第5話 2次試験③


 準備運動に柔軟を始めながら宗任さんが訓練の概要を話し始めた。


「実はこの班分けってそれぞれで適性のありそうな戦闘方法ごとに分けられてるんすよ」


「? というと?」


疑問に思った田本さんが首をかしげた。


「一口に戦闘といっても色々っすからね。前衛、中衛、後衛。タンクにアタッカーにサポート、遊撃なんかもあるっすね。

 それぞれに別の役割があって長所や短所も別々っす。例えば...」


宗任さんが辺りを見回して後方を指し示した。


「ほら、あそこ。笠本主任たちが筋トレしてるでしょ?あそこのグループは力こそパワー!みたいな筋肉つけて物理で殴るのに適性がありそうな人たちの班っす。

 人には向き不向きがあるっすから全員で同じことやってもムラが出るんすよ」


 指し示した先では笠松主任と3人の受験生がハードな筋トレを行っていた。


「まぁダンジョン潜ってりゃあそのうち力はつくんすけどね。ここら辺は講習でやると思うんで説明は省くっす。で、肝心のこの班はというと――――」


 ゴクリと誰かが息をのむ音が聞こえた。


「ヒットアンドアウェイ。攻撃を受けるのではなく躱す。身軽ゆえに手数で火力を取りやすい反面、一撃が軽いため決定打に欠けちゃうことも間々ある戦法っすね。

 お三方の身体能力は事前に書類で提出してもらいましたけど、まぁ女性を除くと今回の受験者の中でも筋力が低い部類に入ってるっす。なのでお三方に覚えてもらうのは一撃離脱や奇襲でモンスターに出来るだけ何もさせない立ち回りっす」


 そういうと宗任さんは柔軟を終え靴ひもを結びなおした。


「本格的な立ち回りを教えるのは明日からっす。今日はとりあえず基礎体力づくりのランニングとその他諸々のトレーニングを教えるっす。探索者は身体が資本っすからね。

 今日教えるトレーニングを日課にするのが理想ですけど...まぁそれなりにきついんで無理強いはしないっす。

 それと並行して効率のいい体の動かし方っつーのを徐々に覚えていきましょう。

 どうやら集合も早いみたいなんで明日からストレッチは時間前にやっておいてください。それじゃ行くっすよー」


 その後はランニング、トレーニング、休憩、ランニング、トレーニング、休憩と同じことを繰り返し続けた。


 教えてもらったトレーニングはヨガのように身体を柔軟に動かすようなものもあれば、原始的な筋肉に負荷をかける類のものもあり多種多様で一つ一つが効果的なものに感じた。


 自衛隊員がこれを毎日やっているのであればその強さは如何いか程なのか。ありえない想像ではあるけど自衛隊と対立するようなことは避けようと思った。


 訓練が終わる頃には皆くたくたになって地面に倒れ込んでいた。


「ぜぇ...はぁ...ぜぇ...はぁ...」


「よし、それじゃあ今日はここまでっす。明日に疲れを残さないようにしっかり睡眠をとってくださいね。そいじゃ、お疲れさまでした」


 ケロっとした顔で汗を拭っていた宗任さんはいまだ息を整えている自分たちを置いてその場を後にした。


「それじゃあ大神君、田本君、また明日」


「はい、明日も頑張りましょう」


「明日もよろしくお願いします」


 シャワーで汗を流すと、疲れから会話も少なく夕食を終え三者三葉の挨拶で別れ部屋へ戻ると倒れるように眠りについた。



#####



 翌日、ぐっすり眠れたことから疲労を残すことなく朝を迎えることが出来た。

朝食を終え、講習に行く途中で二人とあったのでそのまま一緒に講習を受けることに。


「今日は探索者の主な稼ぎとなるダンジョン内に生息するモンスターの特徴について解説する。

 まず基本的に探索者が討伐したモンスターをそのまま運ぶことはあり得ない。これにはダンジョンの性質が大きく関係している。

 討伐したモンスターは放置していると30分程でダンジョンが分解を始めてしまうからだ」


 ダンジョンにはいくつか不思議なシステムが存在する。その一つが分解作用。


 ダンジョン内では死んだ生物やいくつかの有機物は30分経つと粒子レベルまで分解される。


 どのような仕組みで分解されているのか、またどのようにして分解される物とされない物の区別がなされているのかはいまだに謎に包まれている。


「分解が始まると何も残らなくなってしまい、無駄足を踏むことになるから注意が必要だ。そうならないように討伐後30分以内で魔石だけは回収するように。

 モンスターの死体から魔石を回収すると分解までの移行期間が長くなる。周囲に危険が無ければ解体して素材を持ち帰った方がいい。

 ただ戦闘後に素材を回収する手間は思っているよりも時間がかかるからな。

 周囲への警戒もどうしても薄くなってしまうため単独ソロだと難しいこともあるだろう。

 素材は嵩張るから移動を制限されることもあるしな。そういう時は持ち帰らないという選択肢も視野に入れることが重要だ。だが――――」


 大きな金額を稼ぐためには素材の持ち帰りはほぼ必須になる。

 しかし単独ソロでの探索の場合、素材の持ち帰りは一歩間違えれば死に直結する。だからこそほとんどの探索者が利用している制度がある。


「パーティー制度。この制度を利用してパーティーを組めば、周辺警戒をしたまま素材の回収が可能だろう。パーティー制度は多くの探索者が利用している。

 そして君たちのほとんどが利用することになる制度だ。しっかり覚えておいてくれ。次は魔石について説明する。魔石とは――――」


 説明は続く。


 皆、真剣に聞いていて退屈そうにしている者はいない。それもそうだ、ここで学べることは探索者にならなければ知り得ないことなのだから。

 好奇心に満ちた目で説明を聞いている。


 魔石は現在、次世代のエネルギー源として活用するための計画が進んでいる。


 魔石から取り出せるエネルギーは変換効率が良く、他のエネルギー資源よりもクリーンなエネルギーとして注目され始めているらしい。


 換金された魔石は国がエネルギー資源として活用する予定とのことだ。


「次はモンスターについてだ。最も基本的なことだが、奴らは同種であっても皮膚や体毛の配色が異なる場合がある。これは『属性』という概念の影響で配色がその個体の有する属性を現している。

 例えば、そうだな...赤い鱗のドラゴンは炎の属性を有しているし、青い鱗のドラゴンは水の属性を有している、といった感じだ」


 おぉぉ、という声がそこかしこで聞こえ俄かに騒がしくなる。

騒ぎたくなるのも仕方のないことだろう。現代日本に生きていればその手の要素には心躍るものがある。


 本来、現実にはあり得なかった概念に紫苑も多少は気分が高揚していた。


「静かに。興奮するのは分からなくもないが、今は静かに受講してくれ」


 笠松主任の言葉で皆が集中力を取り戻し、その後も多くの為になる話を聞いて2日目の午前の講習は幕を閉じた。


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