第二幕『伝説』
祭のために特設されたゴミ捨て場で使用済みの使い捨て用品を処分した後、私達は神社を出た。
最寄りの横断歩道を渡ればすぐ、この祭りの会場のひとつである尾上池(おがみいけ)公園に到着だ。
どうやら公園の中で和太鼓の演奏が行われているらしく、その音が辺り一帯に響いていた。会場に近づくにつれ、空気の震えが大きく、激しくなっていく。お腹にズシンとくる力強い響きだ。同時に、人々のしゃべる声や屋台の雑多な音も耳に流れ込んでくる。
おかげで先ほどから隣で何かを訴えているらしい円の声が全然聞き取れない。
「池の方まわりたい!」
円が声のボリュームを上げたことで、やっとこちらに伝わった。
私はそれに頷き、方向転換する。来た道を少し戻って、池のある場所へやって来た。池のまわりをぐるりと一周できる遊歩道に入る。
灯籠の和やかな明かりに照らされた道中、円が言った。
「そういえばさ、一応これって『縁結び』のお祭りだったよね。」
そう言われてみればそうだった。
「あー……」
我ながら間抜けな声が出る。
そんなこと、言われるまですっかり忘れていた。
なんでも、祭の日にこの尾上池と、もう一つの会場である「
「なんか、会いたい人の名前を紙に書いて祭りの日に持っていくと、その人に会えるって噂だったよね。」
「そういえば、あったね。そんなの。」
そんなような話を、昔聞いたことがある。
「ま、私はそんな噂、全く信じてないけど。」
円がかなり罰当たりな発言をした。
かくいう私も、そんな根拠のありそうにない言い伝えレベルの話を信じているとは言い難いし、別にご利益目当てでこの行事に参加している訳では無いのだが。
しかし、なんとなくきっぱり否定する気にもなれず、曖昧に頷いておく。
「まぁ、うん……そうだね。」
夜が深まってきていた。
濃紺の空に浮かんだ白い月に、薄く雲がかかっている。
まわりの景色を眺めているうち、私はふと違和感を覚えた。
「……あれ?」
まわりには相変わらずたくさんの人がいて、公園の中が特に変化した様子はなかった。
それでも、確実に何かがおかしい。
「円……なんかここ、おかしくない?」
思わず隣の幼馴染みを振り返った。
その瞬間、私は目を疑う。
いつの間にか、彼女の姿が消えていた。
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