バブル02 お腹の具合

 目に入れても痛くない金魚達。本当にかわいい。ゆうきもまりえも、土佐錦のしいかも、出目金のまことも。


 金魚達は俺がエサをあげるとよろこんでくれた。何でもよく食べた。特にしいかは食いしん坊で、エサをねだるときによくころころ行動をしていた。

 ころころ行動はアクセサリーとして水槽に入れているB玉を転がす遊び。その動画をブログにアップするとバズった。フォロワーが毎回3人も増えた。


 だけどもう、俺の水槽には金魚達がいない。女体化してしまったから。


 今は、俺の目は痛くてしょうがない。女体が全裸のまま部屋中を徘徊しているんだもの。刺激が強過ぎる。何とか服を着せなくては! 特にゆうきとまりえのは、大きさも形もいいのに垂れたらどうする、もったいない……。


 俺は何度もシャツを着せてみたんだけど、みんな直ぐに脱いでしまう。特にしいかは文句ばかり。仁王立ちして俺に言う。


「冗談じゃないわ。服なんて布地が胸に擦れて気持ち悪いのよ!」

 それはこっちのセリフだ。ゆうきやまりえが言うならまだ分かる。ビッグな胸だから。けど、しいか。真っ平らじゃないか。擦れているとは思えない。


「しいか、本当に擦れてるの?」

「あーん。何よ! 文句あるの、マスター?」

 い、いいえ、ございませんです……はい。

 俺は一先ずは女体を見ないことでやり過ごすことにしたんだけど、それも時間の問題だろう。一刻も早く、女体に服を着せないと。俺の肉体と精神が色んな意味でもたない。


 ゆうきが気を遣って励ましてくれるのはありがたいけど、だきだきしなくても、服を着てさえくれれば、一発で解決する。

 まりえもまりえで俺の気持ちはお構いなしにすりすりさせてとせがんでくる。ちょっと手を貸すくらいなら構わないけど、俺のアゴの硬さが気に入って、今朝の体勢を再現しようとする。勘弁してくれ。頬に吸い付くような弾力が凶器。


 困った、本当に困った。一体、どうすれば服を着てくれるんだろう……。


 しばらくすると、しいかが遊びはじめた。何やら蹴っている。転がして楽しんでいる。よく見ると、巾着袋のようだ。

 中にはさらしや腰巻き・肌襦袢が入っているはずだ。この神社はさびれているけど、さすがに年末年始には巫女さんを雇う。しいかが蹴ってるのはレンタル品。


 それを蹴るだなんて、しいかのやつ、バチあたりめ!


 けど、同時に俺は妙案を思いついた! うまくいったら、しいか様様だっ! 名付けて巫女装束を着付けよう大作戦! 我ながらナイスアイデア! 直シャツでなきゃ文句はあるまい。


「おーい、みんなーっ。こっちに来てーっ!」

 と、早速俺はぱんぱんと2拍手してみんなを呼んだ。

 全員が一瞬、こっちを見た。けど直ぐに見てないことにして遊びはじめた。なっ、なんなんだ。俺はマスター、みんなの飼い主だぞ。いうことを聞けっ!


「まー(ぱくぱく)みんな拗ねてるんっすよ(ぱくぱく)」

 お口をぱくぱくしながらそう言っているのは、まこと。

 金魚達の中で1番頭がいい。警戒心も強く、観察眼に優れている。頭を使うときに、よくお口ぱくぱくをしていた。そうして脳に酸素を供給するんだろう。

 女体になった今でもその観察眼は受け継がれているようだ。他の女体達のコンディションを行動から的確に分析している。


「まことは、どうしてそう思うんだい?」

「マスターはさっきから、誰とも目を合わせていないっす」

 そりゃ、裸だからだよ。


「服さえ着てくれれば、みんなのことを見れるよ」

「それじゃあ、意味ないっす」

「どうして?」

「金魚は観賞魚っす。マスターに見てもらってなんぼっす」

 それは分かることのようで、分からない。受け容れられない。


「だったら平行線だよ。永久に相容れない……」

「まぁ、マスターがちゃんと世話をしてくれれば、言うことを聞くっす」

「冗談。もう、だきだきもすりすりも懲り懲りだよ」

「マスターはうぶっすね。でも、世話といってもそれだけじゃないっす」

「……」

 俺はみんなを無視して、自分のことしか考えていなかったのかもしれない。今の俺に欠けているのは、マスターとしてみんなを気遣う心!


「無理に服を着せようとしたのはまずかったっす」

「面目ない。けど、そんなに服着たくないの?」

「布が擦れると痛いっすからねぇ。直シャツとか、あり得ないっす」

「しいかの言ってたこと、本当なんだ」

「それは嘘っす。しいかは平気っす。けど、まりえとゆうきは本当っす」

「あはは、大きいからだね。じゃあ、まことはどっちなの?」

「ご想像にお任せするっす」

 一瞬だけ、そーっとまことに目をやる。痛くはなさそうだ。


「……」

「傷付くっす。ないと分かってても、認めたくはないっす」

 見透かされている。俺はそれを簡単に認めてしまい、2度謝った。


「ごめんごめん……あぁ、ごめんごめん」

「いいっすよ。埋め合わせしてくれれば。あーぁ、お腹空いたっす!」

 俺もハラヘリだよ……。いつもなら食事を済ませている時刻だもの。あれ? そういえば、しいかはエサやりの直前にころころすることが多かった。ひょっとして、まことは最初からそれを言いたかったんじゃないか!


「まこと、ありがとう!」

「期待してるっすよ、マスター!」

 このあと、俺は腕によりをかけて朝食を作った。メニューは卵焼き! 貧乏な俺にとっては手痛い出費だ。5日分の卵を消費してしまうから。

 だけど、4人とも大喜びで食べてくれた。それは、マスター冥利に尽きる、うれしいことだった。そして、このあともう1度、巫女装束を着付けよう大作戦だ。


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ここまでお読みいただきありがとうございます。

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