第23話 芋虫と意味のない会話
◇
「ねえ芋虫さん、わたし元の大きさに戻りたいのだけれど」
小さくなったわたしは芋虫に問いかけました。
紫色の芋虫さんは赤色のキノコの上で不機嫌そうな顔をして手元の水タバコのパイプを口にくわえています。
煙を大きく吸い込むとゆっくりとソレを吐き出しました。
ふわふわと宙に吸い込まれる煙が何だか綿菓子みたいに見えて、そういえば自分がお腹がすいていた事に気がついたのです。
「奇妙な事を聞くね。初対面の私にお前の元の大きさが分かるはず無いじゃないか」
確かにその通りです。その通りなのですがわたしにはもうこのへんてこな芋虫さんしか頼る相手がいないのです。
「そこを何とかお願いします」
「ふむ ”何とか” ねえ」
芋虫さんは面倒くさそうに身体を起こすと大きなあくびをしました。
それからキノコの下にいるわたしを見下ろすと何かを思い出すようにゆっくりと言葉を発したのです。
「私が乗っているこのキノコの片方を食べれば大きくなる。もう片方を食べれば小さくなる。どちらを食べるかはお前次第だ。なにせ私はお前の元の大きさとやらを知らん」
さて、どうやら芋虫さんが乗っているキノコを食べればこの問題は解決しそうなのですが困りました。どちらを食べたら良いのでしょうか。
「芋虫さん、右と左のどちら側を食べたら大きくなるの?」
「そんな事は知らんよ。何せ私は一度も食べたことがないのだから」
わたしは悩みます。
だってこれ以上小さくされたらたまったモノじゃありません。
右か左か・・・
左か右か。
悩んでも悩んでも答えが出るはずもありません。わたしは思い切ってどうにでもなれという気持ちでキノコの右側を食べる事にしました。
そうしてわたしがキノコに手をかけた時、上に乗っていた芋虫さんが思い出したという風に問いかけてきたのです。
「そういえばお前さんはいったい誰なんだい?」
わたしが・・・誰なのか?
何故かその質問に、わたしは答える事ができませんでした。
わたしは
一体
誰?
◇
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