06-02
◆
同窓会には佐々木春香も来ていた。俺が彼女と最後に会ったのは五年ほど前だった。
「久しぶり」と俺は言った。
「久しぶり」と彼女も言った。
俺たちはそれ以上言葉を交わせなかった。
昼は振り袖姿だったけれど、同窓会に顔を出すときにはラフな格好に着替えていた。
それでも髪はセットされたままだった。そのせいで、俺はなんとなく彼女を遠くに感じた。
俺はろくに話もしなかった人たちと話をした。それは思ったほど不愉快なことではなかった。
彼らはそれほど悪い人ではなかったのかもしれない、最初から。
あるいは、クレハなら、「おまえが変わっただけだ」と、苦しそうに呟いたかもしれない。
けれど彼は死んでしまっていて、俺は生きていた。生きている人間には、死んだ奴の気持ちなんて分からない。
「飛んでいる奴には、飛んでいない奴の気持ちなんて分からない」
クレハはきっとそう言う。あるいは十五歳だった俺もそう言う。
でも、今の俺はこう答えてしまう。
「飛んでいない奴にだって、飛んでいる奴の気持ちは分からない」と。
そのことがすごく悲しい。俺はそんな言葉を言う奴をこそ憎んでいたのだ。
◇
「手を繋いでいると」と佐々木春香は言った。
「手を繋いでいると?」と俺は訊ねた。
「どきどきする」と彼女は言った。
「なんとなく分かる」と俺は言った。
「少し安心する」
「それから?」
「ちょっと恥ずかしい」
「分かるような気がする」
「でも、いやじゃない」
「うん」
「それから……」
「それから?」
「少し怖い」
◇
「ずっと手を繋いでいられたらいいのに」
「ずっとって?」
「いつも。どんなときも。授業中も休み時間も」
「そうすれば怖くない?」
「たぶん」と彼女は呟いてから、黙って考え込んでしまった。しばらくすると静かに首を横に振った。
「……たぶん、もっと怖くなる」
「むずかしいな」と俺は言った。
「むずかしい」と彼女は頷いた。
「でも、できるかぎり、手をつないでいたい」
「それはとてもよく分かる」
彼女の手のひらに力がこもった。俺はわずかに力をこめて握り返した。
「すごく妙なことを訊くようだけど、俺の手は、変じゃない?」
そう訊ねると彼女は笑って、「変じゃない」とだけ言った。
「ありがとう」と俺は頷いた。
「それだけがずっと気になってたんだ」
本当は嘘だった。俺はすごくたくさんのことを気にしていた。
手のひらだけじゃない。
鏡にうつる自分の顔やクラスメイトの視線、佐々木春香の両親のこと、それから自分の母親のこと。
クレハのこと、あるいは白崎のこと、彼女の行く高校のこと、それから金のことを考えていた。
そんなことを考えていると知られれば、佐々木春香がどう思うのか分からなかった。
だから俺は努めて何も考えていないような態度をとり、隣を歩く彼女の横顔をいつも盗み見ていた。
◆
俺が横顔を眺めていると、彼女はときどき「なに?」と言いたげな視線をこちらに向けた。
俺はそのたびに視線を逸らして、何かべつのことを考えようとした。
けれどやがては、彼女の方から、俺に話しかけてきた。
「どうして見るの?」と彼女は言った。
「気になるから」と俺は答えた。
「どうして?」
「どうしてって……」
「どうして?」と彼女は繰り返した。
「好きだからだよ」と俺は答えた。
「“いつから”?」
「ずっと前から」と俺は答えた。
彼女は困ったように笑った。
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