌル帝国の南の国境付近には『ランドール小国』がある。
なぜならば、『ランドール小国』とは小康状態が続いている。
ヌル帝国はランドールを帝国内に取り込むために、軍事、経済、宗教、ありとあらゆるジャンルで静かなる攻撃を仕掛けている真っ最中であったから。
それぞれのジャンルには侵略のリーダーとして、皇族が割り当てられている。
それ以前に、追放刑に処された人間を捜索することも問題視されていた。
「ぐるる……。おい、
なんでミロを捜索してるんだ?」
「うっせーな、
「がおっ! 兵士まで動員しといて、勝手で済むと思ってんのかよ!
他の皇族も問題視してるんだ、答えろ! でないと、審問にかけるぞ!」
「うっ……審問は勘弁してくれ……!
あ、アタイは……。アタイは誰よりも、ミロをウザいと思ってたんだ……!」
『ウザい』。それはミロに対していつも吐きかけていた言葉だった。
しかし今はなぜか、口にするだけでズキリと胸が痛む。
「もしミロが生きてたら、八つ裂きにして……!
もしミロが死んでたら、晒し者にしてやりたい……!
そう思ってたんだよ!」
言葉とは裏腹に、胸痛が止まらない。
顔を歪め、胸をぎゅっと押える
「……そういう理由ならいいだろう。
だがあと3日だ。あと3日探して見つからなかった場合はあきらめろ。
ヌル帝国は、周辺諸国すべてと小競り合いをしているんだ。
有事の際には兵士が必要となるんだからな」
「ぐっ、わ、わかったよ……」
それからの3日間は、
本来は王城で指示するだけの立場である皇族が出張るのは異例のことで、兵士たちはその思いに応えるべく死に物狂いでミロ捜索を行なった。
最終日は
「ミロ! どこだーっ! アタイはここにいるぞーっ!
アタイを見ることは、お前の生きがいだったんだろう!?
見張り台で働いていたのも、王城のアタイを覗き見るすのが目的だったんだろう!?
アタイなしじゃ、お前は生きていけないはずだ!
自分から出てきたなら、特別に助けてやるぞーっ!!」
自分をエサにして、声をかぎりに呼びかけたが、結局ミロを見つけることはできなかった。
◆ ◇ ◆ ◇ ◆
ミロの捜索は打ち切られ、
それがミロの視線を欲するものだとは知らずに、禁断症状を誤魔化すようにまわりの者に当たり散らしていた。
同時に、肌のハリツヤも衰えはじめる。
特にこれといって手入れもせずに美しさを保っていて、城の女連中から羨ましがられた肌に、シワやくすみが目立ちはじめた。
ミロがいなくなって1ヶ月もたたないうちに、一気に老け込んでしまった
「こ、これが、アタイ……!?
う、ウソだろ、これじゃあまるで、マジでババアみたいじゃないか……!」
「だからボクチンが言ったでしゅ! 更年期のババアだって!」
いつの間にか部屋を覗き込んでいる
「う……うるせえっ、
「きゃーっ! ババアが怒った! ババアが怒ったでしゅー! 顔のシワがさらに増えてるでしゅー!」
「てめぇっ、待ちやがれっ! キェェェェェェェェェェェーーーーーーーーーーーッ!!」
廊下を絶叫しながら走り回る、鬼婆のような
肉体も精神も限界まで達する
ある日、城内の廊下に飾ってある絵画に気付いた。
ヌル帝国の王城には『ナンバーズ110』の活躍をたたえ、
名案を思いついた
「おい、お前が廊下に飾ってある『ナンバーズ』の絵を描いたヤツか!?
よし、それなら今すぐミロの絵を描け!」
「ええっ、役立たずのあまり『ド外れスキル』と呼ばれ、この国の初めての追放者となった者を描けとおっしゃるのですか!?
私の絵のスキルは、英雄の活躍を讃えるためにあるのであって、罪人を蘇らせるためではありません!」
「うるさいっ! いいからアタイの言われたとおりにしろ!
でないとお前を、2人目の追放者にしてやるぞっ!」
皇族に脅されてはたまらず、宮廷画家は渋々ながらもミロの絵を描いた。
画家は凱旋式の絵でいちどミロを描いていたので、そのときの記憶を頼りにしながら。
しかし絵画のスキルによって描かれただけあって、出来上がったのはミロそのものだった。
「おっ……おおっ! すごい!
眼力に関しては、本物にぜんぜん及ばんが……!
これなら少しは、ミロに見られている気分になれるかもしれない!」
心に空いた穴のような寂しさは埋まらなかったが、少しだけ慰められたような気がする。
しかし訪れかけたその平穏も、一瞬にして終わりを告げる。
「がおうっ! おいっ、
いきなり部屋に入ってきた
「な、なんでそのことをっ!?」
「最近、お前の様子がおかしかったから監視を付けてたんだ!
宮廷画家を呼びつけていたから、問いただしてみたら白状したよ!」
「クソッ、アイツ、もうバラしやがったのか……!」
「そんなにミロにこだわって、いったいどうしたんだよ、
アイツのことはもう忘れろ! お前は特にミロをウザがってだろうが!」
「あ、ああ、そうさ! アタイはミロが憎くて憎くてたまらない!」
「なら、なんでそんなヤツの肖像画を部屋に飾ってるんだ!?」
「うっ……! こ、これは……!」
「がおうっ! 答えろ! 追放者の肖像画を飾るなど、いくら皇族とはいえ、言語道断の行為だぞっ!
今度こそ本当に、審問に……!」
「うっ……! うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁーーーーーーーーーーーっ!!」
追いつめられた
壁から外し、床に叩きつけ、踏みつける。
「これは、晴らせなかった恨みを晴らすために描かせたんだ!
こうやって! こうやって! こうやって! 足蹴にして、八つ裂きにして、ズタズタにしてっ!
アタイはずっと、ミロをこうしてやりたいと思ってたんだ!」
金切り声をあげる
「そ、そうだったのか……! お前はそれほどまでに、ミロのことを……!」
「ああそうさ! これで疑いは晴れたか!?
なら出ていけ! 出ていけぇぇぇぇぇぇぇーーーーーーーーっ!!」
「きゃ、きゃいんっ!?」
残された
「はぁ、はぁ、はぁ……! アタイは誰よりも、ミロのことをウザがってたんだ……!
ミロが追放されて、誰よりもせいせいしてるんだ……!」
不意に瞳の端に、雫がふらむ。
それは頬の汗を押し流すほどの、水流となって流れ落ちた。
「うっ……! ぐっ……! うううっ……!
そ、そうさ……! あ、アタイは、アタイは……!
誰よりも、誰よりも、ミロのことをっ……!」
しまりのなくなったぶよぶよ脚がガクガクと震え、崩れ落ちる。
しわくちゃになった顔を押え、彼女は幼子のように泣いた。
「……か……帰ってきて……! ミロ、帰ってきてよぉ……!
帰ってきて、また、アタイのことを見てよぉ……!
アタイのビキニを、似合ってるって褒めてよぉ……!
ミロっ……! ミロっ、ミロっ、ミロっ……!
アタイを見てっ……! アタイを『よく見て』よぉぉぉっ!!
うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁーーーーーーーーーーーーーんっ!!」
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