第1話 白の魔女と勇者パーティー

 到着したのは日が落ちる寸前であった。

 目の前にある人工物からは不気味さが漂ってきており、入り口からは湿っぽい風が吹いている。


「ここが⋯⋯」


 前日、ハンス戦士長からクリアしてこいと言われたダンジョンこそがこれである。難易度自体は現在こそ簡単であるものの、昔は高難易度のダンジョンであったらしい。ダンジョン内部には無数のアンデッドが蔓延はびこり、明かりをつけようものなら一瞬でアンデッドに包囲される。だがパーティーメンバーの一人、ナオトは戦技である〈暗視〉が使えるため、視界は確保できる。またユナも、彼女の加護で似たようなことはできるのだが、女の子だからという理由で先頭には行かせなかった。


「⋯⋯行くか」


 このダンジョンは異世界人であり、加護をいくつか授かった三人の能力ならば容易にクリアできるだろうとのこと。


「⋯⋯ん?」


「どうかしましたか、ナオトさん?」


 急に、ナオトは後ろを振り返る。当然後ろには何も居ないし、これといって異常も見当たらない。


「いや⋯⋯気のせい、か?」


「そんなに気になるなら⋯⋯〈飛斬〉」


 マサカズは手に持つ聖剣を横に振るう。すると可視の斬撃が剣から放たれる。それは特に何も斬ることなく、役目を終える。


「不可視化の戦技や魔法を使っているなら、今のでわかるはずだ。でも、何の反応もなかった。⋯⋯早く行こう。朝までには終わらせようぜ」


 三人はダンジョンに足を踏み入れ、大人四人が横に並んでも余裕なくらいの幅の、地下に続く長い階段を降りる。

 ダンジョン内部はやはり、暗くて、ジメジメしていて、アンデッド特有の、薄くはあるが死臭がする。しかし、三十分ほどで鼻が慣れた──麻痺したといった方が正しいが──ため、気にならなくなる。


「〈敵知覚〉、何か来るぞ」

 

 ナオトの言うとおり、ソイツらは現れた。

 白く、細い体。筋肉が無いというのに、何故かその体は動いている。ソイツらの、何もないはずの眼窩がんかには白い光が灯っており、また、とんでもない生物への憎悪を感じる。

 生物の成れの果て。肉が腐り、無くなった後の姿。そう──骸骨スケルトンだ。

 カラカラと、骨同士が擦れる音を響かせながら、スケルトン二体は走ってやってきた。その細い、細い手には棍棒が握られている。永遠に決して晴らすことのできない生者への憎悪を晴らそうと、スケルトンはマサカズらに襲いかかる。振りかざされた棍棒をナオトはダガーで受け止める。かなりの上等品であるそのダガーは、この程度では刃こぼれしない。スケルトンにダガーを突き刺す。


「⋯⋯スケルトンには、刺突耐性がある、と」


 たしかにダガーはスケルトンの肩に命中し、傷つける。だが砕けることはなかった。また、痛みを知らないスケルトンはナオトの攻撃によるダメージなんて考えず、反撃を行う。


「〈火炎斬り〉」


 ダガーが火を纏う。それによる斬撃は『異世界人』であることもあり、スケルトンを一撃で殺す──いや、その活動を停止させることが出来た。

 それからもしばらく、低位のアンデッドを倒し続けながらダンジョンの最下層に向かう。

 

