第6話
「んん~っ!」
天蓋付きのベッドのなかで目覚めた女。
一糸まとわぬしなやかな肢体を、女豹のように反らせて伸びをする。
「ああーっ、よく眠れたぁ! こんなによく眠れたのは久しぶりだな!」
「おはようございます、
ヴェールの向こうにいるメイドから問われた
「よく寝たら腹が減ったから、まずは朝メシだ。ベッドの中で食うから持ってきてくれ」
「かしこまりました」
昨晩、
いや、ミロが処刑用の大砲で撃ち出され、追放されたという報せを聞いたから。
ミロはとっくの昔に『ナンバーズ』から追放されているので、
しかし
「それも昨日でおしまい~っと! まるで憑きものが取れたみたい~っ!」
朝食を終えた
広大な部屋をひとつまるごとクローゼットにした室内には、きらびやかなビキニアーマーが所狭しと飾られている。
今日はどれにしようかと悩んだあと、特別なビキニアーマーを手に取った。
彼女にとっては特別な日にだけ着る、『勝負アーマー』。
魔王と戦った日も、このビキニアーマーを着ていた。
長いこと平穏な日が続いていたので、着るのは100年ぶりだ。
オルグ族である彼女の身体は100年たっても引き締まったままで、衰えることを知らない。
ビキニアーマーというのは半裸同然の姿ではあるが、醜いたるみなどどこにもなかった。
今日は、
しかし日常は何ら変化はなく、彼女はヒマなままであった。
なので彼女はヒマをもてあましていて、朝から皇族仲間の女たちとずっとティータイム。
今日の話題は、やはりミロのことでもちきりだった。
「ねぇねぇ、聞いた? ミロのヤツ、ついに帝国外に追放されたって」
「見張り台の上から大砲で撃ち出されたんでしょ? もう死んでるっしょ」
「アタイ、ずっとミロに見られてるような気がしてたんだよな。
でもミロが追放されたって聞いたとたん、急にその視線が消えた感じがしてさぁ」
「えっ、
「ええっ、あなたたちも!? 私もずっとミロの視線を感じてたんだよね!」
「それがさぁ、噂によるとミロのヤツ、南の見張り台からこの王城を覗き見してたって噂だよ!」
「どうりで視線を感じると思ったら、本当に覗いてたんだ!」
「うわぁ、キモいキモいキモいっ! やっぱりアイツ、女の敵だったんだよ!」
「ああ! いなくなってくれて、せいせいしたなぁ!」
◆ ◇ ◆ ◇ ◆
いなくなってくれて、せいせいした。
ティータイムが終わるまでは、
城内の廊下を歩いていると、多くの城の者たちとすれ違う。
彼らは足を止めて自分におべんちゃらを使ってくるが、誰ひとりとして、この言葉を言ってくれる者はいなかった。
「おっ、今日のビキニアーマーはひと味違うな、もしかして、特別なヤツか?」
その台詞はなぜかミロの言葉になって、
彼女は思わず、城の壁を殴っていた。
――くそっ! なんで頭の中にミロが出てくんだよ!
たしかにアイツは、アタイのちょっとした変化にも気付いて、声をかけてくれた……!
でもそれが超ウザかったんだ!
やっとヤツに見られなくなって、せいせいしてるってのに……!
っていうかなんで、城のヤツらはアタイの『勝負アーマー』に気付かないんだよ!?
「あっ、
今日も淫売みたいな格好してましゅねぇ!」
エルフやオルグ族と同じ長寿なのだが、ずっと子供のままの姿なのが特徴だ。
永遠のクソガキキャラである
「おやぁ? 自慢のお肌も、いい加減たるんでるんじゃないでしゅかぁ?
このまま老化一直線! そろそろその格好も卒業でしゅね、ババア!」
「うるせえっ! アタイはいま機嫌が悪いんだ!
ブッ飛ばされたくなかったら、あっち行ってろクソガキっ!」
「ついに更年期障害まで出ちゃったでしゅか、怖いでしゅぅ~!」
「わおぅ、どうした、
お前から俺のところに来るなんて、珍しいじゃねぇか」
「なぁ、
たしか、南の見張り台からだったよな?」
「ああ。そっから南に向かって大砲で撃ち出した」
「ミロがどこに落ちたか見届けたか?」
「そこまでは見てねぇよ。っていうかもう生きてねぇだろ。
見張り台の高さから大砲で撃ち出されたんだぞ」
「そっか、そうだよな、もう生きてないよな」
「そうだよ、お前なんかいちばんせいせいしてるだろ。
お前のビキニアーマーを、あの野郎が二番目によく見てたからな」
「二番目? 一番目はどいつだよ?」
「俺さ。
付き合えよ、
お前もそのつもりでここに来たんだろ?」
もちろん
しかし心の中に空いた穴を、なぜ空いたのか自分でもよくわからない穴を埋めるために、彼女は頷く。
「……いいよ」
「わおぅ、マジか!?」
「ただし、アタイのいつもと違うところを当てられたらね」
もう恋人同士になったかのように
「そんなことなら簡単だ。俺はずっとお前を見てきたんだからな」
「そう。で、答えは? アタイがいつもと違うところ当ててみな」
「いつもと違うところは『全部』だ」
「……はぁ?」
「
昨日よりも今日、今日よりも明日、どんどんイイ女になっているんだ。
最高になっていくお前に、俺は毎日恋に落ちてたんだぜ?」
甘い言葉を囁きながら、唇を寄せる
しかしそれが届くよりも早く、彼の股間には膝蹴りが埋没していた。
「ぎゃいぃぃんっ!? な、なにしやがんだ、
股間を押えて飛び跳ねる
「ハズレだよ、
そのまま怒りに任せて
ちょうど目の前を通りかかった兵士に向かって怒鳴りつけた。
「おい、そこのお前! いますぐ捜索隊を編制しろ!」
「あっ、
……で、なんの捜索隊ですか?」
「ミロの捜索隊に決まってんだろうが、このバカっ!」
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