第28話 不運な遭遇

 時は少し遡る。一行が8層の探索へと乗り出したのはウォーミングアップを終えてからそう長くはかからなかった。


「順調ね」


「ん、中型との遭遇なし。今のところ誰の索敵にも引っ掛かってない」


 志穂さんと千尋さんの言う通りダンジョン侵入からこれまで遭遇するのは小鬼ゴブリン森雀リェス=バラベーイのような小型ばかりで孤狼アインズヴォルフ猩々熊ショウジョウグマはおろか森狐フォレストフォックスさえ遭遇していない。


 ダンジョンの各層に生息しているモンスターたちはそれぞれの生態系に沿った行動をとっているとの研究結果もあるぐらいなので運良ければ(悪ければ?)ほとんどモンスターと出会わずに次層へと進むことは特段おかしなことではないがそれでも珍しいことではあった。


「ま、余計な消耗をしないで済むんならそれに越したことはないだろ」


 三浦さんも話の輪に加わってパーティー全体で幸先がいいことを喜んでいた時だった。

何の前触れもなく目の前に孤狼と猩々熊が出現した。

 

『は?』


AOOOOooooooooon


GOAAaaaaaaaaaa!!



 突然だがダンジョン内のモンスターには大きく分けると2種類いる。

一つは同種のモンスター同士の交配によって生まれる自然発生タイプ。このタイプのモンスターは地球上に生息する動物と同じように赤子として生まれ時間をかけて成長していく。しかし、ダンジョンという生存競争のるつぼを幼少期の身で生き残るのはとてつもなく厳しく探索者に出会う前に他のモンスターの餌として生涯を終えてしまうことが多い。

遭遇自体が稀なタイプでもある。


そしてもう一つ、ダンジョン内の多くのモンスターが属するタイプが経過発生タイプだ。各層ごとの時間経過や定められたモンスター数の最低値を下回った場合にダンジョン側から補充されるモンスターのことで既に成熟した肉体を持って生まれてくる。このタイプのモンスターが生まれてくる場所は湖の上や溶岩の中などの発生後すぐに死んでしまう場所を除いたランダムな場所であり、極まれに同じ場所に2体同時に出現してしまうこともある。


Grrrrrrr...


GaaaAAAAA!!



「さて...困ったなぁ」


「おいおいまじか」


「えぇ...?」


「ついてない」


「そうじゃのぉ」


「孤狼と猩々熊の同時遭遇、ですか」


 幸先がいいと話をしていたばかりのこの事態に誰もが困惑していた。が、当然モンスターがそれを考慮してくれるはずもなくゲリラ的に始まった戦闘は初撃を猩々熊の体当たりから幕が開けた。


「っ!孤狼は俺と信也で抑える!他は猩々熊を頼んだ!こっちは時間稼ぎを優先するから急いでけりをつけてくれ!」


『了解!』


 体当たりを横っ飛びで避けながら指示を出した佐久間さんとリーダーの指示に従って孤狼の方へと動き出す三浦さんを視界の端に確認すると意識を猩々熊に集中する。

一度は討伐したことがあるとはいえ、奇襲が上手くいっただけで正面切っての戦闘は初めてだ。ここは技術も経験も遥かに上回る白柳さんに最前衛を任せてサポートに回った方がいいだろう。そこまで考えると荷物を少し離れたところへ投げて、既に魔法の準備に取り掛かっていた志穂さんへと声をかける。


「志穂さん、魔法は?」


「3分凌いで。周辺の他モンスターの警戒と護衛は千尋がいるから考えなくていいわ」


「サポートも一応するけど期待しないで」


「分かりました。白柳さん正面お願いします。自分はサブに回るので」


「承知した。坊主も気ぃつけなされ」


 中距離や遠距離を得意とする志穂さんと千尋さんの間に位置取りを移した白柳さんと挟み込むように猩々熊の後ろへと回り込む。

再びの突進を流れるように横に躱した白柳さんは勢いを殺さないようにしながら脇腹を斬りつけている。


猩々熊の意識が白柳さんへと向けられると同時、死角に入るように意識して後ろ足へ


深手を与えるよりも出血を意識した浅い斬撃を見舞っていく


ダメージ事態はさほどでもないのだろう。こちらを無視し、より深手を与えている白柳さんへの攻撃を続ける猩々熊


しかし、攻撃が命中することは無く危なげなく流れるような動きで白柳さんは避け続ける


合間合間で千尋さんが猩々熊の顔目がけてナイフを投げることで小さく怯み


ストレスから徐々に大ぶりになる腕の振り回し


大きすぎる隙に白柳さんがカウンターを合わせ、ひるんだ直後


コツコツ積み重ねていた斬傷に手のひらをかぶせると――


“凍結”


右後ろ脚を完全に凍らせる


突然の異常に猩々熊が困惑しているのを確認したと同時


「下がって!」


炎球フレイムスフィア


声が聞こえるとすぐさま飛びのくようにして距離を取った


志穂さんの方に視線をやると正面に魔法陣を作り出し、その中央から複数個の火球を同時に射出していた


火球が直撃すると同時、肉の焦げる匂いが鼻をつく


 この調子なら任せてもいいだろうか。孤狼は複数人で相手をすればするほど凶暴性が増すという特徴を持つ。ゆえに少人数の方が倒しやすかったりもするのだ。

4人で合流するよりも先に奇襲を仕掛けに行きたい


「白柳さん!ここお任せしてもいいですか?」


「どうかしたかの?」


「4人で合流するよりも先に孤狼に奇襲を仕掛けておきたいです」


「ふむ...分かった。熊公はすぐに終わるじゃろ。ここは任せなさい。二人にも説明しておく」


「ありがとうござます」


 話がまとまるとすぐさま外套に身を包んで樹を上っていく。とっかかりの多いダンジョン内の樹は上りやすく少し離れた場所で孤狼の足止めをしている二人を見つけるのは容易だった。そちらの方へ出来る限り音を立てずに木の上を移動すると、迷彩を発動させるために静止して戦闘の様子を観察する。


 こちらへと移動してくる際に二人の方が気づいてくれたのだろう。不自然にならないように徐々にこちらへと戦闘場所を移してきてくれた。

周囲との同化が済み、孤狼がちょうど真下へと来たタイミングで枝を揺らさないように静かに落下する。


両手でしっかりと斧を握り振り上げると、重力を味方につけて首元へと叩きつけた


肉を絶つ生々しい感触が戦闘の終わりを告げてくれる


首と胴が綺麗に分かれているのを確認すると、一先ずの戦闘の終わりに肩の力を抜いた


「ナイスタイミング」


「助かったよ、4人で来なかったのはいい判断だった。ありがとう」


「お二人も誘導ありがとうござました」


 猩々熊との戦闘を終えて向かって来ていた3人が自分が投げた荷物を持ってきてくれており、礼を言って受け取ると2体の魔石だけを回収して再び10層へ向けて陣形を組んで歩き出した。


――――――――――

 近況報告にて今後の活動について報告してます。

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