第36話 結果発表! そして……

「ソラでありますように。ソラでありますように……」


 ハナの呟きが聞こえる。


「この料理対決は……はい、ソラちゃんの勝ち!」


 審査員が、私の右腕を上げてこう言った。


「え、私……?」


 なんだか随分あっさりと決まってしまって、嬉しさと疑問がごちゃ混ぜになっている。もっと悩みに悩んだ上での発表であれば、違う反応をしたかもしれないが。


「おおっ、やったじゃん、ソラ!」

「うん。私……なんだね」


 これに納得いっていない者が1名。頬をぷくりと膨らませている。


「何でなのよっ。私の料理、褒めてくれてたくせに」


「うむ。君のも確かに美味うまかった。旬の野菜を上手うまく使った、この季節にピッタリの料理と言えよう。味もナイスだった。薄すぎず濃すぎず……誰が食べても美味いと言うだろう」


 ならば、スイの敗因は何なのだろうか?


「ただ、1つ残念なことにね……ゼリーが少し固かった。人それぞれ好みはあるんだろうけどね、俺はもう少し柔らかめがよかったな。スライムの量が多かったのか、水が少なかったのか……そのバランスだけだったんだなぁ」


 そういうことだったのだ。私は、あれでも良かったのだが。本当に、感じ方は人それぞれなのだな。


「あぁ……たったそれだけで……」


 ガクッ、と肩を落とすスイ。それからチャラは、私の勝因も話してくれた。


「ソラちゃんのゼリーはね、なめらかで、噛んだ時のジュワッと感が何と言うか……閉じ込められていた何か凄いものが、覚醒したかのようにパァッと口の中に広がって、やがて全身に伝わって……まるで自分がトマトになったみたいな気分を味わえたよ。外見はシンプルだが、食べた俺は今、こんなにも溌剌としている! 太陽の下を歩いている時のように! ん? 太陽……そうだ! これは言うならば、『太陽からのお裾分け』だ! どうだい?」

「大層なネーミングつけちゃって。単純に、トマトが一番好きなだけなんじゃないの?」


 スイが負け惜しみを言う。


「それは違うぜ、お嬢さん。俺は野菜に順位はつけられない。何故なぜなら、全てがナンバーワンだからさ。アイ・ラブ・ベジタブル! こいつだって、生でいけちゃうよ!」


 チャラ男が懐から取り出したのは、綺麗に洗ってあるニンジン。先程、スイが指摘していたやつである。そして、生の状態のそれを……食べた! ボリボリという音が、ハッキリ聞こえる! 馬みたいな人だな。この行動には、我々女子4人、誰もが驚愕きょうがくせざるを得なかった。


「……ところで、そもそもどうして、こんな勝負をすることになったのかな?」


 ニンジンを1本丸々食べ終えてから、彼がたずねた。

 スイを除く3人で隣国・ガイラルディアに行く途中、この町に寄ったのだが、スイが近道を知っているのだという。教えてもらうには、彼女と何らかの勝負をして勝たなければならなかった。負けても支障はないのだが、どうせなら、ということで。勝負の方法が料理になったのは、自分の知らないところでスイが納得いかないことがあったからだ──私はそう教えた。


「ガイラルディアって……どうして、あんな所に? 国全体が危険地帯だよ、君たち。強~い魔物がわんさかいるって聞くぜ~」

「ちょっと、野暮用で」


 無関係の者には、詳細は伏せておく。


「いやいや、そんな、サラリと言われてもねぇ……」


 この彼、向こうで私たちに何か良くないことが起きるのを危惧しているのだろうか? そのような場面があったとしても、私たちは切り抜けてみせる。目的を達成するまでは、絶対に。


「まぁ、でも……何とかなったりしてね。ソラ、強いから」

「そうね。その剣が飾りじゃないってのは私も理解したわ。あの人はどうなの? 静かだし、顔もよくわからないし、謎が深まるばかりなんだけど」


 ミラさんのことか……。


「戦い以外のコトでサポートしてくれるので、ご心配なく」

「あら、そう。ま、そういう人がいてくれてもいいかもね。それじゃ約束通り、例の山のことを教えるわね」


 やっと来たか。ここまで、実に長かった。


「地図を持ってくるから、ちょっと待ってなさい」



 2分程が経過した。スイが戻ってきた。

 地図を見ながらの説明になる。彼女が言うには、ガイラルディアに転移させる魔法陣がある山というのは、この町の西に存在している。『キカス山』という名がついている。標高はそんなに高くはなく、魔物に遭遇することもなかったので、頂上まで登り切るのに、スイはさして苦労はしなかったそうだ。


「比較的、楽な方かしらね。あ、これ、アンタたちが持ってていいわよ。違う山に入るなんて間抜けな展開にならないようにね。でも勘違いしないで。あげるんじゃなくて、貸すだけだから。やることやったら、ちゃんと返しに来なさいよね」

「わかったわかった」


 私は地図を受け取った。

 ありがたい。これで迷わずに済みそうだ。

 教えてもらったのはいいが、それで今すぐ出発というわけにはいかない。この町でするつもりだった、旅のための買い物を、まだしていなかったのだ。だいたい、時間が悪い。今日はこの町から出ない方がよさそうだ。

 スイと別れ、私たちは宿をとった。荷物を確認し、足りないものなどを買うために、また外に出る。資金はたっぷりあるので、余分に買える。

 夕飯は、料理対決をしたあの店で食べた。幸運なことに、主人が、スイに勝ったお祝いに(「お祝いって程でもないが……」と言ってはいたが)、食事代を安くしてくれた。

 寝る所だが、私は2人用の部屋に泊まる。一緒となるのはハナだ。ミラさんは、1人用の部屋を初めから希望していた。前の宿でもそうだった。

 私はベッドの上に大の字になる。

 今日はなんだか濃い1日だったなぁ~……。

 しばしハナとで語り合い、いつしか私は夢の中へ──

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