超絶美少女の共演なんて、金魚の混泳よりは易しいですから。

世界三大〇〇

擬人化した金魚に服を着せるのは簡単じゃない!

女体化の奇跡

バブル01 女体の重みとやわらかみ

 どうしよう……。悲しくて、さみしくて、辛い朝を迎えた。


 3月3日の水曜日。時刻は午前5時30分。

 中学卒業を目前にした俺こと鱒太一は、別れの悲しみに悶え苦しんでいた。

 卒業なんていう安っぽい惜別の情じゃない。もっと強烈な消失感。


 軽い気持ちで飼いはじめた金魚。もう10年も大切に育てている。

 まだ小学生だったある日、金魚の仕草をブログで紹介したらバズった! 


(こ、これだ! 俺にはこれしかない!)

 俺はブロガーとして生きる道を選び、高校へ進学せず働くと決めた。お父さんの跡を継ぎ、さびれた神社の宮司になる。お金はないけど時間はたっぷりできる。全ては、人気ブロガーとなるため。金魚の観察日誌を書くため。


 もう、ブログは書けない……。とても辛くて、悲しい。


 俺は、玄関先に置かれた金魚のいない水槽を眺めては、肩を落とした。


「今日は、ゆうきのだきだき行動を撮影するつもりだったのに……」

 ゆうきというのは蝶尾という品種の金魚。優しくて心配性な性格。

 俺が落ち込んでいると、胸びれを拡げ何かを抱いてるような仕草をする。それがだきだき行動。俺は何度も励まされてきた。

 その動画を投稿すると、必ずバズる! いいねが通常の3倍になる!


 だけど水槽の中に、優しく俺を励ますゆうきの姿はもうない。動画撮影なんてできない。それが悲しくて、さみしくて、辛い。


「はぁーっ。これからどうしよう……」

 と、溜息を吐いて落ち込んでいると、背中に何かやわらかいものが当たった。恒温動物特有の温かさ。耳元には優しい声。透明感のある女の子の声。


「マスター、元気を出してください。だきだきしてあげますから!」

 マスターというのは俺のあだ名。本名の鱒太一は、漢字の一を長音にして残りをカタカナにするとマスターとなる。


 声の主は、そのまま俺に抱きついてきた。なっ何だこの感触、やわらかい。背中、めっちゃ気持ちいい。察するにこれは女子の胸! でらビッグな胸! 癒される。金魚がいなくなった悲しみを全部忘れさせてくれる。ずっと甘えていたい。このままこうしていたい。癒されたい。

 そんな俺の願望を叶えるためか、俺を抱く手に力が入る。背中のやわらかさが一層引き立つ。気持ちのよさに、俺は気付いた。




 だきだき行動だ!




 この子は俺を励まそうとしている。俺を勇気付けようとしている。

 俺もいつまでも落ち込んでないで、悲しみを乗り越えないと!


「分かったよ、ゆうき。俺、元気出すって!」

 と、俺は振り向くこともなく、なるべく元気になったふりをして言った。


 俺がブログを書けなくなった理由。金魚がいなくなったから。

 金魚でなくなった。姿を変えたと言った方がいい。女体化だ!


 今のゆうきは蝶尾ではなく、俺と同じくらいの歳の女の子。このときはまだ産まれたままの姿……。


「無理しないでくださいね、マスター」

「ありがとう。けど、ゆうきのおかげで元気になったよ」

「マスターが元気になって、ゆうきはうれしいです」

「うん。とっても励まされたよ」

 もう、蝶尾のゆうきには会えない。だけど、俺には人間のゆうきがいてくれる。ありがとう、ゆうき! そして、早く服を着てくれ。刺激が強過ぎるから。




 突然の女体化。何で? それはよく分からないが……。


 30分ほど前。

 金魚達を起こそうと水槽のLEDライトを点けようとした。金魚達はもう目覚めていたようで、4連水面ジャンプで俺を出迎えてくれた。見えはしないがチャポンという音が揃う。


 すると突然、水槽全体がひかりはじめた。とても強い、7色のひかり。目を瞑ってもまだ眩しい。咄嗟に顔を背けた瞬間、何かに押された。


 痛い!


 転倒した。怪我はないけど身体中に圧迫感を覚える。どうなってるんだ? 状況を確認しようと目を開けたんだけど、今度は真っ暗で何も見えない。何かが乗っかってる。圧迫感はそのせい。


 重い! 兎に角、重いがやわらかい。


 俺は身体を縦横にもぞもぞと揺すり、這い出ようとする。と、かわいい声が聞こえてきて、乗ってるのが女子だと分かる。一体、誰?


「あんっ、マスター。うれしい。もっとすりすりさせて!」

 すりすりといえば、俺がそう呼ぶ金魚の行動がある。水槽に指を入れるとやってきて、優しく身体を擦り付ける行動。琉金のまりえが大好きで、胸びれの間のちょっと下がお気に入りポイント。すりすりさせてあげると、まりえは必ずとても満足そうな顔をする。


 ブログに載せたことがある。当然、バズった。見ているだけで癒されるとのコメントが、通常の3倍に! エロかわいいと評判だ。


 今は、兎に角、重い! 息苦しい。暗い。何も見えない。何があったのか分からず、不安でしかたない。癒しの欠片もない。

 そもそも、俺の身体に乗ってるのは、どちらさま? 俺をマスターって呼ぶってことは、クラスメイト? でも、そんなはず……。だってまだ、朝の5時だぜ。あり得ない!


 俺はもぞもぞを続け、何とか自力で這い出ることに成功した。まだ暗い。

 今度こそLEDを点灯。白色光が周囲を照らす。状況確認にはそれで充分。


 水槽を見れば、金魚が1匹もいない。玄関を見渡せば、少女が4人もいる。1人は恍惚の表情を俺に向け「はぁ、はぁ」と荒い息をしている。

 ドキッとした。なんというか、かわいいのをエロが挟んでいる感じ。




 エロかわエロい!




 そのせいかどうか、俺は自然とそう呼んでいた。

「ま、まりえ……なのか?」

「そうだよ、まりえだよ、マスター。おはようっ!」

 と、まりえは素早く立ち上がって、正面から俺を抱き寄せてきた。まりえの胸の谷間に俺の顔が沈む。


 ここだったか。よりによって、胸びれの間のちょっと下って、ここだったか。

 そこはまりえお気に入りのすりすりポイント。胸びれが腕になったと思えば俺なりに納得はする。

 俺はまりえになされるまま、しばらくは考えるのをやめることにした。恒温動物特有の温もりと、この日が初体験の女体のやわらかさを堪能しながら。

 これが、俺が知る金魚の女体化前後の様子。

__________________

 ここまでお読みいただきありがとうございます。

 物語の起点となる3月3日は金魚の日です。世界三大◯◯は、全ての金魚を応援します!

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