16:噴火《アグニ》
「ヤバい……
真紅の鱗、長細い首と尾、漆黒の瞳と大きく隆起した棘のような背びれ。
そして、さっきの熱風と焼け焦げた大地。
昔、母さんと一緒に読んだ本に書いてあったことを思い出す。
アレは、
「なんでこんなところに?」
普通のドラゴンにならともかく、
ゴウゴウとという炎が燃える音が
「逃げるぞ」
エアの頭を叩いてから、角に抱きついて
こっちをじぃっと見ている
細長い口が開いて、こちらに近付いてこようとした
「ダメだって!」
エアにそう言おうとした時、見覚えのある影が二つ空から降りてきて、僕たちと
「――キュラララァァアアアア!」
王都からここはそれなりに離れているし、
空での機動力が劣る
よく見ると、綺麗だった両翼は端が焦げてボロボロになっているし、艶のあった嘴は僅かに欠けている。
「セレスト、そいつと逃げろ! 人の足じゃあ無理だが、そいつならなんとか逃げ切れるかもしれない」
あちこち小さな火傷をしている兄貴は、全身煤まみれだ。声を張り上げながら、兄貴は
「街の人は? っていうかなんであんなもん連れてきたんだよ」
「王都のやつらが手を出しやがったんだよ! 一緒にいた軍隊は全滅。オレと親父は体勢を立て直すために逃げたんだが、
兄貴は吐き捨てるようにいうと、村の方からゴウっと熱風が吹いてきた。
鱗の間から炎を噴き出している
「街の人達は?」
「番兵たちと、領主殿が避難を呼びかけているが……どうなるか」
兄貴は、そういって頭を振ってから顔をあげた。それから握っている手綱を引き、
「ケンケーーーン」
甲高い鳴き声をあげた
「オレと親父がなんとかするから、お前はそいつと逃げろ」
ボロボロになって所々焦げている尾羽が傷ましい。
首をまっすぐに伸ばして翔ぶ
そして、勢いよく振り回した尾は、
「兄貴! 親父!」
頭が真っ白になる。それから、村とは真逆の方向へ目を向けた。背後には岩壁、少し遠くにはいつも僕たちがすごしていた家がある。
村も森も焼けている。みんなはどこに避難してるんだろう? 海岸か、それとも丘の上にある領主様の屋敷か……。
それよりも、逃げないと。でも、どこへ?
手足が震えてうまくうごかない。
逃げてどうなる? 兄貴と親父はこのまま死ぬのか?
見捨てるのか?
考えろ。
唇を噛みしめながら、僕は
「――ロン」
琴を弾くような音でエアが鳴く。さっきまでの荒々しい鳴き声ではなく、とても優しい声で、まるで「大丈夫」と言われたような気がした。それを聞いたお陰で、冷え切った頭の芯がじわじわと温まっていく気がする。
「ありが……うわ」
話してる途中で大きく体が揺れて、とっさに角にしがみついた。今まで僕たちの前では動きたがらなかったエアが、半年間振りに足を踏み出す。
「いや、戻れって! 相手は
逃げるのか? と思ったけれど、エアが進み始めたのは
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