第13話 日頃の感謝、癒しの時間
帰宅するとまずは
てきぱきと作業をしている間に、日頃お世話になってるお礼に楓さんを夕食に誘うことを思いついたのでブロック肉を一度冷蔵庫に全てしまうと部屋を出て、楓さんの部屋を訪ねる。
呼び鈴を鳴らすと、扉の向こうから微かに返事をする声とこちらへ向かってくる足音が聞こえた。
「あら?誰かと思ったら紫苑君。どうしたの?何かあった?」
訪ねてきたことが意外だったのか、少し驚いた様子だったけれど特に気にすることもなく本題を切り出した。
「夕飯、一緒に食べませんか?」
#####
「もー急なお誘いだったからびっくりしちゃった。今度からは早めに教えてね紫苑君」
「はい....じゃなくて分かった。次から気を付けま...気を付けるよ」
楓さんを夕食に誘ってから最初に言われたことは感謝の言葉でもでもお断りの言葉でも無く、説教だった。
「もー!敬語止めてって言ってるでしょ」
玄関前まで出てきた楓さんはつま先立ちになってこちらに向かって両手を伸ばし頬に添えると、そのまま外側に引っ張った。
「あの、いひゃいれふ」
「また敬語。夕食のお誘いは嬉しいけど先にその口調をどうにかしてちょうだい。いい?」
「ふぁい......じゃなふてふぁかっふぁ」
そんな一幕を経て、紫苑と楓は一先ず紫苑と美春が暮らす201号室へと戻ってきた。
「それで、どうして急に誘ってくれたの?もちろん嬉しいけれど心当たりがないからびっくりしちゃって」
「今日の探索で食材が手に入ったからせっかくならいつもお世話になってるお礼にと思って」
「...待って、探索ってことはダンジョン、だよね?え?モンスターって食べられるの?」
「食料系モンスターっていう分類に分けられるモンスターはかなり美味しいらしいで...美味しいらしいよ。まだ一般市場にはあまり出回ってないらしいから食べたことがある人は少ないらしい、けど」
「あっ、思ったより普通のお肉と同じ見た目してるんだね。もっとゲテモノっぽい見た目を想像してたんだけど」
「流石にそんな食材、美味しかったとしても持ってきま...持ってこないよ。みはるに食べさせるのに変なものは出したくないし」
先程、冷蔵室に入れておいた分を取り出し調理を開始しようとすると楓さんが口を開く。
「ねぇ、私がやろうか?作る前に呼んだってことはお手伝いくらい期待してたんだよね?豚肉と一緒の扱いでいいなら私やっとくよ?
紫苑君はダンジョン探索頑張ってきたんだからみはるちゃんを迎えに行く時間までゆっくりしてて」
「いや、でも――「でも、は無し」
「分かりま...分かった。じゃあ、ちょっと向こうで電話してくる」
「はーい...ホントに探索者してるんだよねぇ」
親の心子知らず
自室へと踵を返す我が子同然に愛おしい甥っ子がその身を危険に投じて妹の為にお金を稼いでいるという事実を改めて目の前に突きつけられたような気分になった楓はそっとため息を吐くと、目を背けるように料理にとりかかり始めた。
#####
楓さんの勢いに押し切られてしまったけど、せっかくの厚意を無下にすることなど出来るはずもない。
期せずして出来た時間で取り敢えず虎鉄さんに連絡を取ってみることにした。
「たしか、鍛冶屋 虎鉄の連絡先を教えてもらってたはず...あった」
prrrrprrrrprr...『ハイ!こちら鍛冶屋虎鉄です!武器ですか?防具ですか?それとも日用品ですか?ウチはご注文に合わせてお客様のご希望に必ず寄り添うことで評判があります!』
電話がつながると怒涛の勢いで捲し立てるように聞こえてきた声は渋さを感じさせる男性の声ではなく、快活な印象を持たせる若い女性の声だった。
「あの、虎鉄圭造さんはいらっしゃいますか?」
『お父さんですか?じゃなくて、店主ですね、ただいま呼んで参りますので少々お待ちください』
どうやら声の主は虎鉄さんの娘さんらしい。
(というか、既婚者だったのか。なんというか、意外だ)
『はい、電話変わりました。圭造ですが』
「こんにちは、虎鉄さん。大神紫苑です、今お時間大丈夫ですか?」
『おぉ、アンタか。どうした?ダンジョンなら行ってねぇぞ。あの後、嫁にこっぴどく叱られちまったからな。それに、ちょうど今大口の仕事が終わったところだ』
「なら、ちょうどよかったです。実は...」
今日の探索の成果を手短に説明すると、
『マジか!そいつぁスゲぇ!で、いつだ?いつならこっちに持ってこれる?俺はいつでもいいぞ、というか早く来てくれ!明日か?いや、今日がいいな。今日にしよう!今からそっち向かうからどっか適当な場所で――』
「落ち着いてください。ひとまずの約束では明後日、金曜の予定に探索と護衛をするという約束です。まずは、明後日をどうするか決めましょう」
『お、おぅ、そうだな。取り乱しちまった。すまねぇ....そうだな、お前さんさえ良ければ今週は中止にしてもらいたい。まずは素材をどういう風に加工できるのか、その辺りの検証から始めたいと思ってるんだ。幸い、大口の仕事も終わったばかりで少しばかり間が空くからな。ちょうどいい』
「そうですか、自分も今週は7層と8層の探索に集中したいと思っていたのでそちらが構わないなら好都合です。では素材の受け渡しなんですが...明日、そちらへ持っていきます」
『おぅ、分かった。それじゃあ住所を教えとくからメモしてくれ。住所は――』
「では、明日の9時までにはそちらに着くと思うので」
『分かった。それじゃ切るぞ』
ツーツーツー
#####
「楓さん、みはるの迎えに行ってきます」
「はーい、気を付けてね」
電話を終えると、みはるを迎えに行く時間が迫っていたので楓さんに一声かけてから家を出た。
学校に近づいていくと、いつものようにみはるがこちらに手を振っているのが見える。それに手を振り返すと、みはるはこちらへと駆け出してきた。
「ただいまぁー!」
勢いよく駆けてきたみはるの体を優しく受け止める。
「あはは、まだ家に着いてないけどね?」
「お兄ちゃんのいるところがみはるの帰る場所だもん。だから、ただいま」
「...そっか、おかえり。みはる」
「うんっ!!」
「今日はみはるに食べさせたいものがあるんだ」
「えっ本当に?!ハンバーグ?」
「みはるは本当にハンバーグが大好きだな。ハンバーグではないけどきっと美味しいよ。楓さんが準備してくれてるから急いで帰ろうか」
「楓ちゃんもいるの?....うん!急いで帰ろ!」
手をつないで一緒に帰る。みはると過ごすこの時間こそが殺伐とした生活の中に潤いを与えてくれる唯一の時間だった。
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