第7話 灼熱地獄
警報が鳴りやまない。計器はどれもこれも異常値を示し、危険を示している。
「ダメです! 氷が足りません!」
灼熱地獄に放り込まれた人間共が、一瞬で燃え上がり、消し炭になっていく。本来であれば、熱さによる喉の渇きと飢えに絶望を与え、苦しめる場所なのだが、今のこの灼熱地獄はただの処刑場となっていた。
そして、その処刑の魔の手が、自らにも迫ってきている。
「管理棟の隔壁に異常! 扉の融解が始まっています!」
「局長! このままでは我々もコンガリ焼き上がってしまいます! 私はローストポークになりたくありません!」
豚鼻の部下が汗をダクダク流しながら訴えてくる。だがその意見には吾輩も同意だ。
「他の地獄との連絡路の状況は?」
「隔壁を閉じてあります。人間共の投入は落とし穴形式で行っていますが、その落し蓋も徐々に融解が始まっており、そう長くは持ちません」
モニターに映し出された映像では、天井から落とされた人間たちが、空中にいる間に発火し、もがき苦しみながら地面に血の華を咲かせている姿が浮かぶ。だがその映像もすぐにブラックアウトした。
「カメラが熱で溶けました」
「他地獄への隔壁に異常!! これは後十分も持ちません!」
「管理棟の地上隔壁に異常! 融解始まります!」
私は椅子から立ち上がる。
「他地獄と繋がるすべての通路を爆破封鎖せよ。総員は直ちに退避!」
部下たちが慌てて行動を開始する。
私は受話器を取り、情報局に一報を入れた。
電話の向こうから「はいこちじょでーす」という気の抜けた女の声が聞こえる。なんだこちじょとは、こちら情報局だとしたら略しすぎだ。
「灼熱地獄だ。管理局が溶けだしている。総員退避を命じた。……ああ。そうだ。制御が出来ない。氷が無いからだ。……そうだ。……え。そんな簡単に……いや、分かった。封鎖する。助かる」
あっさりと灼熱地獄の封鎖が受諾されてしまった。
しかし、あんないい加減な応対の娘が即答しても良いのだろうか……いや、どちらにしても私はちゃんと、情報局の局長席にホットラインを繋げた。その返答が帰ってきたという事は、それなりの命令権を持った立場の者であろう。
「大丈夫だ。履歴は残した。私は情報局局長の指示に従い、灼熱地獄を封鎖する」
机から大事な私物を鞄につめ、他の職員と共に管理棟を後にする。一度この灼熱地獄に放り込まれたら、もう逃げ出すことは出来ない。
運の悪い人間共には申し訳ないが、君たちは地獄に落とされるだけの事をしでかしているのだ。生き返っては燃え上がる、灼熱地獄を堪能してくれたまえ。
赤熱し始めた壁を見つめ、職員達は灼熱地獄からの退去を完了した。
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