第10話ハチミツ医師

俺はべリアラ婆さんからコップを受け取る、コップの口に指を当て人差し指の先から艶のある黄色い液体をコップに汲んでいく。

 コップがいっぱいになった所で液体を黒パンにたっぷりかけた。

 

「何じゃそれは?食べても大丈夫な液体なのか?」


べリアラ婆さんは俺が液体をパンに掛けたことに不思議そうにしていた。

 そんなべリアラ婆さんに俺はコップを突き出しながら。


「今出したのはハチミツだ、やっぱパンに塗るならハチミツかなと思ってね」


俺はコップを受け取ったべリアラ婆さんを見つめながら言う、べリアラ婆さんは俺の言葉を聞いてコップからハチミツを少し指で掬い舐めた。

 ハチミツを掬って舐めたべリアラ婆さん目を見開いた。


「これは本当にハチミツじゃ、あんたは何でも出せるのか?」


べリアラ婆さんはコップに入ったハチミツを見つめながら聞いて来る。

 俺はべリアラ婆さんに言われて考え込んでしまった。

 俺ってどこまで出来るんだろう?取り合えず知ってる液体は出すことができるみたいだ。

 てことは俺の知ってる液体なら何でも作れるのかな?濃硫酸とか作れるのかな?あの殺し屋が死体溶かすときに使う水酸化ナトリウムとか作れるのかな?

 でも人の無力化ならハバネロ先生最強だよな、俺も好んで人なんて殺したくないし、やっぱハバネロ先生最強だな。


俺が考え事をしている間にべリアラ婆さんがパンにハチミツを掛けて口に入れた。

 べリアラ婆さんは目を見開き嬉しそうに口の端を綻ばせる。

 べリアラ婆さんの嬉しそうな顔を見て俺も微笑んだ、それからべリアラ婆さんに話しかけた。


「婆さんもっと必要なら入れ物さえあれば出せるぞ」


俺がそう提案するとべリアラ婆さんは顎に手を当て考え込み始めた。

 そして少し待つとべリアラ婆さんは俺を見つめ話し始めた。

 

「さっきも言ったが息子夫婦が一番近い町に塩を買いに行ってるんだが、塩の備蓄が心許無くてね、できれば塩は出せないのかい?」


べリアラ婆さんの話を聞いて俺は悩んでしまった。

 俺って液体は出せるけど塩って粒子って言うか個体だよな、さすがに個体は出せないよな~塩水なら出せそうだけど塩水出しても使えないよな。

 でもいちお出してみるか、塩の変わりってゆーか日本人ならこっちの方がおすすめしたい。


「分かりました、塩自体は出せないんですけど塩水なら出せると思います。

 それでもよかったら甕かコップを出して貰えますか?それと塩の代わりに成りそうな液体が有るのでそれも出したいと思います」


俺が説明するとべリアラ婆さんは嬉しそうに笑い、急いで台所から甕を二つ持ってきた。

 べリアラ婆さんがテーブルに甕を置いて俺に頼んできた。


「この中に頼むよ、塩が無くて薄いスープにゃ飽き飽きしてたからね、本当に助かるよ」


べリアラ婆さんに言われて俺は両方の甕に指を入れ片方には塩水、片方には黒い液体を入れ始めた。

 日本人なら嫌いな人を探すのが難しい調味料の殿様、醤油ですよ。

 

俺は塩水と醤油を甕に出し終わるとべリアラ婆さんに進めてみた。

 

「今、甕に出したのは塩水と醤油です、黒い液体の方が醤油です。醤油は適量スープに入れるだけでも味わいが変わりますからおすすめですよ、こんな風に」


俺はべリアラ婆さんに見える様に醤油をスープの中に入れる。

 少しずつ入れて味を確認しながら調整してみた。

 醤油を入れたスープは塩味もしっかりしていて大豆の風味も感じられるようになっていた。


俺が醤油をスープに入れるのを見ていたべリアラ婆さんは甕から醤油を掬いスープに入れ始めた。

 スプーン一杯だけでは薄かったのか甕から醤油を掬いスープに入れていく。

 

「これはいいねぇ塩気も増して味も深みが増してうまいよ、塩水はどうしようね煮立てて塩にしちまうかねぇ」


べリアラ婆さんも気に入ってくれたみたいでよかった。

 俺はそれから朝食を食べ終わり一息つくとべリアラ婆さんが話しかけてきた。


「セン、あんたこれからどうするんだい?」


べリアラ婆さんが改まって俺にこれからのことを聞いて来た。

 俺は前に考えていたことを聞いてみることにする。


「婆さん俺は町に行きたいんだけど、町の場所を教えてくれないか?後そこまでの食糧が貰えると嬉しいんだけど」


俺がこれからのことを言うとべリアラ婆さんは少し考えこむような顔をする。

 そして俺を見つめると頷いてから話し始めた。


「今日中に町へ人をやるつもりだ、それで騎士団に来て貰って盗賊たちを連れてってもらう。

 その時にあんたも一緒に行けばいいさ、さすがに盗賊倒したあんたがいない状態で騎士団に説明するのは面倒だからねぇ。

 それに盗賊を倒せば賞金が出る、その賞金を貰うべき人間がいないんじゃ賞金がもったいないさね」


べリアラ婆さんは笑顔で俺に状況を説明してくれる。

 なるほど盗賊倒すと賞金貰えるのか、そう言えば現代でも懸賞金掛かってた犯罪者っていたからそれと同じなのかな?

 まあ俺この世界のお金持ってないから助かるけど良いのかな?俺が全部貰っちゃって?家焼けちゃった人とか働き手がいなくなった家庭のこれからの足しにしなくて。

 俺なら色んな液体売って稼げると思うからここは村の為に使ってもらうか、騎士団に説明して町まで連れてってもらえば後は何とかなるだろ。


「婆さん賞金は村の為に使ってくれ、家族が死んじまった家庭とか家が焼けた家族とかいるだろ?

 そう言う人のために使ってくれよ、俺は町までの食糧もらえればそれでいいからさ」


俺が提案するとべリアラ婆さんは口を開けて呆けた後大きな声で笑い出した。

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