第2話 釜茹で地獄
「おーい、にーちゃん。湯が冷たいのだが」
「おい、もうちょっと詰めてくれ。ゆっくり浸かれねぇだろ」
「ちょっと詰め込み過ぎじゃないか? もう少し人数を少なくして欲しい所だな」
そんな好き放題言う人間共に、俺はついに切れた。
「お前ら!! ここは釜茹で地獄だぞ! 風呂場じゃねーんだぞ!」
だが、そんな俺の言葉に、鍋の中の人間共はケラケラと笑う。
「ちっとも湯が熱く無いんだが」
「儂は風呂は熱い方が好きじゃ」
「え? ここ釜茹で地獄だったの?」
俺は顔を真っ赤にして人間共を怒鳴りつける。それと同時に、鍋の下でせっせと火を焚く部下に命じる。
「もっと火力を! モア・パゥアアーー!!!」
「リーダー! もう無理っす! 最初っから最大火力っす! 人の流れが速すぎるっす!」
ゴウゴウと大なべの下では炎が見える。だが、湯の温度は遅々として上がっていかない。その原因は簡単だ。
鍋に入れる人間が多すぎる。この一言に尽きた。だが、そうでもしなければ、さばき切れない程の人間が、この釜茹で地獄には流れ込んできている。
本来ならば、グツグツと煮え立った湯の中に放り込むはずなのだ。だが、余りにも大勢の人間が入る為、すぐに温度が下がってしまう。さらに湯の温度が戻る以上の速度で次の人間を放り込むため、ちっとも上昇しない。
そもそも、本来は水ではなく油を使うのだが、どこもかしこも資材不足で油の供給が足りず、仕方なく水を使っているわけだ。
200機ある全ての地獄釜がフル稼働しているにも関わらず、どこの釜も似たり寄ったりの状態にある。既に地獄の苦痛を味合わす事を諦め、ただの風呂場として使わせている釜すらある。どれだけ頑張っても、現在の人間の流入量に対して、釜の性能が追い付いていないから仕方ないとも思うが、それでいいのか……。
機器の更新をしろと、あれほど進言したのに!!
俺は無能な上司を思い浮かべながら歯を食いしばった。それから首から下げた時計を見る。もう既定の茹で時間は終了していた。
俺は苦悩の末に、眉間にしわを寄せて大声を上げる。規則は規則。ちっとも罰を与えられていないが、時間が来てしまったら終えるしかない。
「時間だ! 鍋に入っている奴は出ろ!」
だが、俺の言葉に対し、鍋の中の人間共がブーブーと文句を言ってくる。
「まだ数分しか浸かってないじゃないか! これじゃ体が温まらないゾ!」
「カラスの行水じゃあるまいし、いくらなんでも短い過ぎるぞ。もっと寛がせろ」
「お湯が温いんだけどぉー」
「タオルをくれ」
俺は眉間に血管を浮かび上がらせ、叫ぶ。
「ここは地獄だ! 釜茹で地獄だ! 風呂場じゃねーんだよ!!!」
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