Just a sec.

※同性間の暴力描写があります


 街に出れば必ず誰かが着ていそうな流行りの花柄のワンピースをこの子のとろりとした白い肩から剥いて引き裂くように下までおろしたけれどこの子は抵抗しないで真っ赤な唇を横に引いて薄く笑っただけ、この子がわたし結婚するのと言ったのは夜を背景にした観覧車を真横から眺める位置の歩道橋、まばゆい光で飾られたゴンドラが縦に並んで止まっているように見える歩道橋、そこからどうやってこのホテルまで来たかは思い出せないくらい私は昂り、もうそんなことはいい、とりあえず見知らぬきたない気持ち悪い男なんかにこの子を取られる訳にはいかなくてだから私は全部全部この子に思い知らせてやろうと思ったの、高そうなランジェリーがピンク色でそんな些細なことに余計に腹が立ってブラジャーのホックをむしり取ってベッドに薙ぎ倒した、いやだ、と初めて言ったこの子に興奮している私が気持ち悪くて吐き気がしたけれど口までせり上がった胃液は舌をぺちゃぺちゃと鳴らしてあじわいながら内臓に戻し、近くに置いてあったこの子のミネラルウォーターを瓶の口の外も中もを舐めとるように飲む間この子は嫌と言ったくせに大人しく組み敷かれていて私の方を綺麗な顔のまま見上げていてああもう死ねばいいのにと思う、思ったそのまま私の手はこの子のきっと男に貰ったのだろう馬蹄型のネックレスをなぞってそのまま力を込めた、息を吸い込む瞬間のこの子の目に照明が煌めいてまぶしかった、それを見ないようにしてさらに力を籠める、押し込むみたいにして息を吐き続ける、あぐ、という声が聞こえ始めて私は楽しくて仕方なかった、思い知れ思い知れ思い知れ、私の重みをぜんぶ知れば受け止めればいいとそれが私がこの子にかけた重みだと覚えればいいと思っていて、重ねた親指の汗がねちゃねちゃする、この子は紫色の顔をして私の手をひっかき始めて血が出る痛い痛い、でも痛いことなどなんということはなかった、離さない、私はこの子を離しちゃいけないのだと何処かから聞こえてきて私は思わずふふって笑ってしまった、この子は泣いている、いつの間にか涙の跡をたくさん作って私の方を見ながら細い喉から切れ切れの届かない声をだそうとしている、私も全然悲しくなんて無くてこの子が泣いていることが嬉しくすらあったのに涙を胃液のあじが残った舌で舐めたら塩辛くてなぜか泣いてしまった、ばたばたと気味の悪い音を立てながら涙は降りそそいで気づいたらこの子は死んでた。



〈Just a sec. 了〉

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