幕間2:蠢動

難産でした。多分というかほぼ絶対推敲します


##########


~数日後~


side:???


「ふんふふんふーん♪」


 とある高級ホテルの一室。国内でも有数のホテルとして名を馳せるそのホテルのスイートに泊まる妙齢の女性は上機嫌に鼻歌を歌いながら備え付けのソファでくつろいでいた。


 右手には湯気を漂わせているコーヒーが左手にはタブレットが握られておりなにか女性にとって有益な情報があった事が伺い知れる。


 コーヒーを口に含みながらさらにタブレットへと目を通す女性のもとを訪れる人間がいた。


ガチャ


「あっ、先生起きてたんですね」


 先生と呼ばれた女性がその声に反応して顔を上げる。


「やぁ、エフィー。例の件はどうだった?」


「結構渋られちゃいましたけどなんとか。来日は2週間後には手配してくださるそうです。今引き受けてる依頼を完遂したらの話ですけど」


「2週間か...もう少し早く動きたいが、仕方がない。我慢するか...現在のの行動は?」


「現在は自宅で療養中の線が濃厚かと。ここ数日スミダには潜っていませんね」


「なら、まぁいいか」


 女性は再び機嫌よさそうにタブレットを弄る。


「あの...先生?本当に行かなきゃいけないんですか?わざわざこちらが出向かなくても迎えをよこすなり呼びつけるなりすればいいのでは?」


「君は見かけによらず出不精だったねぇ。そんな助手の健康に気を使った私なりの配慮だよ」


「えぇー」


 メフィーと呼ばれた女性はやや不満そうな表情で応える。


「さて、それじゃあそろそろ仕事に戻るか。政府からの依頼オーダーは?」


「えぇと...今回の依頼オーダーは50層の地形情報の収集ですね。護衛にはグレイスさんがついてくれるとのことです」


「彼女か...うん、ちょうど彼への意見を聞きたかったところだ。政府も気が利くじゃないか」


「まぁ、50層まで安定して潜れるのってグレイスさん率いるスターレイルぐらいですから」


 そんな風に会話を弾ませながら彼女、アメリカの国営探索者でありダンジョン研究の第一人者でもあるソフィア・G・ロゥクーラは仕事へと向かった。



#####



「クソっまたか...!」


 ダンジョン協会ニューヨーク支部に併設されているカフェで一人の男が突然大きな声を上げた。

周りの人間は何事かとそちらに視線を向けそして「あぁ、またか...」とすぐに興味を逸らす。


「落ち着けよジャック、周りの奴らに迷惑だ」


「キング!これが落ち着いていられるか!2度目だぞ!2度目!我が国ともあろうものが2度も小国に出し抜かれたのだ!」


「はぁ...」


 キングと呼ばれた男がジャックを宥めようとするもどうにも怒りが収まらない様子。すぐに諦めてキングは辟易としながら彼らの主の到着まで好きにさせることにした。


「民間初の20層到達。その名誉を始めに手にするのは我が国こそふさわしいというのに!」


「あら、そうかしら?」


 荒ぶるジャックに微塵も怖気ることなく一人の女性が近づいて声をかけた。

男のこれまでの様子から怒りの形相でそちらを睨みつけ――るかと思いきや、困惑したような声音で疑問を口にした。


「グレイス!貴女は悔しくないのか?」


「そうは言ってもねぇ...アメリカうちでは見込みのある探索者はすぐに国営にスカウトされちゃうから民間はあんまり育ってないじゃない」


「仮に育っても国営探索者への誘いを断るような酔狂な奴はなかなかいねぇしなぁ」


便乗するようにキングも続ける。


「くっ...しかしだな」


「そういえばっていうのは?以前にも何かあったかしら?」


 グレイスと呼ばれた女性が疑問を口にするとその質問に答えたのは目の前の二人ではなく、後ろからやってきた妙齢の女性だった。


「探索者資格の最年少保持者の更新。数か月前に日本で最年少記録保持者が更新されたわ」


「クイーン、遅かったじゃねぇか」


 生真面目な彼女には珍しいパーティー内最後の集合にキングがなにかあったのかと声をかける。


「女史に連絡を取っていたの」


「女史に?なんで?」


 疑問が口から出る。ここ最近で何か報告すべきような事柄があっただろうか?とキングが思案していると...


「ジャックが嘆いていた民間初の20層攻略、くだんの最年少資格保持者が一枚噛んでたらしいわよ。2週間後に女史自らスカウトしに行くって話」


「...マジか」


 国内でウチのパーティーのリーダーと並んでトップクラスの実力と認知度を誇るソフィア・G・ロゥクーラが自ら足を運んでスカウト。前例のない彼女の行動に驚きが隠せない。


「大マジ」


「へぇ~会えるのを楽しみにしておかなくちゃね」


 わくわくという表現がこれ以上ない程に似合った表情でリーダーがそう呟く。


「詳しい話は女史から聞いて。ちょうどこれから50層の護衛依頼が入ったから」


 クイーンの言葉にキングは思いっきり顔をしかめた。


「うへぇ~またかよ...なぁ、たまには休暇を取ろうぜ。このままじゃ日本のブラック企業にでも勤めた方が休日が多くなっちまう」


「そう言わないの。この依頼が終わったら女史が帰ってくるまでの間はぬるい依頼になるはずだから」


「それ、休みじゃねぇじゃねぇかよ」


「ふん!キングは愛国心というものが足りんのだ!我が国のことを思えば依頼など幾らでもこなしてくれよう」


「っせーなぁ、筋肉愛国心バカが。んなもんには1ドルの価値もねぇんだよ」


「貴様ァ!!」


 一触即発の空気


 周囲の人間が戦々恐々としていると、その空気を諫めたのは彼らのリーダーだった。


「はいはい、喧嘩きんしー。さっさとソフィーに会いに行きましょ、クイーン連れてって」


「えぇ、行きましょう」


 先陣を切って彼女は歩き出す。

アメリカトップの国営探索者“勇者”グレイス・S・アルゲンテはその実力にふさわしい歩みで親友のもとへと歩き始めた。



#####


 民間探索者パーティー初の20層到達


 そのニュースは国内を飛び越え世界各地で注目を集めるニュースになった。

当然、緋色の獣狩りスカーレット・シーカーは一躍有名となり民間探索者の中では頭一つ抜き出た存在となる。


 そんな中、緋色の獣狩りスカーレット・シーカーと並び一部で注目を集めた人物がいる。


 曰く、探索資格の最年少記録更新者


 曰く、探索歴数か月の新人


 曰く、魔法の使い手


 曰く、緋色の獣狩りスカーレット・シーカーが20層を突破できたのはこの助っ人のおかげである


 噂には尾ひれがつき、その正体は謎のまま。都市伝説のようにその存在だけがまことしやかにささやかれ始める。


 しかし、ごく限られた一部の人間だけはその噂が真実であることを知っている。


 彼らは皆、一様にを求めて動き出す。


 やがて、誰もが知ることになる。


 今、狼の遠吠えが世界に大きく木霊こだまする。


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