折れた木の枝(旧)

雨世界

1 ねえ、仲直りしようか。

 折れた木の枝


 登場人物


 山瀬紗枝 真面目な女の子 十六歳


 大野千枝子 紗枝の友達 いつも笑顔の明るい女の子 十六歳


 湊川笛 いつもぼんやりしている男の子 十六歳


 プロローグ


 綺麗事だね。大っ嫌い。


 本編


 ねえ、仲直りしようか。


 立ち止まり、前を向くいて、もう一度歩き出す。やがて私は、駆け出していく。……大好きな君のいるところまで。


 ねえ、いつまでそうしているの?

 君が振り向いてくれるまで、いつまでもだよ。


 君が私にそんなことを言ってくれたのはいつのころだっただろう? まだ温かだった時期。

 桜の咲いていた春の季節のことだろうか?


 季節は春。


「はぁー」

 と山瀬紗枝は自分の席のある教室のはじっこのところから、窓の外の晴れた春の青空を見ながらそんな深いため息をついた。

「どうかしたの? そんな深いため息なんてついちゃって」

 と紗枝の友達の大野千枝子がそういった。

「別になんでもないよ」

 千枝子を見て紗枝は言う。

 でも、本当はなんでもないことなんて全然なかった。

 紗枝は自分でも不思議なくらい、今、一人の男性に恋をしていた。

 恋なんてまだまだ先のことだと思っていた紗枝は、いきなり自分がそんな深い恋に落ちてしまって、自分自身でもなんだかすごく混乱していた。

「あ、もしかして恋の悩み?」

 くすくすと楽しそうに笑いながら千枝子は言う。

 そんな千枝子の言葉に思わず紗枝は動揺する自分の心をを隠しきることができずに、机の上に置いてあった鉛筆を机の下に落としてしまった。(藤の花の模様が描かれているお気に入りの鉛筆だった)

「まあ、真面目な紗枝に限ってそれはないか」

 とやっぱり笑いながら千枝子は言った。

「そうだよ、ないない」

 ふふっと笑ながら、何事もなかったように落ちた鉛筆を拾って紗枝は言った。


 そのときに気がついたのだけど、紗枝のお気に入りの鉛筆は折れてしまっていた。そのことに気がついて紗枝は、……ついてないな、と思いながらも、もっとしっかりしないと、とぼんやりとしている自分自身にそう言い聞かせた。


 紗枝が恋をした相手は紗枝と同じ学年の男の子で、名前は湊川笛と言った。笛は紗枝の隣の教室にいる、いつもどこかぼんやりとしている男の子で、とても綺麗な顔立ちをしていて、無口で、本をいつも読んでいるような、静かな男の子だった。


 結構隠れた人気のある男の子だということだったけど(さりげなく、千枝子に聞いてみたら、そんな答えが返ってきた)紗枝はこれまで笛のことをとくになんとも思ったりはしていなかった。


 紗枝が恋に落ちたきっかけは、……そんな笛の笑顔だった。


 図書室で、偶然、笛と二人きりになった紗枝は笛が忘れていった読みかけの本(なんだか難しそうな昔の本だった)を見つけて、それを「湊川くん。本、忘れてるよ」と言って、学校から帰ろうとしていた笛に手渡した。

 そのとき、笛は「どうもありがとう。山瀬さん」と言って、本当に嬉しそうな顔をして、にっこりと笑った。

 その笑顔を見て、紗枝は笛に恋をした。


 それから紗枝はなんとなく笛のいる図書室によく顔を出すようになった。

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