第11話 こうやって倒したい

「どうするの? いい作戦思いついたとか?」


 作戦──ではないんだな。


「言ってみろ。場合によっては、お前から剣を奪って、その首をはね飛ばしてやろうじゃないか」

「それ、こっちが言うセリフなんですけど」

「何だと……?」


 ゴブリンが私をにらみつける。かすかに「ひぃっ」と声をしぼり出したのは、対象外のハナの方。

 大丈夫。奴の注意はほぼ私の方に行っているから。


「……あぁ、ちゃんと言わなきゃ伝わらないよね」


 私は不敵なみを浮かべ、右手はふさがっているので左手で手刀の形を作る。それを自分の首の方へと持っていく。


「私が……もう1回言うね、『私が』よ。アナタの首をこう──」


 右方向から始まって左へと、1秒ほどかけてスーッと手を移動させる。その動きはまさに、首から上を胴体から切り離す行為を表すもの。後ろのハナにも伝わった。その証に彼女は、


「はいぃぃぃぃーー!?」


 絶叫とまでには至らなかったが、これは相当驚いているな。とんでもないことを言ってくれたな、とでも思っているのだろうか?


「ちょっ……ちょっとソラ!」


 ハナは私の肩をつかみ、


「あのね、ソラがそこそこ戦えるってのは、よーくわかりました。けどね! 今みたいなこと言ったら、あのデカブツ、怒るに決まってるじゃないのー! 命が惜しくないのー!? 撤回しよう! なかったことにしよう! 今なら謝れば許してもらえるかもよ!」


 謝る? 私が? 誰に……って、ゴブリンに? なんで?


「あぁ? 見間違いや聞き違いでなければ、お前がオレ様の──」

「わーー!! 違います違います! 決して……ッ、決してアンタの首をスパァーン! とかそんな……! この子ちょっと調子に乗っちゃっただけでして……マジでやろうとは思ってないはず……!」


 ハナが懸命に弁明する。


「だよね!?」


 え?


「ううん。冗談とかじゃなくて本当に……」

「コラァーー! そこは『はい』って言ってくれなきゃ! 私たち、最悪殺されちゃうかもしれないのよ!」


 ハナは私の頭をグイグイ押して謝罪させようとするが、これには抵抗したい。


「それはないって。……ちょっと、痛い痛い」


 私が困った顔をすると、ハナはパッと手を離す。そして、私の後ろに身を隠す。更に少しちぢこまったか。


「ね、もっと違う方法でもいいんじゃない? 別にさ、アレの首を取ってこいとは言われてないじゃない。こだわる必要性はないのよ。できるできないの問題でもないでしょ、そんなの」


 ハナの言うことはもっともだ。だが、私は──


「そうなんだけどねー」

「だいたい、なんであんなこと言ったのよ?」


 それはですねぇ──


「んー、言ってみれば……自己アピールかな。自分はこういうのを相手にこんなコトできちゃいますよっていう」

「よりによって、こんな恐ろしい奴で……」

 「ほう。それならオレ様も、もっと自分を売り込んでみるとするか。お前たちの死をもってな!」


 このゴブリン、仮に私たちを始末できたとしたら、更に悪事を重ねるつもりだろう。そう思い通りにはさせるか。


「お前のたくらみはもうわかっている。できもしないことをよく言えたものだ。ならばそうなる前に、お前のそのイカレた頭をブッつぶしてやる。覚悟するんだな!」


 魔物が動き出した。攻撃パターンは先程とほとんど同じだったので、回避するのは容易たやすいことだった。


「あ、私邪魔かも」


 ハナはそうつぶやいて、私から少し離れた。すきを見て彼女の方に目を移すと、何やら迷っているようなしぐさをしていた。

 彼女は私とゴブリンを交互に見ている。気のせいでなければ、今は引っ込めている右手で、狙いを慎重に定めている。

 魔術を撃ちたいのだろうか──?

 それはつまり、この戦闘に参加することを意味する。援護えんごしてくれるのであれば、ありがたい。だが、そうしたら、ゴブリンは確実にハナにも襲いかかってくるだろう。私が彼女をかばいながら戦うのは、別に構わない。それもやったことはないので、どんな感じになるのかは、あまり上手うまくイメージできない。ただ1つ、気をつけなければいけないのは、ハナに怪我けがをさせてはならないこと。万が一そんなことにでもなれば、私は泣いて彼女に謝るだろう。


「おかしいなー。こんなはずじゃ……」


 ハナが何か言っている。

 うむ、私のせいで間違いないだろう。

 人生だけでなく、冒険者としても私の先輩である彼女。それらしく振る舞っているよなー、とは思っていた。私と共に楽しい冒険者ライフを送るのを、ずっと夢見ていた。時には誰かを助けたり、逆に助けられたりなんてことも。そりゃ、いつも良いことばかりとは限らないだろうけれど……。

 それで現在、こんな状況。ハナからしてみれば、妙な方向に行っちゃっているのかな?

 そうだよね、初心者がいきなり高額の依頼を受けちゃったんだからね。


「でも待ってよ。ゴブリンでしょー?」


 そうそう。今回の敵であるこいつは、元々は下位の種族の代表的存在で、本来の姿であれば、少し慣れた冒険者ならうち負かせられるほど弱い。数多あまたいるうちの1匹が偶然、ちょっとした(……なんて言い方でいいのかな?)間違いで結構な力を得た。そいつが罪のない人間を困らせて、いい気になっているだけ。正直言うと面白くない。

 もしかしたらハナは、機会をうかがって私の手助けをしたいと思っているのかも。そうだとしたら、彼女への危険度が今より増すだろうが、私は反対はしない。ここぞというタイミングで、術の1つでもぶっぱなしてやればいい。きっと本音はそうしたいんだろうなぁ、彼女。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る