第3話 憧れの人から話を聞けたよ!(3)

「よっしゃあーー!」


 辺りに響く、歓喜かんきの声。

 この時に、ハルカさんはある発見をした。


◇ ◇ ◇ ◇ ◇


 何を見つけたのかと私が問うと、ハルカさんは、フフッとみを浮かべてから教えてくれた。


「その竜の口の中にね、小さな模様のみたいなものがあったのよ。あんな所に何だろう? って気になって。もしかしたら、何かしらの意味があるんじゃないかと思って、ちょっと考えてみたのよ」


 口の中に……ねぇ。


「模様って……例えば魔法陣みたいな?」

「ううん、そういう、ちゃんとした形の、というのとは違うわ」


 ハナの問いに、そう答えるハルカさん。

 なんだ、口の中から術を発するためにほどこされたものとは違うのか。では、おまじない的な何かだろうか? 見られたくなくて、わざわざ他人に悟られにくい箇所かしょに入れることを望んだとか?


「そこでね、ピンと来たのよ」


◇ ◇ ◇ ◇ ◇


 地竜の身体からだの外側には、硬い鱗がびっしり。武器や攻撃魔術で傷をつけるには、とてつもなく時間がかかる。だが、内側──それこそ粘膜なんかはどうだろうか。

 あれは元々ある模様などではなく、誰かによってつけられた不名誉な傷。だとしたら、ピンポイントにあそこを刺激すれば、こちら側が有利になるかもしれない──

 ハルカさんは、そこまで考えていた。そして、敵がまた口を開けたら確かめてみようと、身構えた。いつでもできるように。


「さあて、次はどこを斬り落としてやろうか? やっぱ足か? 前、後ろ、右か左か。好きな所を言っていいんだぜ。……おっと、お前はしゃべれないか」


 ガイさん、それではなんだか悪い人のセリフみたい。

 尻尾しっぽの断面を、剣先で軽くつついてみたら、プスリと軽く刺さった。痛みを感じた地竜が小さく口を開け、重い声を出した。

 ハルカさんは、ここで1つお願いをした。


「ガイ、もっと強く刺してみて」

「お? おう。……そらよっ」


 すると、更に深い所にまで剣が進む。地竜は尻尾を斬られた時と大差ないような、苦痛を訴えるような声を出さずにはいられなかった。

 痛い所を突かれた奴は、うまい具合に大きく口を開けた。やるならこのタイミングだと思ったハルカさんは、すぐさま駆けだした。地竜の顔──というか口腔こうくう内を目がけて突っ込んだ。

 剣を持った両手を引き、まさに一撃をくらわそうとしたその時。

 ハルカさんの正面、つまり敵の口の中が光った。ハルカさんは危険を感じて、しようとしたことを一旦やめて、横にんだ。

 シュバッ!

 一筋の太い光が、彼女を横切っていった。間一髪だった。ガイさんとレンさんも面食らった。


「ビックリした……こんな芸を隠し持っていたとはね」

「危ないところでしたね。こんなこともあり得るから、正面からめるのはやめておいた方がいいということでしょうか」

「いいえ、私はもう1度行くわよ」

「……何故なぜです?」


 レンさんが、まゆをひそめてたずねた。


「さっきわかったことなんだけど、コイツの口の中に傷みたいなものがあったのよ。もしかしたら、そこを攻撃することで、何かが変わるんじゃないかと思ってね。根拠はないわ。ただのカンよ。けどたぶん当たってるんじゃないかしら。傷に狙いを定めた途端、この化け物、私が何をするのかに気づいて……」

「その部分だけは何としても守る、という意味での、今の攻撃だったと?」

「そういうことなんでしょうね」


 ハルカさんたち3人は敵といくらか距離をとり、次はどうやって攻めるかを、数分にわたって話し合った。

 結果、口を開けさせるのはガイさんが同じ方法で、口への攻撃はレンさんが担当するということで合意した。

 身体の一部を切断されただけでなく、弱点も知られてしまった地竜は、怒りをあらわにしていた。荒く息を立て、何でも引きいてしまいそうな爪を生やした腕を大きく振ったり、自慢の大角で視界に入る者は残らず捕らえる気も満々だった。


「さっきまでとは様子が違うわ。気をつけて!」


 これに、男性陣は元気よく返事した。

 敵をなだめるのは不可能だと、皆思った。そのまま仕切り直しとするしかなかった。

 ガイさんが、敵の後ろに回り込んだ。1回目の時のようにうまくいけば──と思ってはいたが、凶暴さを増している奴に真正面からまた立ち向かおうとするハルカさんのことも心配──そんな顔を見せていたとか。

 地竜は、そのハルカさんに向けて爪攻撃を仕掛けてきた。が、空振りだった。もう一方の腕も伸ばしたが、ハルカさんは冷静にヒラリとかわしていった。あせっちゃっては、見えるものも見えなくなってしまうもんね。

 次は、トレードマークの長い角。どんなものでもつらぬいてしまうと言われているものを向けられても、落ち着いて対処した。かすりさえもしなかった。事実、ギルドに戻ってきたハルカさんたちの衣服には土埃つちぼこりがついていただけで、負傷の形跡はどこにも見当たらなかった(回復の術を使う人は誰もいなかったはず)。

 地竜には立派な牙もあった。だが、それによる攻撃は1度もなかったとか。口を開けることで、その中にあるものについて触れてほしくなかったからなんだろうな。でもね、ハルカさんたちはもう知っちゃったんだよね。

 何としてでも、もっと大きく口を開けさせたい3人。手っ取り早いのが、あの手段だった。

 地竜の尻尾が斬り落とされたとはいえ、残った部分は不自由しないほどの長さがあった。頻繁ひんぱんに振り回すので、ガイさんはなかなか1歩を踏み出せなかったらしい。怒りがいつしずまるのかなど、誰も知るよしがないわけで。

 硬いもの同士がぶつかり合う音がした。地竜の角を、ハルカさんが受け止めたのだ。押し合いが始まった。

 その時の地竜は、ハルカさんを止めることで頭がいっぱいだったそうで、彼女にばかり攻撃を集中的に仕掛けていた。ハルカさんは劣勢れっせいではなかった。男性陣が奴に痛い一撃をお見舞いできるように──そのチャンスを作ってくれていた。

 実際、ガイさんが少しずつ距離を詰めてきていた。ところが、そこでガクッとハルカさんのひざが折れた。


「!」


 攻撃の重みにえきれず、バランスを崩してしまったのだ。すぐに体勢を立て直そうとした彼女に、するどいものが向けられていた。

 ドスッ!

 嫌な音が、そこにいる者たちの耳に届いた。

 ハルカさん──ではなかった。では何だったかというと、やられたのは地竜の方で、ガイさんが再び尻尾を刺した音だったのだ。地竜は我慢することなく、またも叫び声を上げた。

 今だ! とばかりに、


「レン!」


 ハルカさんは、ひかえていた魔術士の名を呼んだ。


「わかりました!」


 自信たっぷりのレンさんが放った炎のうずは、口を開けたままの地竜の顔面に命中した。

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