「⋯⋯なんか呆気なかったな」


 ダンジョンの最下層に到着したのはダンジョンに入ってから三十分後であった。

 呆気ない。それが三人の正直なところである。これであれば、ローファー戦士長の訓練の方がよっぽど有意義であった。実戦の経験には下級アンデッドはあまりにも弱すぎた。


「⋯⋯?」


 ユナはダンジョンの壁の一部に窪みがあることに気がつく。彼女はそれを興味本位で触ると、壁は急に動き始めそこに、更に地下へ続く階段が現れる。


「⋯⋯ユナ、勝手な行動は止してくれ」


「す、すみません」


 こればかりは、いくら可愛くても許されざる行いだ。今回は罠ではなかったから問題はないが、もしこれが即死トラップならば危うくマサカズの加護が発動するところであった。

 無駄な死はしたくない。この加護にはもしかしたら回数制限があるのかもしれないからだ。


「⋯⋯はあ。まあ今回は大丈夫だったから良いとするか。⋯⋯それでナオト、どうだ?」


「かなりの数に、強者の気配がある」


 前者は下級アンデッド。いくら数が集まろうとも、数万単位でもなければマサカズ達の勝利は揺るがないだろう。問題は後者だ。


「強者?」


「ボクたちで勝てるかどうか⋯⋯ってところだ」


 どうやら本当に強者らしい。

 隠しエリア。モンスターハウスともいう。ゲームではそういう所にはよく、大量の財宝が眠っているものだ。それに三人は消化不良で、まだまだ暴れ足りない。ようやくウォーミングアップが終わったといっても過言ではない。この階段を降りる理由は十分にある。


「⋯⋯予想はしていたが」


 階段を降りると鼻が曲がるくらいの死臭が漂ってくる。辺りは真っ暗であるために聴覚がまされ、重複ちょうふくしたおそらくアンデッドの移動音が聞こえる。その数は正確にははかれず、やはり無数ということしかわからない。

 「ヴァー」といううめき声と共に動く死体ゾンビは暗闇から現れ、その憎しみを晴らすべく生者である三人に襲いかかる。

 マサカズはその手に持つ聖剣に力は殆ど入れていなかったが、聖剣の斬れ味と彼の加護のおかげでゾンビの体は真っ二つに、綺麗な断面をつくって斬れる。


「多い、な。二人とも、やれるな?」


 ナオトとユナは「勿論」「ええ」と一言返事をして、それぞれ自身の得物であるダガーと弓を構える。そして、アンデッドの一方的な殲滅せんめつが始まった。

 それが終わったのは戦闘開始から三分後。600近いアンデッドの群れを全て動かない死体にすると、流石に三人は疲労を感じた。


「これで終わり⋯⋯です!」


 ユナは足が破壊され這いずっていたゾンビに矢を突き立てる。彼女は単純な力ならばマサカズ、ナオトの二人よりも弱いがそれでも現地人からしてみればかなり強い。加護には副次効果として身体能力の向上があり、それが三重であると考えれば彼女の外見にそぐわない筋力の強さにも納得がいくだろう。

 頭部が破壊され、ゾンビは完全に活動が停止する。


「それで強者はどこ──っ!?」


 ナオトの言っていた強者を探そうとしたマサカズだったが、急に肩部けんぶに激痛が走った。見るとそこには、


「マサカズ!」


 腕が生えていた。痛みに反射的にマサカズはその白い腕を剣で狙うも、それよりも早く腕は肩から抜かれる。


吸血鬼ヴァンパイア⋯⋯!」


 三人であれば簡単に折れそうなくらいに細い腕と足は病的なほどに白く、髪の毛は銀色で、服装はボロボロな布の服一枚だけである。もしヴァンパイアだと知らなければ、男どころか女ですら思わずかれてしまいそうな危険な魅力を持つ顔つきは非常に整っており、その紅くあやしく輝く瞳はまるで宝石のようだ。

 アンデッドの上位種、ヴァンパイア。その華奢きゃしゃな外見とは裏腹に、一体で都市を陥落かんらくさせることができる正真正銘の化物だ。


「〈痛覚無効化〉!」


 マサカズは戦技により痛覚を無効化させることで肩の痛みに惑わされることなく戦えるようにする。だが傷が治ったわけではないし、今も穴からは血がドバドバと流れ出つつある。早めに勝負をつけなくてはならない。


「〈剛射〉」


 本来の何倍もスピードが増して威力が大きくなった矢を、ヴァンパイアは少し身体をひねるだけで避ける。それは故意的に行ったもので、つまり攻撃が見切られているということだ。

