2
この日も裕太は洗濯籠を抱えコインランドリーに向かった。
「こんばんわ」
そこには一昨日、昨日ともはや常連となった男性が定位置に座っていた。挨拶を返し洗濯物を入れ二つ隣に腰を下ろす。
するとそのタイミングで女性が一人コインランドリーへ入ってきた。女性は真っすぐ空いている洗濯機に向かい洗濯物を入れ始める。
そして全てを入れ終えドアを閉めようとした時。
「落ちてるよ(落ちてますよ)」
裕太と男性が声を揃えて彼女の足元を指差す。
「あえっ?」
女性は二人の方を振り向くと足元を見た。
その後、そこに落ちていたタオルを拾い洗濯機へ放る。
「ありがとうございます」
小さな声でお礼を言うと裕太の一つ空けた隣に腰を下ろした。
少しして三台分の洗濯機が音を鳴らす中、響く女性の深い溜息。
「何か悩み事?」
それを聞いた男性が少し前のめりになって女性を見ながら尋ねた。
「え? まぁ……はい。そんなとこです」
少し驚きながらも女性は頷き答えた。
「話せることならこのお兄さんに相談してみたら? 俺も解決してもらったし」
そう言いながら男性は裕太を指差していた。その指に気が付いた裕太は少し焦りを見せる。
「えぇ? ちょっと、勝手にそんな事。困りますよ」
「ほんとですか?」
「えぇー。――まぁとりあえず話だけなら」
声だけでなく表情まで哀愁漂うその女性に対して嫌とは言えず裕太は一応話だけは聞くことにした。
「私、同棲している人がいるんですけど最近その人が素っ気なくて。元々クールな感じの人だったんですけど前とか同棲し始めとかはもっと積極的に構ってくれたっていうか。最近はちょっかいとか出しても前みたいに構ってくれないし……。私って飽きられたんですかね?」
話している内に込み上げてくるものがあったのか女性はそう裕太に尋ねながら少し泣き出しそうだった。その顔を見てはどこか解決しなくてはいけないような気がして分からないなりに考え始める。
「んー。――同棲して長いんですか?」
「そこまで長いって訳じゃないですけど短くもないって感じです」
「飽きられてはなさそうだけどな」
「そうですよね」
「じゃあなんで? ――まさか他に好きな人が……」
自分で言った言葉に自分でショックを受けたのか女性は俯く。
「違うような気もするんですけど……んー」
そして少し考えてみたが結局、前回同様に名案やこれといった何かは思い浮かばず。
「もう普通に訊いたらどうですか?」
「でもそれってめんどくさいとか思われないですか? それが心配で」
「思われないと思いますけどね。それか多分、慣れたとかじゃないですか?」
「私にですか?」
「というより同棲に。今までは時間を合わせて会うかお泊りでしか会わなかったのが同棲になったら家に帰ればいつでも会えるわけじゃないですか。最初はそれが新鮮だけど毎日その日々を過ごしている内に慣れてきて、本人はそんなつもりないけど接し方がちょっと雑になったというかより素になった? 分かんないですけど。とりあえず慣れたんじゃないですか? それでそんな感じになっちゃったんだと思いますけど」
「分からなくはないな。確かに俺もしばらくしたら慣れ始めたし」
「そうなんですかねぇ。でも一応聞いてみます」
またしても在り来たりなことしか言えなかったと若干ながら凹む裕太。
そしていつも通り先に男性が帰り、しばらくしてから裕太は女性に一言だけ言って帰った。
――四日後。
いつも通りコインランドリーに行くといつも通り男性が先に居て、裕太はいつもの場所に座った。
そして少ししてあの女性が洗濯物を持ってコインランドリーへ。その表情はどこか嬉しそう。
そして洗濯物を入れ裕太の一つ空けた隣に腰を下ろした。
「あの! 昨日はありがとうございます!」
昨日とは違い元気に満ちた声でその女性はお礼を言った。
「あの後、ちゃんと話してみたんですけど本人はそんなつもりはなかったらしくて。今では前みたいに……えへへ」
女性は零すように笑みと笑いを浮かべる。
「良かったですね」
「良かったな」
「お兄さんのおかげです! ありがとうございます!」
今回も今回で特に何かした気はしなかったが問題が解決したならいいかと裕太はそのお礼を快く受け取った。
それからもはやルーティンと化したように先に男性が返りその次に裕太もコインランドリーを後にする。もちろん今では知り合いになった女性に一言言ってから。
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