4:泥岩河馬《ベヘモト》
「
「砕けた鉄の鎧と肉片が川辺に落ちていたらしい」
森に行った
大人達が集まって話しているのを建物の影から聞いて「やっぱりな」と心の中で思う。
それから、大人達に見つからないようにこっそりと森へ向かった。
ちゃんと熟練の
「ニコがまたいないぞ」
「あの子ったら……まさか、森に行ったのかしら」
「死んだじいさんの代わりになるんだ! なんて意気込んで
父さんや母さんが俺を探している声を背中で聞きながら、俺はみんなに見つからないように隠れてじいちゃんが遺してくれた小屋へ向かった。
数日の間に、
て村の近くまでやってくることが増えた。
村で飼っていた羊や牛たちを何匹か喰われたし、森へ様子を見に行った大人たちも何人かが襲われそうになって逃げ帰ってきた。死人が
ってる誰かが死んでもおかしくない。
もう、やられてばっかりなのはごめんだ。じいちゃんがいないし、
覚悟を決めた俺は、じいちゃんと過ごしていた小屋に急いで駆け込んで、床板を外す。
床下にしまいこんでいたのは、じいちゃんが残してくれた獣やドラゴンについて記されている秘蔵のメモだ。
「
分厚い鱗の付いた革が張られた表紙を持ち上げて、龍の髭で閉じられたメモを捲っていく。
メモの中にはじいちゃんが描いた獣たちの絵と、
イボだらけでゴツゴツした岩のような革を持っている獣の絵を見かけて手を止める。
全部は読めないが、簡単な
記されている文字を指でなぞりながら読んでいく。
べた。
あいつはギラギラ光る鉄の鎧を自慢げに着ていたっけ。
溜息を吐いてから、さらにメモに目を落とす。
「天敵は……空を飛ぶ中型以上のドラゴン、この近辺にいる龍だと……当てはまるのは
繁殖期になると、灰色の鱗の一部を真っ青に染めるドラゴンのことだ。穏やかな気性のドラゴンで滅多なことでは村の近くへ下りてこない。子育ての時期になると家畜を何匹か連れていくこともあるが……ヒトの姿
を見るとサッと飛び立っていくので危険な生物という印象はいまいち薄い。
中型といっても家よりも体が大きいから、あいつらが襲ってきたら村なんてひとたまりもないのは確かだ。
あいつらがうまいこと村の近くに来てくれれば、
「
こうしてじいちゃんが残してくれたものを読んで悪態をついたところで、今の俺には
何か手立ては無いのかと更に読めそうな部分を探していく。
「寒いのを嫌うので夜には動かない……か。だから、村長は夜の間に水をくみに行けって命じてたんだな」
水辺で無惨な姿になっている
多分、あいつは
あの獣は、ずんぐりむっくりとした体からは想像も出来ないが、濁った水の中に姿をくらまして、ものすごく速く動ける。
それは、木の上から観察した俺でも目にしている。
さらに、基本的に
だから、水辺で戦うのは阿呆のすることだ。
俺が読めるのはここまでだった。細かい対策や有効な武器や植物の名前なんかは俺にはまだわからない部分が多かった。
メモを閉じて、床下にもう一度しまい込む。そして、
足跡を残さないように、木の上に登る。それから太い枝を見つけて、木から木へ飛び移りながら森へと向かった。
あたりを見回しながら、水辺へ近寄って、茂みの中に身を隠す。
無事に河辺まで辿り着いた。巻き付かれたら危険な翡翠蛇も、近くの枝にはいないようだ。
深呼吸をして、河を凝視する。日も高くなってきたし、気温も上がってきた。そろそろ
腹が満たされている間なら、
「……!」
小枝が折れる音と水音がした方へ顔を向ける。
浅瀬にゆっくりと歩いてきた
背中と側面に泥をまとうと、今度は
どこからか集まって来た小鳥たちが
をプルプルと震わせるだけで意に介していないようだ。
「ロロン……ロロロン……」
どこからか、琴のような音が響いてきたと思ったら、地面に大きなドラゴンの影が差す。
上を見上げると、灰色の鱗に覆われた
小鳥たちが飛び立つ羽音と、派手な水音が響き渡る。慌てて水辺に目を向けると、
長い首と尾、そして頭から生えた一対の白い捻れ角が特徴的な
天敵がここを通過するだけだとわかると、すぐに
「あーあ。ドラゴンが
思わず小さな声で独り言を漏らす。
うまいことあいつがここに下りてきて、忌々しい獣を追い払ってくれないかなと思うけど、そんなにうまくはいかないらしい。
寝転んで、鳥に
気付かずに自分に近付いてきた鹿を、あっという間に大きな口で一呑みした
そして、食べ終わると骨だけを器用に吐き出した。
あの
背筋が寒くなるような思いをしながら、俺は
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます