第4話 2次試験②


 翌日、慣れない環境ゆえか早めに目が覚めてしまったので朝食を早めに済ませる。

時間を確認すると1時間ほど余裕があったので部屋で読書をして時間を潰す。


 時間通りに大ホールへ行くと、既にほとんどの人が集まっており、講習は予定通りに始められた。


「全員揃っているようだな。では講習を始める。講習に使う資料はソフィア・G・ロゥクーラ博士の著書を基に作成してある。興味のある者は自分でも買ってみるといい」


 余談だが、自分が暇つぶしに読んでいる本もロゥクーラ博士の著書だ。


 彼女はダンジョン研究の第一人者であり上級探索者でもある。世界各地のダンジョンを回り、ダンジョンに関する発見や見解をまとめた本を出版している。


 探索者なら知らない人はいないレベルの有名人だ。


「我々がダンジョンの出現によって失ったものはあまりにも大きいが、それと同時に得たものも多い。

 まず初めに挙げられるのは資源だな。ダンジョン内は階層状の構造になっていて出現した地域によっては内部の環境がある程度決まっている。


 日本のように四季がある地域のダンジョンは階層ごとの環境が多彩で多種多様な資源の確保が可能だ。

 ダンジョン内に存在している植物や鉱物は持ち帰ることができ、さらに一定時間が経過すると新しく発生するためほぼ無限の資源として活用できる。


 そのほとんどが既存の資源とは異なる特徴や性質を秘めているため、これからより一層生活は豊かになるだろう。それから――――」


 ダンジョンについての基礎知識の復習は進んでいく。


 まず初めにダンジョンは各階層に1か所ある次層への階段をことで先に進む構造だ。そのため、浅い場所を『浅層』、深い場所を『深層』と表現する。


 ダンジョン内で手に入る資源は有用なものが多く、探索者はこれらを持ち帰るだけでも相場に応じた報酬が得られる。


 ただ、採集だけなら戦闘を避けることは可能だろう。

だからダンジョン内に入ることを許されている一部の企業の採集班が探索者を護衛につけて採集をすることなどもあり個人の探索者では数を確保することが難しく1日の稼ぎとしては微妙といわざるを得ない。


 それに時間が経てば一般市場にも出回るようになり将来的に相場も今より下がるだろう。

 だからこそ、探索者の主となる稼ぎは――――



 笠松主任が時間を確認すると1日目の講習は残り数分で終わりを告げようとしていた。


「もうこんな時間か。では、今日の講習はここまで。明日は探索者のメインの稼ぎとなる怪物モンスターについて説明する。午後の訓練も頑張ってくれ、それでは解散」


 講習は自衛隊の探索任務中に実際に起きたことを織り交ぜて話してくれたため勉強になることが多く充実した時間だった。


 一人で昼食を食べていると、勝山さんと田本さんに声をかけられた。


「大神君、お昼ご一緒してもいいかな?」


 にこやかに言われると断りづらい。まぁ、そもそも断る気もないけれど。


「どうぞ」


「ありがとう」


 短い会話の後に静かに食事をしていると、勝山さんが質問してきた。


「大神君はいくつだい?」


「14ですね」


「ということは中学2年生か。どうして探索者になろうと思うのか聞いてもいいかな?あっ無理に答えなくてもいいんだけどね」


 少し踏み込んだ質問に答えるかどうか迷ったが、別に後ろ暗いこともないため簡潔に答えた。


「いえ、別にたいそうな理由は無いですよ。ウチは両親が早くに亡くなってしまったので今後のことを考えてお金を稼ぎたいだけです」


 突然の告白とそれを語る紫苑の無表情さに勝山は少したじろいでしまうがなんとか言葉を絞り出した。


「...それは、すまないことを聞いたね。申し訳ない」


「いえ、気にしないでください」


 食卓に気まずい雰囲気が流れてしまっているが、特に気にすることなく自分も質問した。


「お二人はどうして探索者になられるんですか?」


 その問いに先に答えたのは田本さんだった。


「僕は大学の友達と一緒に試験を受けたんだ。チームを組もうと思ってね。だけどその友達が1次の当日に風邪を引いちゃってね。

 とりあえず僕が先に資格を取って友達とは資格を取れ次第、チームを組むことになったんだ」


 田本さんの理由は学生らしい友人間でのチーム結成を前提としたものだった。


「あーそれは...ご愁傷さまです?」


「ほんとにね、アイツはいつも肝心なところで変なミスをするからなぁ。しかもそれが怪我したりだとか風邪引いたりだとかで本人も辛そうにしてるから責めづらいんだ」


 アハハ、と田本さんは苦笑いを浮かべていた。そんな田本さんに続けるように勝山さんも話し始めた。


「私は仕事をクビになってしまってね。まぁ、こんなご時世だ。しょうがない部分もあるのかもしれないが、妻子がいる身だし当時はかなり焦ったよ。

 歳も歳だから中々再就職が決まらなくてね。それならと、仕方なく探索者をやることにしたんだ」


 勝山さんもかなり苦労したんだろう。遠い目で昔を思い出していた。

ダンジョンの出現はいろんな分野に大小様々な影響を与えた。


 この事態を重く見た日本政府は数年前、経済界の重鎮に財閥としての復活を要請することになる。


 現在は5大財閥と呼ばれるようになった人たちが役割を分担して日本の経済を回している。


 財閥を中心とした経済体制へ新しく移行したことで企業は吸収合併・新設を繰り返し、ようやく今の形に落ち着いた。

 その過程で勝山さんは人件費削減なんかの理由でクビにされてしまったのだとか。


「...大変だったんですね」


田本さんが励ますように勝山さんに語り掛けた。


「まぁね」


その後も訓練まで少し時間があったため、二人と世間話をしながら時間を潰した。



#####



 指定された訓練場に行くと、宗任さんが待っていた。


「おっ、どうやらもう仲良くなられたようっすね。良かったっす。ちょっと早いっすけど訓練を始めましょうか」


 宗任さんの指示に従って柔軟を始める。


(対モンスターの戦闘訓練。探索者として成功するために、何よりもみはるの為に、ここで足踏みするわけにはいかない)


 一人気を引き締める自分をよそに厳しい訓練が幕を開ける。


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