バブル03 戦慄の合鍵

 悪夢、絶対に悪夢だ。夢なら早く醒めてくれ! せめて、服を着てくれ……。


 直に伝わってくる温もり。恒温動物特有の温かさ。金魚だったらこうはならないのだろう。どういう状況かというと、俺は、4つの女体に囲まれている。しかも、4人とも全裸……。目のやり場に困ってしまう……。


 4人とも観ているだけで癒しを与えるほどの見た目。金魚のときと全く同じで魅力的。滅多にお目にかかれない美少女。こんなビジュアル、他には……。


 知っている。幼馴染の三枝三姉妹。いやいや。比べちゃダメ!




 4つの女体が順番に俺の前にくる。朝食を撮るのに箸の使い方も知らないなんて、反則だ。大きな目を垂らして上目遣いなんて、いんちきだ。無防備に口を大きく開くなんて、まやかしだ。ずるい、狡過ぎる。


 そんなことされたら、俺はつい、おかずを口に運んでしまう。飼い主として。


 女体が「マスター、あーん」と言って俺におねだり。その声も反則。優しくて透明感のある、一切の濁りを知らない声。こんなボイス、他には……。

 知っている。天使と評判の三枝三姉妹。ノーノー、比較は禁物!


 金魚。こいつらは金魚で、美少女じゃない。俺のペット。気にしたら負けだ。お、俺は飼い主だから、ペットに食べ物を与えるのは当たり前!

 俺は自分にそう言い聞かせて、平常心を保つ。




「食べたら寝るのが金魚っす」

「えっ? まこと、服は着てくれないの?」

「それは、起きてからで充分っす」

「そんな……」

 ま、しかたない。金魚だもん。寝ててくれれば、俺が部屋を変えればいい。そっとしといてあげれば、目の毒にならない。俺は寝ることに同意した。


「そんなの、マスターに申し訳ないです」

 と、遠慮気味にそう言ったのはゆうき。1番遠慮のない身体つき。


「遠慮しなくていいよ、ゆうき」

 ちょっとカッコつけて言った。飼い主として、尊敬してもらうためだ。そうなれば、服を着ることに同意してくれるだろう。


 それが、悪夢のはじまりだった。


「そうよ。マスターなんだから、私たちの世話をしてトーゼンなんだから」

「ゆうきちゃんは、マスターごとまりえが支えるよー!」

「サイドは私としいかで支えるっす」

 えっ? 何? どーすんの? 俺、どーなんの? 支えるって、何? みんなは寝るんじゃないの?


「マスターが一緒に寝てくださるなんて、私、幸せです」

 ゆうき、今、なんて言った……。こうなったら仕方がない。俺はまな板の上の鯉も同然だった。随分と凹凸のあるまな板ではあるが……。


 まず、まりえがソファーに仰向けに寝そべった。

 その上に俺が腹這いになって乗っかった。そのときの俺の顔の位置が問題で、何度かやり直しさせられた。突き出したアゴがまりえのお気に入りのすりすりポイントになるよう調整された。おかげで視界は真っ暗になり、頬はやわらかいものに圧迫された。


 そして、俺の背にゆうきが乗った。背中は重いが、やわらかい。

 さらに側面。右にしいか、左にまことががっつりと俺の腕に巻き付いた。


 何という体勢。何という破廉恥な格好だろう。俺が全裸だったら、すごいことになるぞ……。俺のパジャマだけが唯一の良心のように思える。


 めっちゃ興奮する! って思ったけど、そうでもなかった。どう表現すればいいんだろうか、分からないけど、エロくない。それよりも、癒しが勝っているし、4人に頼られているという実感が勝った。俺、がんばろう!


 そこはかとなく香るまりえ達の体臭は、魚臭くない。女子特有の香りで、生臭さはない。とてもいい香りだ。こんなスメル、他には……。

 知っている。大胆不敵な三枝三姉妹。あかんあかん。対比はNG。


 それにしても熱い。体勢がおかし過ぎる。

 女体の温もりが伝わってくる。つるつるとした若い女子のやわらかさが伝わってくる。ちょっとした重みが伝わってくる。こんなセンセーション、他には……。

 知っている。神出鬼没の三枝三姉妹。だめだめ。フラグが立つ……。


 女体に囲まれた俺。4人の寝息が聞こえる。その揺らぎは何とも心地いい。そのせいか、気疲れしたのか、俺は眠ってしまった。


 どんな夢を見たのかは覚えていない。だけど、夢はとてもいいものだったに違いない。反対に、目覚めたときに、この現実が悪夢だったらいいのにって思った。




 殺気めいたものを感じてまりえの胸の谷間からほんの少し這い出た。まだ4人に囲まれている俺は、寝惚け眼に女神様の姿を見た。世界中のセレブから美の女神と形容される三枝三姉妹だ……。


 どういうこと? 何で三姉妹がいるんだ? 俺の身体を戦慄が走り抜けた。


 最初に俺の背筋を凍らせたのは長女の麻衣。にっこりと笑って俺を見ている。


「あらー。おはようマスター、もうお目覚め?」

「……」

「……」

「ま、麻衣……七瀬も飛鳥も……おはようございます……」

 どうしてこんな状況になったんだ。ここは俺の家なのに。まだ神社の正門を開けていないはずなのに。家の鍵だって、ちゃんとかけたのに。


 耳を澄ませば、チャラリと金属の擦れる音。麻衣をよく見ると、手の中で何かを鳴らしている。




 合鍵だ!




 あり得る、充分にあり得る。相手は三枝三姉妹なんだから。

____________

 ここまでお読みいただきありがとうございます。

 次章では三枝三姉妹について書きます。

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