第26話 再会(2)

「げ、ここでも会ったか。まぁ、アンタここに登録してるんだから、外で会う確率より高くて当たり前かもね」


 ハナが、不味まずいものでも食べたかのような表情をした。

 金髪を後ろに束ねたヘアスタイル、クリーム色の半袖に、濃いオレンジ色のスカート姿の少女が、私たちの所へ。


「15日ぶりね。あの時私が言ったこと、ちゃんと覚えてるでしょうね? ……って、ちょっと待って、その子は…………あ! アンタ! もしかしてソラ!? だよね!?」


 私は首を1回縦に振った。彼女は私を知っている。そして私もまた然り。


「やっぱり! え、でもなんか……。ちょっ、ちょっと立ってみてくれる?」

「?」


 私はとりあえず従う。少女は右手を双方の頭の方にやる。何かを比べているように見える。そして彼女は1人で、ガーン! とショックを受ける。


「抜かれたぁ~。あぁ~、昔はアンタが一番チビだったのに」


 ははぁ、そちらさんも背の高さの話を持ち出してきたか。確かに数年前までは、今言われた通りだったのだが、逆転したか。地味なことなんだろうけど、ちょっと得意気になってみる。

 暗い影を落としている者に、私は苦笑いだけで何も言わずに、席に座った。

 少女は立ち直りが早かった。私に質問する。


「ね、私のこと覚えてる? 覚えてるよね? 忘れたなんて言わせないからね!」

「えっと……どちら様で?」


 私はわざと、こう言ってみた。すると少女は、私の胸ぐらを掴み、


「くぉらぁーッ! それはないでしょそれは! 何年にもわたってあれだけ遊んでやったというのにッ!」


 こ、これは……本気で怒っているのかな? いや、そんなことないよね? うむむ……からかわなければよかったかな。反省。


「冗談よ。スイのコト忘れるワケないじゃない。お久しぶり」

「……んもう、だったら最初からそう言いなさいよ」


 私がちゃんと名前で呼んだので、彼女は手を離し、気をしずめてくれた。


「まあまあ、ちゃんと覚えててくれていたんだから、よかったじゃないの、スイ。それじゃ、私がでしゃばるのはここまで。あとは若い人たちでどうぞ。ソラちゃんたち、話はまた今度聞かせてね」


 ギルドマスターが退席した。代わって、スイがそこに腰かけた。

 カスタネア生まれの彼女──スイ・ブラフミーは、王都・アルトシティでの暮らしに強い憧れを抱いている。過去には何度も足を運んでいた。ある日、私やハナと出会い、それからは一緒に遊ぶようになった。そんな彼女が、いつからか私やハナをライバル視するようになり、何をするにも勝負だ、競争だと言っては私たちをあきれさせていた。

 それぞれが修行のために生まれ故郷を離れてからは、全く顔を合わせることはなかった。私は今日だったが、ハナと再会したのも、ほんの半月前だったそうで。私の知らない所で2人が何をしていたか、それはハナが教えてくれた。

 スイも剣を扱う冒険者になっていたが、元々の性格は変わらず。会って早々、勝負を申し込んできた。

 結果は引き分けだった。両者とも、それには納得がいかず、後日再戦したいと、スイが言ってきた。面倒で、本当はけたかったハナだったが、しぶしぶ了承した。でないと、いつまでもつきまとわれてしまうので、仕方なく──だそうだ。

 そんなことがあったのか。


「後日、なんて曖昧あいまいな言い方するからさ、もっと遠い未来のことだと思ってたんだけど、まさか今日やるかもしれないとはね……」


 ハナはこっそりと、憂鬱ゆううつそうにぼやいた。


「わざわざここまで来るなんて、よっぽど決着をつけたかったのね?」


 いや、そんな目的でここに来たのではないのだが。


「それにしたって何なのよ、怪しい人連れて来て。もしかして審査員してくれる人? そうよね、公平さという点を考えれば、見ず知らずの第三者の方が適任かもね。ソラじゃ、なんとなくハナにオマケしちゃいそう。それって、あってはならないことですもんね」

「失礼な。私はちゃんと公平に審査するよ。例え賄賂わいろを差し出されてもね」

「わたしゃ悪徳商人か何かか」


 ビシッ、と頭部にチョップ。このハナのツッコミは鋭かった。

 ここまで沈黙を保っていたミラさんが『怪しい』呼ばわりされたが、相変わらずフードを深めに被っていて顔がハッキリ見えないので、無理はないか。挨拶くらいは、とでも思ったのか、ミラさんはスイに会釈えしゃくした。


「あいにくだけどね、今はスイにつき合ってる暇はないの。私たち、理由わけあってガイラルディアに行かなきゃならないのよ。そこの、ミラさんって人のお手伝いでね。本当はソラが頼まれたんだけど、なんか不安だから私もついて行ってあげようかな~、と思って」

「後半ちょっと違うよ~」

「いいからいいから。そういうことにしてくれたっていいじゃない」


 ……まぁ、別にそれで私にデメリットが生じるわけではないだろうから、表向きはそれでいいか。


「ふーん。アンタ、相変わらず面倒見がいいのね。それにしても、今時あんな所に行くとか。言っとくけど、それにはつき合わないわよ。アンタたちで行ってきて。あんな所、もうコリゴリよ」

「なんかそれ、行ったことあるみたいな言い方」


 ハナが、お茶で口の中を潤してから言った。


「あぁ、話してなかったっけ。だいぶ前のことなんだけどね……」


 スイは、当時のことを話し始めた。

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