 そんな遠距離攻撃をしかけてくるユナを警戒したのか鬱陶うっとうしく思ったのか、ヴァンパイアは攻撃の対象を彼女にする。


「なっ!?」


 前衛の二人、マサカズとナオトはヴァンパイアの動きが全く見えず、後衛のユナへの接近を許してしまう。彼女は弓で咄嗟とっさにヴァンパイアの爪による攻撃を防御し、致命傷は免れるもその圧倒的な筋力によって後方の壁に叩きつけられる。壁はヒビ割れ、内臓にダメージが入りユナは吐血して地面に倒れる。なんとか死亡はしていないが気絶。放置していればしばらくは起きないだろう。


「クソッ!」


 ユナにトドメを刺されないためにマサカズは無策むさくにもヴァンパイアに剣を振る。だが背後からの攻撃だというのにヴァンパイアは容易に避けて代わりにマサカズは裏拳を叩き込まれる。痛みはない。だが他の全てが聞こえなくなるくらいに重度の耳鳴りがする。


「──ズ! マサカズ!」


 ボヤケていた視界は段々と鮮明せんめいになっていき、ナオトの呼びかけでマサカズの意識は再び覚醒かくせいする。倒れていた身体を起こすと、ナオトはマサカズに話しかける。


「ボクが奴の動きを止める。だからマサカズはあの戦技で奴を殺せ!」


「本気で言っているのか!? そんな事をすればナオト、お前は──」


「この状況を覆すにはそれしかないんだ! 自分の力を信じろ!」


「くっ⋯⋯。⋯⋯ああ、わかった⋯⋯」


 ナオトの言っていることは正しい。代案なき否定などおろか者のすることだ。マサカズではこの状況を打開する他のアイデアは思いつけず、彼の作戦に乗るという選択肢しかない。


「〈影化〉」


 ナオトの体が真っ黒になり、液体のように地面に消える。よく見ると地面には影のようなものがあり、それは一瞬にしてヴァンパイアの背後に移動し、再び影は実体となる。


「マサカズ、今だ!」


 ヴァンパイアの脅威的な筋力を長時間押さえつけていられるほどナオトは強くない。刹那せつな猶予ゆうよさえなく、行動は一瞬で実行に移さなくてはならない。

 ──すまない。


「〈一閃〉ッ!」


 マサカズの姿がそこから消えて、ヴァンパイアの目の前に現れる。まさに一瞬。人がまばたきする間にマサカズは剣を振り、対象を斬ったのだ。鮮血がその華奢な体から撒き散らされ、活動を停止させる。


「ナオト! ⋯⋯よかった、傷は浅いな」


 比較的ではあったがナオトの傷は浅い。思っていたよりも自分の力を制御できたということだ。ユナも気絶しているだけだし、今のマサカズでも二人を背負って王都に戻ることは十分可能だ。


「──もう帰るのかな?」


 マサカズが二人を背負おうとしたとき、突然女性の声が聞こえてきた。その声は非常に透き通っており、マサカズがこれまでに聞いてきたどんな声よりも美声であった。だが、肝心かんじんの声の主は見当たらない。

 それもその筈だ。何故ならば、


「初めまして、勇者様」


 その姿を隠していたからだ。そして今現れた。

 肩くらいまである長いその白髪はサラサラとしており、瞳は灰色と珍しい。白を基調としたゴシックドレスはこんな所に居るというのに一切の汚れがなく、デザインは非常に凝っており高級品であると分かる。だがそんな物ですら添え物にすぎないほどの美貌を彼女は持っていた。少女の可憐かれんさがあるというのに、彼女にはまた大人のあでやかさもある。絶世の美女という言葉でも彼女のその美しさを表すことはできない。人間が持つあらゆる語彙ごいに彼女を表せる言葉はないのだ。強いてあげるとするならば──『人智を超えた美貌』という言葉だけだろう。


