第25話 再会(1)
お邪魔虫を成敗した私たち一行は、より一層張り切って、中継ポイントに決めている町を目指して歩いていった。
小型のトカゲのような魔物と出くわした。
「また出たなー。……おっと、ソラは疲れてるだろうから、休んで休んで」
ハナが気を
「ではでは、サクッとやっちゃいましょうかねー」
準備運動のつもりで、右腕をグルグル回すハナ。
トカゲはというと、その場で息を吸えるだけ吸い込んだ。そして、
ボウッ!
炎を吐き出した。真正面に立っていたハナに、このままでは当たってしまう。
「わっ!」
ハナは左に
「きゃっ!」
ミラさんも斜め後ろに退がった。そこには私がいて──
グニャッ。
「痛ッ!」
なんと、私はミラさんに左足を踏まれてしまったのだ。ヒールの細い靴で踏まれるとそれなりに……なので思わず声が……。
「あっ、ごめんなさい!」
あぁ、やはり真剣に謝られた。
「大丈夫、これくらい。ノープロブレムよ」
幸い、炎を直接くらった者は誰もいなかったので、もうそれで良しとした。足の甲の痛みはまだ完全には引かないが。
何だか、急に面倒臭くなってきた。ハナはやる気あるようだが、何と言うか……誰かが戦っているところを見ること自体が面倒に思えてきた。殺伐とした空気を連続で吸いたくはなかった、というのが正解か。
……よし、ここは1つ、交渉でもしてみよう。
私はトカゲに近づいて、こう言った。
「ねーねー、ココは1つ、見逃してくれないかなー。そしたら何もしないからさー」
トカゲが唸る。試しに1歩右前に進んでみると、そいつも動いて道を塞いだ。それなら左から、となると、また通せんぼ。前進を何度か試みるが、なかなか通してもらえない。
これは……やはり戦闘は避けられないのかな?
私が困り顔でこめかみ辺りを掻いていると、突然トカゲは、太い右腕をブン! と振ってきた。手には鋭い爪が生えていた。これに引っ掻かれたら、相当痛いだろう。もちろん、当たらないように私は足を引っ込めたが。
「ココ通すだけだよ。簡単でしょーが」
しかし、私が足を出すたびに、トカゲは爪攻撃を繰り返す。
駄目だ、言葉が通じていないようで。相手が魔物だと平和的に事が進まない件、どうにかならないものか。
「はいはい、ソラはここまでねー。あとは私がやるからねー。アイスランツェ!」
1本の氷の槍が現れた。これもやはり、半端ないスピードだ。ハナの術は、どれもそうなのだろうか? トカゲはこれを避けきれなかった。左腕に突き刺さった。氷が徐々に広がっていく。やがて、範囲は狭いが地面まで凍らせてしまい、トカゲは自由に身動きがとれなくなった。ジタバタしたところで、氷が砕けることはなかった。
「はい、一丁上がり! なにも殺すことはないよね。これで充分でしょ。これくらいのレベルの奴なら、私にお任せってね♪」
「おー」
ぱちぱちぱちぱち。
私とミラさんは、小さな拍手を送る。
「あ、でも、次もし強そうなのが来たら、ソラ、お願いね」
「できれば来てほしくないけどね。とりあえずまぁ、りょうかーい」
私のささやかな願いが天に届いたのか、これ以降は何のハプニングもなかった。
カスタネアに到着して真っ先に行った宿屋の雰囲気は、可もなく不可もなく。それなりに美味しい食事と清潔なベッドで、休息は充分にとることができた。
翌朝、私たちは(宿に)併設されている、あまり広くはない食堂で、1日のスタートを切るためのエネルギーを摂取。その後、この町にもある冒険者ギルドに行ってみた。
赤茶色の屋根の平屋建てで、規模はアルトシティのギルドよりも小さい。ギルド名は『オレンジペコ』。中に入ると、柑橘系の果実のような良い香りがした。全体的に温かみのある色合いで、木のぬくもりが感じられる空間だ。懐かしいなぁ。
受付カウンターでは、ギルドマスターである妙齢の女性が、
「こんにちはー」
「はい、いらっしゃーい。あら? もしかして……ソラちゃんとハナちゃん?」
「そうでーす」
「お久しぶりでーす」
彼女とは、実に数年ぶりの再会だった。私もハナも、あの時より随分身長が伸びたので、ギルドマスターは大層驚いていた。
「うわ~、2人とも大きくなったわね~。そうよね、最後に会ったのって、ソラちゃんが10歳になってたかどうかって頃だったわよね、確か。へぇ~、時の流れって恐ろしいわ~」
私とハナは幼い頃、何度もカスタネアを訪れていた。王都とこの町を行き来している商人が、お父さんの知り合いにいる。その人の荷馬車に、荷物に囲まれながら乗って、連れて行ってもらったという思い出があるのだ。
私たちは来るたびにギルドに顔を出していて、女性(当時はマスターではなかった)はいつも、私たちの遊び相手・話し相手になってくれていた。先代の後を継ぐことは聞いていたので、私は、彼女の現在の立場に特に驚きはしなかった。マスターになってからは忙しい日々を送っていると思われるが、何年も会っていなかった私やハナのことを覚えていてくれていた。そのことをさりげなく言ってみると、
「こんな可愛い2人のこと、忘れるわけないじゃない」
なんて言われたものだから、私は顔を赤らめてしまった。
私たちはマスターに
熱いのでほんの少しだけ口に含むと、ほのかな甘味の他に、酸味と爽やかさも感じた。その正体を
気分が落ち着いたところで、マスターが話しかけてきた。
「ね、そんな恰好してるってことは、2人とも冒険者になったのね?」
「当たりでーす」
「ピンポーン」
私とハナの発言のタイミングが重なった。それが
私たちの活躍ぶりを聞きたいとマスターが言った。どちらが先に、あるいはどの話から聞かせてあげようか──私より経験の多いハナが悩んでいる。
そんな時、出入り口の扉が開く音がした。別に珍しいことではないので、気にせずそのままゴニョゴニョと相談を続ける私たちだったが──
「あ、ハナじゃん!」
中断を余儀なくされた。
気の強そうな少女が現れたのだ。
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