送り狼

 父が失踪した。僕は父を探して歩き回っていた途中、近道をしようと山に入り道に迷ってしまった。その途端、背後から唸り声が聞こえた。狼だ。私の拍動は今までにないくらい早く打ったが、冷静さは失わなかった。振り向かずに、狼の声に耳をすませた。唸り声が右から聞こえたら左に、左から聞こえたら右に進んだ。すると突然、開けた場所に出た。そこは僕の家がある村だった。そこで僕は父の言葉を思い出したのだった。「背後から来る狼は送り狼と言ってね、人間を守ってくださるんだよ」あの狼は、父だったのかもしれない。



Toshiya Kameiさんによる本作品の翻訳がアンソロジー「Home: An anthology of dark microfiction」に掲載されました。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る