「お⋯⋯お前は⋯⋯まさか⋯⋯」


 しかし、そんな美貌に囚われるほどマサカズは弱くない。彼は彼女の力量を感じられる──いや、感じられてしまうほど、彼女の力は強大であるのだ。

 それは魔力。魔法の行使に必要な生命体が持つエネルギーであるが、本来、並の人間の魔力は当然、上位モンスターの魔力ですら魔法使いではないマサカズには感じられないものである。つまり、それが意味するのは⋯⋯彼女は異常とも言える存在であること。


「キミはどうやら私の事を知っているようだね。そうさ、私は──」


 そして、これだけの魔力を持つ存在は一般的にはある六人しか知られていない。人々はその存在達のことをこう呼ぶ。


「『白の魔女』エストだ」


 マサカズはその名前を聞き、頭の中が文字通り真っ白になる。

 どんな外見で、どんな性格で、何を好み、何を嫌い、何を目的と、『欲望』とするかが全く知られておらず、唯一分かっていたのはその名前とその強さだけ。存在すらが疑われていた魔女こそが目の前の少女──黒の魔女に匹敵しうる力を持つ魔女であると云われているエストなのだ。


「や、やめろ⋯⋯」


 彼女が発するのは純粋な感情。邪魔な虫でも殺そうとするような殺意だ。それを僅かにだが感じ取ったマサカズは恐怖し、無意識的に後ずさる。だが彼女は彼が後ずさった分だけ前に進み、その距離を開けさせない。


「来るな⋯⋯」


 本能的な恐怖。生物的な恐怖。戦っても勝てないという恐怖。確実に死ぬという恐怖。予想できる死。回避できない死。それを直感的に理解するも、なお抗おうとする。

 マサカズの身長は178cm、エストは169cmだ。10cmほどの差があるのに、マサカズはエストが大きく見えた。


「そんなに怖がらなくていいよ。終わるときは一瞬だからさ」


 優しい口調。聞く者全てを虜にする声。だがそこに慈悲じひなどない。


「うわあああっ!」


 ついに耐え切れなくなり、マサカズはエストに剣を振る。体が触れ合いそうなくらいに近くに居たのだ。普通の人間であれば、例え剣士であってもマサカズの剣は見切れない。しかし、


「駄目じゃないか。私が傷ついたらどうするんだよ?」


 マサカズの剣は、簡単に受け止められる。その細い指にはまるで力が入っていないように思えるのに、彼は剣を少しも動かせなかった。

 エストは魔女、つまり魔法使いだ。だが身体能力は並の人間より圧倒的に高く、転移者であるマサカズですらその足元にも及ばない。「傷ついたらどうするのか」とは言っているが、故意的でもなければマサカズはエストに傷一つ付けられることはできないのだ。


「⋯⋯恐怖し、力の差すら見極められない。戦士としての能力も低く、精神力もダメダメ。⋯⋯これじゃあやっぱり不合格だね」


「殺さないでくれ!」


 命乞い。弱者が強者に求めるものだ。だがマサカズはそれをする相手を間違っていた。


「キミは虫を殺すときに躊躇うの? ⋯⋯ダメだね」


「⋯⋯っ! それじゃあせめて、なぜ殺すのかを教えてくれ!」


 マサカズの頭はようやく決定的な死への抗いという固定化された思考から脱出することができた。もう既に、彼に残されたできることは可能な限りの情報収集のみとなったのだ。


「へえ。面白い目をしている。まるで死ぬことが終わりだとは思っていないような。まさか、蘇生魔法でも使えるのかな?」


 質問と答えがまるで合っていない。ここで「蘇生魔法が使える」といって、嘘をついたって意味はない。少しだけ延命が出来るだけだ。マサカズは彼女の答えか、あるいは魔法をただ黙って待つことしかできなかった。


「⋯⋯まあいい。凄く興味深い感情だけど⋯⋯やることは変わらない。⋯⋯と、そうだったね。キミの質問への回答は、私の邪魔になる可能性があるからだ。じゃあ、永遠にさようなら」


