バブル11 往復のビンタ

 まずい、まずい、まずーいっ! 思わず叫んだ俺。これは、自殺行為!


 七瀬は三枝三姉妹の中で最も潔癖。背後から七瀬の胸を揉んだクラスの女子の末路を思い出せば理解できる。半数以上が翌日には親の都合で転校してしまう。残りはみんなその日のうちに転校だ。何故そうなるのか、知らぬが仏ってこと。


 4つの女体が半身となり、俺の方に振り向く。奥にいる七瀬との間を遮るものがなくなる。モーゼのパッカーンみたいになり、七瀬と目が合う。俺の神様とは違うのに。冷や汗がブワーッと全身に滲み出る。雉の鷹に会うが如きだ。


 このあとは、全てがスローになる。七瀬の目が大きく見開く。そして俺に近付いてくる。1歩1歩に重みが感じられる。左腕は隠すように胸に添えられていて、右腕は近付くごとに高く振りかぶられる。


 俺は、ぐーぱんではすまないと覚悟した。




 往復ビンタ!




 俺の頬は毎秒2回のペースで打たれることになる。正確に1Hzで動作する七瀬の右腕は12秒間その動きを止めないのだろう。俺の頬は、右を叩かれれば左、左を叩かれれば右が七瀬の右平手の射程に入ることとなろう。神様が違う。


 まだ叩かれてもいないのに、もう痛い。身体が悲鳴を上げている。


「七瀬、やめるっす!」

 シンプルにそう言って七瀬の前に立ちはだかったのはまこと。女神か?


「そうはいかないの。ブラジャーを見て叫ぶような男、放って置けない」

「違うっす。マスターは見ていなかったっす」

「そうね。私たちが壁で、見えてなかったでしょうね」

 と2柱目の女神はしいか。ただ、進撃の七瀬を止められるほどではない。


「でも見なさい。今、マスターは私をガン見しているわ」

 動けないんです。圧がすごくって、動けないんです!


「それはしかたないっす。七瀬のうろこ姿は魅力的っす」

「そうね。目が釘付けになるのは、七瀬のうろこのせいでもあるのよ」

「てゆーかさーっ。マスターが怪我したらすりすりできないからやめよーよ!」

 加勢はうれしいんだけど、まりえは女神って柄じゃない。七瀬には一切の動揺が見られ……。


「それは困るわ……でもこの振り上げた平手を……どうすればいいの……」

 る。ものすごい動揺! 七瀬、そんなにすりすりさせてほしいのか!


「だったら……!」

 と、最も大きな声をあげたのはゆうき。いつもは控え目でおとなしいのに。


「……だったら、私の胸を叩いてください。こっちも、こっちも!」

 右の胸を叩かれる前に左の胸まで差し出すなんて! 一体、どこの神様の教えなんだ。直ぐにでも入信したい。いや、だめだった。俺は宮司になったばかりだし、浮気はよくない。


「い、いいの?」

 おや? 七瀬がさらに動揺している。


「ゆ、ゆうきちゃんの胸を……触っても、い、いいの?」

 おやおや?


「往復しても、いいの?」

 おやおや、おや?


 七瀬の反応がいつもと違うような気がする。ずっとこんなだったのかもしれない。俺が知らないだけってことも考えられる。どっちにしろ、今の七瀬の言葉は痴女めいている。


「はい! 金魚に二言はありません!」

 いつもは控え目でおとなしいゆうき、今はとても凛々しい。いつもは凛々しくて鷹のように颯然と現れる七瀬、今は痴女丸出しだ。


「じ、じゃあ、遠慮なくフェザータッチさせてもらうわっ!」

「う、うん。いいです。触っても、いいです」

 こうして、ゆうきは七瀬の餌食となった。


「いいです。七瀬さん、すごくいいです……」

 およそ0.2Hzという七瀬の超低速往復ビンタに合わせ、ゆうきの胸がバウンドした。ゆうきは瞳の大きいのを保って、とろんと垂れさせるのだった。




 まりえにすりすりさせてあげる。続けて七瀬。比べてみたってわけじゃないけど、2人の肌の感触は全く同じ。言うなれば、女子の柔肌。まりえは俺のペットだと思う。その一方で、1人の女子と認めないといけないとも思う。


 ペットか女子か。俺の心は揺れ動く。

 あ、そうそう。ついでということで、まこととしいかにも、もちろん最後はゆうきにもすりすりさせてあげる。

 これにて、一件落着かと思ったら……。七瀬が文句を言う。


「やはり、マスターは許せない」

 七瀬、散々人のペットを蹂躙しておいて、散々俺にすりすりさせておいて、なんたる言い草だ。どんなに凛々しい顔を作っても、もう俺には怖くない。


「はいはい。エロ痴女七瀬に何言われても、平気ですよー!」

「そうじゃないわ。マスターはどうしてゆうきの胸を保護しないの?」

 どうして俺のせい? そんなの八つ当たりじゃん。ゆうきの胸の脅威となった七瀬自身に憤れよ。けど、俺はたしかにゆうきの飼い主。保護する義務がある。


「……七瀬……出て行ってくれ……」

 俺は七瀬にそう告げた。ゆうきの胸を守るため、いてもらっては困る。


「はぁ? どーして私が出ていかなきゃいけないの?」

「ゆうきの胸を弄ぶからだ」

「弄んでなんかいないでしょう!」

「じゃあ、さっきの0.2Hzは何だ?」

「マッサージよ!」

 と言ったときの七瀬には、いつもの凛々しさが戻っていた。だから俺は怯んでしまった。こんなんじゃ、ゆうき達を守れない……。


「そ、そんなの、認めねーよっ!」

「どうして? マッサージしないと……」

「マッ、マッサージ……しないと……」

 俺は七瀬の迫力に気圧され、ゴクリと唾を飲む。あれがマッサージだったと認めたわけじゃないけど。


「……垂れるわ!」




 垂れる、だとーっ……。




 それはいささかもったいない。


「そ、そんな。何とかならないのか……」

 あの大きさで垂れるだなんて、イヤだ! 俺は、どうやってゆうきの胸を重力の攻撃から守ればいいんだ……。と、背中から声。


「大丈夫よ。これで解決できるから」

 誰?


____________

 ここまでお読みいただいて、ありがとうございます。

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