第5話
いくつもの衝撃的事実を前に、俺の心臓は胸を突き破りそうなくらいに暴れていた。
レベルの節目のひとつといわれる、レベル20になったことの喜び。
そして100年ぶりマトモに見た他人の顔。
しかもキャルルはとんでもない美少女だったので、俺は不意討ちの連発をくらったみたいになっていた。
もう、いてもたってもいられなくなり、
「……ちょ、ちょっとトイレ!」
俺はキャルルの身体を突き飛ばすようにして、聖堂にあるトイレの中に逃げ込んだ。
額の汗を拭い、深呼吸をすると、動機が少しは楽になった。
そして指でサインを描き、スキルリストを開いてみる。
目の前に浮かび上がったウインドウに、落ち着きかけていた俺の心拍が、また跳ね上がった。
「な、なんだ、このスキルツリーは……!?」
-------------------
ミロ レベル20(スキルポイント残1)
刮目
5
1
2
2
2
2
0
1
1
3
聖眼
0
0
0
0
邪眼
0
0
0
0
-------------------
持って生まれたスキルツリーというのは、レベル20になると上級のスキルツリーへと変化する。
上級になるとスキルの名称が変わり、威力も高くなる。
そしてさらなる新スキルも開放されるんだ。
『よく見える』は上級になったことにより『
しかもツリー内のスキルも名称変化している。
いちばん大きな変化としては、『聖眼』と『邪眼』という、ふたつのスキルツリーが追加されていることだ。
名前からして凄そうなスキルが並んでいる。
なかでも強く心を惹かれたのは『聖眼』ツリーにある、『
透視って……物が透けて見える能力のことだよな?
そんな夢みたいな力が、俺に備わったというのか……!?
俺ははやる気持ちを抑え、レベルアップによる得たスキルポイントを、『透視』に振ってみた。
そしてトイレの中でひとり、あたりをきょろきょろ見回す。
しかし、天窓にあるステンドグラスすら透けて見えない。
壁をじっと見つめてみたり、「見えろ! 見えろ!」と念じてみても、なにも起こらなかった。
ぜ……ぜんぜん『透視』できねぇ……。
もしかしてコレは、名前ばっかりで何も起こらないスキルなのか?
だとしたらそれこそ本当に『ド外れスキル』じゃないか……!
俺のドキドキはすっかり消沈。
ガックリと肩を落としてトイレを出る。
すると、キャルルが大きな胸をゆさゆさ揺らしながら、慌てて駆けよってきた。
「ちょ、マジ大丈夫!? もしかしてミロって、他人の顔を見るのが苦手なん?
それで気分悪くなっちゃったんだよね?」
彼女は本当に俺を心配してくれているようで、また心底申し訳なさそうにしていた。
生まれてこのかたここまで他人に気づかわれたことなどなかったので、俺のドキドキがすぐに戻ってくる。
不意に、開きっぱなしの窓から強い風が吹き込んできて、俺たちの間を抜けていった。
風が運んできたゴミが左目に入り、俺は思わず左目を手で押えた。
「うっ!?」
と、しかめた右目で見た光景に、
「うおっ!?」
俺は思わずひっくり返るほど驚いてしまった。
なぜならば、キャルルの聖女のローブが透け……。
薄ピンクのお揃いの下着が、丸見えになっていたんだ……!
キャルルは自分の下着が透けているとも知らず、
「ど、どうしたん急に!? マジ大丈夫?
顔が真っ青になったり真っ赤になったり、へんな風になってるよ!?」
そりゃ変にもなるさ。
女の下着姿なんて、こちとら初めて見たんだから……!
キャルルはしゃがみこんで手を差し伸べてくれる。
下着姿のギャルにこれでもかと迫られて、
「うっ……うわあああああっ!?」
俺は反射的に、ゾンビにまとわりつかれた人みたいに這い逃げてしまった。
左目を押えていた手をどけて、その手で左目をゴシゴシとこする。
ゴミが取れたので、両目でキャルルを見てみると、いつもの聖女ローブの姿に戻っていた。
も……もしかして……。
『聖眼』スキルを発動するには、右目だけで見る必要があるのか?
俺はおそるおそる、左手で左目を覆ってみる。
すると、キャルルの純白のローブが霧のように消え去り、生まれたままの一歩手前の姿になった。
キャルルはさっきから擬似的に服を脱がされたり着せられたりしているのに、何をされているのかわかっていない。
重病人を見るかのような目で、俺を見下ろしていた。
「ね、ねえ、マジで大丈夫? まさかミロがそんなに人の顔を見るのが苦手だなんて知らなくって……。
マジごめんね」
健康的な色をした、幅広の肩をしゅんと落とすキャルル。
こうして改めて身体を見てみると、彼女はエルフとは思えないほどに肉付きのいい身体をしていた。
って、俺はなにやってんだ!
これじゃ完全にデバガメ野郎じゃないか!
俺はブンブン頭を振って立ち上がる。
「い……いや、俺のほうこそジロジロ見て悪かった」
「えっ、そんなこと気にしてたん? 別に見るくらい気にすることないっしょ?
あーしでよかったら、いくらでも見ていーよ?」
キャルルはふざけ半分でウッフンとポーズを取った。
見られたのが下着姿だなんて、夢にも思ってないだろう。
とりあえず俺は、このスキルのことは秘密にすることにした。
すると、白と黒を混ぜ合わせたような、へんな色の光りが俺を包む。
キャルルは自分のことのように喜び、手を叩いて祝福してくれた。
「あ、もしかしてレベルアップしたん? おめでと~! おべんと~!
でもレベルアップって、身体をすっごく鍛えたり、モンスターと戦ったり、なにか人生で大きな経験をすると上がるっんしょ?
そんな風なことをしたようには、見えなかったけど……」
「いや……俺は女の子と接したことがほとんどないから……。
たぶんそれで、レベルアップしたんだと思う……」
俺の告白にキャルルはキョトンとしていたが、すぐにケタケタ笑いだした。
「あっはっはっはっはっ! ミロって、女の子とこーやってジャレあったことないの!? マジ、ヤバくない!?
しかもそれでレベルアップするだなんて、超ウケるんですけど! あっはっはっはっはっ!」
俺がブスっとしていると、キャルルの身体が桜華な光に包まれていた。
途端、キャルルの笑顔が、桜の花がほころぶようにポッと染まる。
「そ、そういえば……。あーしも同じ年頃の男の子とジャレあったの、初めてだった……!」
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