 どんな魔法を使ったのか。それは分からない。何か言葉を発したと気づいた瞬間には、彼は事切れていた。


 ◆◆◆


「──っ!」


 気がつくと、彼はダンジョンに入る直前の時点に居た。そう、のだ。

 死の感覚。それは理解できない漠然ばくぜんとした不快感であった。


(これが死、か。何度でもやり直せる、最後には必ず感動的な結末が迎えられる⋯⋯なんともまあ素晴らしいクソッタレな加護だぜ)


「マサカズさん、どうしたんですか?」


 マサカズの突然の変貌にユナは驚き、心配する。


「⋯⋯前に話した俺の加護、覚えてるか?」


「まさか、本当に⋯⋯誰に殺られたんだ?」


 重症を負っていた二人だが、今は傷一つない。たちの悪い冗談でもなければ、この現象は例の加護が発動したという証明になる。

 マサカズはナオトの問に答えることなく、後ろを振り向く。それこそが回答であるからだ。


「白の魔女、エスト⋯⋯そこに居るだろ?」


 誰もいないはずのそこに、マサカズは声をかける。その声かけに反応するように、そこに白髪の少女が現れる。


「⋯⋯ほう。素晴らしい。私の不可視化を見破るとは」


 さっきとは異なり、彼女からは一切の殺意が感じられない。代わりに感じられるのは興味である。


「⋯⋯見破ってなんかいない」


 マサカズのその言葉にエストは理解できないと言ったふうに困惑する。当たり前だ。


「先に言おう。お前に、俺は、殺せない」


「⋯⋯随分ずいぶんと大きく出たじゃないか人間。試してみようか?」


 彼女の殺意は目覚めた。だがマサカズは何の策もなしに、彼女を怒らせるようなことはしない。


「戦えば、俺は殺されるだろう。だが⋯⋯俺は何度でもやり直せる」


「⋯⋯なんだって?」


 言葉は分かるが意味は分からない。それの良い例がこれだろう。マサカズの加護を知らなくては彼が言っていることは狂言であるし、そもそも普通はそんな加護があるなんて信用も、考えもしない。


「それは俺の加護が原因だ」


 最早加護ではなく呪いの能力。そんなクソッタレで非現実的で冒涜ぼうとく的なそれが効果を発揮することは文字通り体験した。夢であるならば覚めてほしい。


「⋯⋯なるほど。加護⋯⋯それも本当のようだ」


 エストの瞳が白く光った──ような気がした。

 彼女の理解能力が本当は、何でも信じてしまう純粋な子供のそれではないかと疑問に思うが、ともかく信じてはくれたようだ。問題はこのあと。


「たしかに私はキミを⋯⋯語弊ごへいのある言い方かもしれないけど殺すことができないだろうね。だからキミは私に『見逃せ』と言いたいのかな? ⋯⋯でもそれは──」


「違う」


 エストが何かを言おうとしたところにマサカズはこう被せる。


「お前の目的である『俺達を殺すこと』は『お前の邪魔になる』というのが理由だ⋯⋯そうだろ? だが、俺達はお前の邪魔な存在になり得るとは思えない」


 エストの力であればマサカズ達三人なんて瞬殺できる。それがどうして邪魔になるのか。

 黒魔法は禁忌の魔法。であるならば、支配系──強化して支配できるといったインチキともいえる魔法があってもおかしくない。そして黒と白が対立しているならば、白が黒の戦力となるかもしれない存在を消すということは十分あり得る話だ。


「だけど俺達も死にたくはない。というか死ねない。俺はどうやら最悪な形で世界に愛されたからだ。つまり、この時点でお前に残された選択肢は一つ」


「⋯⋯私に、キミたちを守れって?」


 マサカズには『死に戻り』の加護がある。生存が勝利条件であるのならば、ほぼ勝率100%のチート能力だ。生存においてこれ以上に適した能力はない。そしてそれは強制的で、オンオフスイッチはない。マサカズが死亡するという結末である限り世界はその時間を永遠と繰り返すことになる。そこから未来へ進むことは決してないのだ。


「いや、それも少し違う。俺達──少なくとも俺の要望は⋯⋯俺達を強くしてくれ」

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