7:敵襲と秘策
「俺のせいだ! なあ、
母さんは俺の質問に答えてくれない。でも扉を押さえているのはわかるから、死んではいない。
頭に浮かんだのは、川辺で脱いできた
頭の芯がどんどんと冷たくなる。
外からは、大人たちの悲鳴と怒号が聞こえてくる。
窓から外を見てみると、農具や、松明を持っている大人たちが見えた。どうしよう。今日、なんとか持ちこたえたとしても、明日はどうなる?
怒った
きっと、あいつは村人や家畜を少々食べた位では去って行かないだろう。
父さんと母さんには悪いけど、ここにいるだけならじわじわ死ぬのを待つのと変わらない。
いてもたってもいられなくて、壁に立て掛けられた弓を手に取った。扉を軽く押してみるけどビクともしない。母さんは、まだ扉の外で俺が出てこないように見張っているんだと思う。
「ガァーガァー」
空から、獣の唸り声みたいな声が聞こえる。村のざわめきが増す。
多分ヴォルトが、異変に気が付いて村の上まで来てくれたんだろう。絶対に外に行かなきゃ。
辺りを見回すと木桶が目に入った。朝食は魚の予定だったらしい。
「これもつかえるな」
土間にあった木桶に手を突っ込んで、中に置かれていた魚を数匹掴んで腰のベルトにぶら下げた。
それから、窓に嵌められている格子に思いきり体当たりをする。勢い良く格子が外れて、俺は地面に転がり出る。大人たちがこっちへ来るのを無視して、柱をよじ登った。そして、空から俺を呼んでいるヴォルトに応えるために屋根の上へ立つ。
「ニコ! 降りなさい!」
母さんの声が聞こえる。父さんが、暴れる
「ヴォルト!」
「ガ!」
急降下してきたヴォルトの首元に捕まって、俺は空高く飛び上がった。
影が
そうだ。影……それに今は昼間か。
これなら、いけるかもしれない。戦わなくても、あいつをここから追い出せるかも。
「いけない! ヴォルト、巣に帰るぞ!」
急降下して
不服そうにしながらも、ヴォルトは短く「ガ」と鳴いて、巣のある方向へ首を向けた。
風が冷たいけど、羽毛で包まれている身体はあたたかい。
巣の中心部にゆっくりと着地したヴォルトの上から降りて、昨日見たガラクタが落ちていたあたりへ向かう。
「ガウ」
ガラクタに近寄る俺を、咎めるように短く鳴くヴォルトに俺の弓を咥えさせる。
弦を思い切り引っ張って離すと「ポロン」と綺麗な音が出る。
「ガ! ガ!」
琴のような音……か。使えるかも知れない。それに、ちょうど角笛もある。
ヴォルトが喜んで、弓で遊んでいる間に、俺はガラクタの中から更に使えそうなものを引っ張り出していく。
大きな筒を取り出して、それに扇状の葉を巻き付けていく。重さがあまりあってもヴォルトがバランスを崩してしまうので慎重に……。
先端に少しくびれのある太い棒が出来上がった。先端の左右に光る石を嵌め込んだ。さらに、それからを拾った枝を二つに折って左右の側面にツルで結びつける。棒の先端に帽子を被せて木の枝を突き刺して固定した。これで角のある頭に見えなくもないだろう。
「よーし! 出来たぞ。これであいつを追い出してやろうぜ」
そうヴォルトに声をかけてから、落ちていたボロボロの剣を拾い上げて腰からぶら下げた。
「ガ!」
弓で遊んでいたヴォルトがこっちへ視線を向ける。首を傾げていたが、すぐにヴォルトも自分の宿敵を思い出したようだ。
乱暴に放り投げられた弓を拾って背負い直した俺は、脚を折り曲げ姿勢を低くしてくれたヴォルトの背に乗る。どうやら、さっきのことで脚で俺を掴むよりも背に乗せる方が安全だと学んでくれたらしい。
首の付け根に掴まって、作った棒を構えた。
瞳孔を大きくしながら、ヴォルトが棒をじっと見ている。飛び立つと同時に大切な作戦の要を振り落とされてはかなわない。
「ヴォルト、いいぞ。いい子だ」
頭に乗せた棒を持ち上げて、もう一度乗せてみる。
そのまま動かないでいるヴォルトの口に魚をいれてやって褒めると、こいつは大きな目をゆっくりと瞬かせた。
「グゥ…ルル」
「嫌がるなって」
もう一度頭を棒に乗せる。ヴォルトが嫌がって頭を振る直前に棒をサッと持ち上げる。そして、間髪入れずに持っていた魚をヴォルトの嘴に入れてやった。
何度か繰り返す。頭に棒をのせて、褒めて、餌をやる。
嫌がったり身体を揺するのをやめてくれるようになったので、俺は魚をまた一匹、ヴォルトの嘴に放り込んで首元をポンポンと撫でてやった。
焦るなと自分に言い聞かせる。まだ村は持ちこたえてくれているだろうか。
「ヴォルト! 行こう」
頭に棒を乗せても、不満そうに目を細めはするが頭を動かして棒を振り落とそうとはしなくなった。もういいだろう。
俺が「行こう」というと、ヴォルトは駆けだして巣の縁から飛び出した。ヴォルトが大きく両翼を羽ばたかせると、村へ向かって風のように飛んでいく。
「まだ降りるなよ……」
村の遙か上空へさしかかる。俺はさっき作った棒をヴォルトの頭からはみ出すように置いた。小さく「グルルル」と不満そうな声はあげるが頭を振ってまで嫌がる様子はない。
「ヴォルト、えらいぞ」
足下では、
石や火の付いた木を投げているのが見える。よく見えないが、まだ、たぶん父さんと母さんも生きているはず。
「下へ! ゆっくりだ」
焦るなと自分に言い聞かせて俺はヴォルトに指示を下す。
太陽を背にして、ゆっくりとヴォルトが下がっていく。
嘴に魚を入れて褒めてやりながら、俺は背負ってる弓を抱えるように持って、弦に指をかけた。
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