第2話 クロノスという男
俺は今、△□会館の第一会議室の中にいる。俺が到着したのは、午前9時50分くらいだ。俺が到着した時、すでに道木も来ており、俺は道木の隣の席に座った。
すでに、俺達を含めて10人くらいはいるだろうか。男だけではなく、女も何人かいるようだ。ただ、ここに来ている全ての者共通して、裕福そうな者は誰一人いない。どうやら、ここに来ている者は全て俺と同じような状況なのだろう。ちょっとした希望を求めて、ここに来たということなのだろう。
----------------
午前10時を過ぎても、何も始まる気配がない。どういうことだろうか?
10時5分くらいになっても、誰も来る気配がない。
「なんだよ。冷やかしかよ。」
業を煮やした若者の一人が、席を立ち、帰ろうとしているのだろう。会議室の出入口の扉へと向かっていった。
「あれ?」
ガチャガチャと、扉のノブをずっと触り続けている若者。一体何をしているんだろうか?扉のノブを触る音があまりにうるさいものだから、ここにいる若者全員の視線が出入口へ向いていた。
「おい。どうしたんだよ?」
道木が、異様な状況が気になったのか、たまらずに質問した。
「いや、ドアが開かないんだよ。いや、開かないというより、全く動かない、と言えばいいのか?」
要領を得ない若者の返事を聞いて、ここにいる者全員が混乱していた。あの若者の言い方、かなり気になる。『開かない、というより、動かない』だと?なんなんだ?
「やあ、集まったね。今日は来てくれてありがとう。」
急に、後ろから、聞き覚えのない声が聞こえた。俺達は、その声にビクッとし、急いで後ろを振り向いた。すると、先程は、誰もいなかった教壇に、一人の男性が立っていたのだ。
「キャアアアア」
いきなりのことに、女性の一人が奇声をあげていた。それは仕方がない。俺だって相当驚いたんだ。この第一会議室は、出入口の扉は一つしかない。教壇と出入口の扉は反対方向にある。今、出入口の扉は何故か開かない状態なのだ。それなのに、出入口とは反対方向にある教壇に、突如として一人の男が現れたのだ。誰だってビックリするだろう。
その男は、年は中年ぐらいだろうか。顔つきは、どう表現すればいいのだろう。美形?いや、そんな言い方では正しくないな。何かしらの芸術品、とでもいえばいいのだろうか。顔が整っている、というレベルでは言い表せない。どこか、神々しい雰囲気がある。そんな印象だ。
「驚かせたようだね。まあ、これは私の趣味なもんでね。すまなかったね。みんな、いいリアクションだ。」
その男は、俺達を驚かせたことを悪びれることなく、堂々と趣味と言ってのけた。とんでもない男だ。
そんなことを言われたもんだから、ここにいる若者全員が、その男を睨み付けた。道木も、他の者と同様に男を睨み付けている。
「ハッハッハ。元気が良くていいね。これなら、期待できそうだ。早速、今回、集まってもらった趣旨を私の自己紹介を含めて説明するよ。」
その男は、俺達の睨みを一切気にすることなく、自分の話を進めていった。普通の人間ならば、約10人の敵意を持った目線を受ければ、少しばかりは動揺すると思うのだが、全く気にしている様子はない。一体、この余裕はなんなのだろうか?
「私の名前はクロノス。これは、皆もう知っているね。求人雑誌に、そう載せていたからね。」
『クロノス』って、会社名ではなく、名前だったのか。ということは、この、『クロノス』という男は、個人的に若者を集めたということになる。個人的に、若者の夢を応援するだと?ということは、相当な資産家ということなのだろうか?
「君達には、一万年修行をしてもらいます。」
は?
なに?
一万年?
聞き間違いか?
なんだ、一万年って?
俺達は、『クロノス』という男が言っている意味が全く理解できなかった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます