空の龍編

10:空の龍と太陽の巫女

 僕の母さんは、太陽の巫女のまつえいなんだって、親父はよく話してくれていた。

 母さんも、よく空の龍が活躍する神話を眠る前に話して聞かせてくれた。

 太陽の光みたいに綺麗な金色の髪、草原みたいに綺麗な柔らかい緑色の目。

 兄ちゃんはからかうけれど、僕は母さんから聞く神話も、巫女様と同じ色をした自分の目や髪の色も好きだった。


 今でも、目を閉じると母さんが話してくれていたことを思い出せる。


 太陽色の髪と空色の瞳は、空の王と共に世界を駆ける巫女の証。

 月色の髪と夜空色の瞳は、地底の王と共に冥府を守る巫女の証。


 冥界を守る王は静かに私たちの魂を迎えてくれる。

 空を守る王はいつでも空から私たちを見守っている。

 

 神が去ってからも、龍と人は共に生きてきた。

 空の王が隠れ、地底の王が深く眠り、月日が流れ、人は龍の言葉を忘れてしまった。

 言葉が分かれ、絆が薄れ、人と龍は共に生きることをやめた。

 それでも、空の王は私たちを見守ってくれています。

 災厄の名を持つ龍たちを、私たちが畏れることを忘れ、野を駆け空を飛ぶ獣と同じと侮るとき、きっと人々は彼らの恐ろしさを知るでしょう。

 絆を結ぶことなく、龍の力に溺れれば、災厄たちは大いなる牙で人の世界を滅ぼすでしょう。

 人と龍の絆が壊され、災厄たちが怒り狂う時、まだ龍を信じる心があるのなら……。

 空の王に忠誠を誓った黒き翼の獣を呼びなさい。

 王から賜った裁きの雷が、空と地の王を呼び覚ますでしょう。

 月の子と太陽の子が共に揃い、王たちと絆を結ぶのです。

 空の王、青き鱗から零れる光で世界を癒やし、地底の王、千本の腕で龍の力に呑まれた人を癒やすでしょう。

 災厄は王たちの名の下に頭を深く垂れ、世界は再び龍と人の楽園になるのです。


 親父も兄ちゃんも信じてくれないけれど、僕は空を統べる大きくて真っ青な鱗の龍が今もこの世界を見守ってくれてるんだって、そう信じてる。


「母さん! 僕、空の龍とお友達になりたい」


「セレスト、きっとあなたならなれるわよ。だってお母さんの曾々々々おばあ様は空の龍の巫女様だったらしいわよ」


 兄ちゃんも親父もまともにとりあってくれなかったけど、母さんだけはそう言ってくれて、やさしく抱きしめてくれたのをよく覚えている。

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