第四十四集 城門の戦い
赤き宝剣・
馬超軍の兵士たちは、単身で向かってくる敵に対して一斉に矢を射かけるも、相手は目にも止まらぬ剣捌きで赤い残像と共に正確に矢を打ち払っていく。一斉射撃が全く牽制にならず、その足を止める事は出来なかった。
兵士たちの集団に斬り込んだ何冲天は、なおも足を止める事はない。その進路にいる兵士たちは、ただただ赤く光る刃の一閃によって次々に血飛沫を上げて吹き飛んでいく。
馬超軍の先鋒を文字通り真っ二つに切り裂いて、総大将である馬超へと一直線に向かっていく。
馬超の方はと言えば、自分に向かってくる黒衣の刺客を見つめたまま、表情を変える事なく馬上に佇んでいた。
そんな悠然と構える馬超へ、遂に何冲天の刃が届く間合いとなった。躊躇する事もなく馬上の標的に対し、剣の切っ先を突き出しながら跳躍する何冲天。
馬超は表情を変える事もなく、自身を狙った刺突を馬上で仰け反るように回避すると、そのまま馬から地面へと転がり落ちる。一見すると落馬したようにも見えたが、危なげもなく着地すると、そのまま手に持っていた槍を頭上の刺客と突きあげた。何冲天もまた空中で回転するように身を翻して、その槍の一撃を避ける。
間合いを取る様に着地する何冲天であったが、今度は馬超の方が愛馬を飛び越え、落下速度を乗せた刺突を相手の着地点めがけて放っていた。
着地からほとんど間もない相手の攻撃、常人であるなら体勢を立て直す暇もなく心臓を穿たれていたであろうが、何冲天もまた
周囲の者の目に映らぬほどの反応速度で飛び退き、馬超の槍は砂埃を上げて黄白色の砂地に穴を作った。
両者とも未だに呼吸ひとつ乱れていない。そんな二人に対し、周囲の兵士たちは手が出せずに距離を取るしかなかった。迂闊に近づけば、戦いに巻き込まれ一瞬で命を落とすであろう。その結果、戦っている二人の周囲を円陣で取り囲むような形となっている。
剣と槍ではそもそも間合いが違う。
その間合いの差を覆すには、槍による攻撃を避けて剣の間合いに持ち込む必要がある。すなわち相手に刃が届く位置に踏み込む度に、一瞬でも判断を違えれば命を失う槍の刺突を避けねばならず、対等に戦う為には三倍の技量が必要とまで言われる。
その意味で拮抗した勝負をしている両者は、単純な技量で言えば何冲天が勝っていると言えた。
しかし懐に飛び込んだとて、その神速の斬撃を回避して再び間合いを取り、その都度に槍の間合いに踏み込むという命の危険を相手に強いている馬超の技量も常人を遥かに凌駕している。
そんな一騎打ちを続ける両雄を丘の上から眺めていたのは、
自分の手で討ち取りたいという個人的な感情を除けば、勝敗がどうなろうと損は無かった。それゆえに冷静な目で戦いの成り行きを見守っていたと言える。
龍を
時刻もいつしか
そんな両者の戦いに割って入る者が現れた。
別動隊を率いて枹罕城の裏手に回った彼であったが、一向に攻撃命令が出されず、逆に敵将が単騎で総大将に斬り込み一騎打ちが続いているという報告を受けた。そこで部隊の包囲を続けさせたまま、自身は正門側へと馬を走らせたのである。
まるで馬超と何冲天の間を裂くように、巨大な戟を振り下ろすと、地面に巨大な砂埃を立て、優勢を確信した周囲の兵士たちからも歓声が上がる。
援護された馬超としては、一人では分が悪いと思われた事に多少の腹立たしさを覚えるも、戦いが膠着していた事も事実であり、その点では素直に受け入れた。
そして互いに言葉を交わす事もなく、両者同時に黒衣の剣士へと斬りかかる。
馬超の槍、そして龐徳の戟。両者とも長柄の武器を使っている事もあり、間合いの差は歴然である。何冲天の神速の剣は両者の攻撃を同時に受け流す事は出来たが、流石に防戦一方であり自身の間合いを詰める事は出来なくなっていた。
夕陽は既に西の砂漠へと沈みかけており、東の空は群青色に染まってきている。視界も間もなく、互いに黒い影だけになってしまうであろう。
そろそろ頃合いと見切りを付けた何冲天は、攻撃の止む隙を見て、一瞬で背後に飛び上がり、着地点付近にいた兵士たちを一瞬で斬り伏せる。
「おのれ逃げるか!」
半ば頭に血が上っている馬超のその罵声を気にするでもなく、そのまま
既に周囲は夜の
戦いの様子を見守っていた趙英と呼狐澹は、顔を見合わせて頷きあう。夜の内に枹罕城内へと侵入し、何冲天との戦いに臨もうという算段である。
この夜が明けるまでに決着を着けるとばかりに、先日試した
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